TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

放課後の教室。窓の外はオレンジ色に染まり、運動部の掛け声が遠くで反響していた。

相談に来たのは、二年生の男子だった。

制服のネクタイを少し緩め、机に突っ伏すようにして口を開く。


「……俺さ、大人になりたくないんだよ」


顔は上げないまま、くぐもった声が落ちる。


「進路とか将来とか言われても、なんもワクワクしない。

むしろ全部めんどくせぇ。

働くとか、責任とか、自由がなくなる気しかしない」


日下部は腕を組んだまま、窓の外へ視線をやった。

しばらく黙ってから、ぽつりと言う。


「……俺もさ、前は“早く大人になりたい”って思ってたんだよ」


彼は少し笑って、机の木目を指先でなぞる。


「でも実際近づくと、ぜんっぜん格好よくなんかないし、

ただ“できないこと”が“やらなきゃいけないこと”に変わるだけで。

正直、怖いなって思うこともある」


男子が顔を上げた。


「……日下部でも、そう思うんだ」


「思うさ」


日下部は短く答える。


「でもな、大人になるって、“自由が消える”んじゃなくて、

“自分で選んだ責任を背負えるようになる”ってことなんだと思う。

子どもだと、勝手に誰かが決めるだろ。

大人になると、怖いくらい、選べるんだよ」


男子は黙ったまま、目を細めて聞いていた。


「怖いけどさ、逆に言えば、

“これだけは守りたい”とか“これが好きだ”ってものを

自分で選べるのが大人ってやつじゃねぇかな。

責任っていう鎖みたいな言葉に聞こえるけど、

ほんとは“自分で持てる武器”みたいなもんだと思う」


教室に沈黙が落ちる。

夕陽に照らされた男子の横顔が、少しだけ柔らかくなった。


「……武器、か。

なんか、ちょっとマシに聞こえるな」


日下部は口元をわずかに緩めた。


「まあ、俺もまだ練習中だけどな」


loading

この作品はいかがでしたか?

14

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚