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放課後の教室。夕陽が差し込む窓辺に、緊張した面持ちの女子生徒が腰を下ろした。
指先を組んだまま、視線は机の木目をなぞるように動いている。
「……私、いつも誰かと比べちゃうんです」
小さな声が、空気を揺らした。
「テストの点も、部活の結果も。
友達が褒められてると、自分がちっぽけに見えて。
笑って『すごいね』って言うけど、心の中ではぐちゃぐちゃで……
そんな自分が嫌で、さらに落ち込んで。
終わりがないんです」
日下部は、机の角に肘をついたままその言葉を受け止めていた。
外のグラウンドからは部活の掛け声がかすかに届く。
「比べないほうがいいって分かってるのに、やめられなくて」
彼女は眉を寄せ、かすかに唇を噛んだ。
「自分が好きなことさえ、だんだん分からなくなる」
しばらく沈黙が流れ、日下部は椅子の背にもたれかかる。
「比べるのって、自然なことだと思うけどな」
落ち着いた声が、教室に広がる。
「人のこと見て、自分も動かされる。
それって悪いばっかじゃないだろ。
ただ、比べて苦しくなるなら、
その“基準”が自分のものじゃないってことかも」
彼女が少しだけ顔を上げる。
「たとえば、誰かより速く走るのが好きなやつもいれば、
丁寧に絵を描くのが好きなやつもいる。
そのどっちが上かなんて、誰も決められない。
でも学校って、点数とか順位で一列に並べるから
自分までその物差しで測っちゃうんだよな」
窓から吹き込む風がカーテンを揺らした。
彼女の表情が、ほんのわずかに緩む。
「だから、比べちゃったら、
“でも私が大切にしたいのはこれ”って
自分の好きなものに目を戻す。
それを繰り返していけば、
人の基準じゃなくて自分の基準が少しずつできてくる」
「……自分の基準」
彼女はその言葉をゆっくり反芻する。
日下部は軽く肩をすくめた。
「完璧に比べないなんて無理だし、無理に忘れなくていい。
でも、誰かのペースに引っ張られっぱなしじゃなく
“自分はこれでいく”って小さく決めるだけでも、
少し呼吸しやすくなるかもな」
教室に、ふっと静かな夕暮れの光が差し込んだ。