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健吾の「チッ」にドギマギ💓なんておかしい😅でも超絶真剣さが滲み出てる健吾の背中が垣間見えるようです👀 理沙ちゃんもリアルドキドキ💓の少なさが小説に出てる⁉️と気づいて…さぁこれから健吾ペースにハマって行く⁉️😊💗
理紗子は部屋に戻るとフーッと息を吐いた。
今日はなんだかめまぐるしい一日だった。
いつものようにカフェへ行き、コーヒーを飲んだついでにちょっと仕事をして帰って来るつもりだったのに、
なぜか銀座まで連れていかれ、高級な服を着せられておまけにランチまで……。それも初対面のスパダリ男とだ!
これって小説の中で起こりそうなハプニング?
まさに現代版シンデレラ?
そう思った理紗子は、バッグに入っていたノートとペンを取り出すとサラサラとメモを取り始める。
次々と浮かぶイメージに、メモを取るスピードが速くなる。
こんな非日常の事に遭遇すると様々なイメージが膨らんでくる。
全てが小説のネタになる。職業病とは恐ろしいものだ。
10分程メモ書きを続けた後、漸く理紗子はペンから手を離した。
最近小説の内容がマンネリ化していたのは、
自分の生活に刺激ある非日常が少な過ぎるせいだったのかもしれない。
理紗子はそう思った。
そして今度はスマホを取り出しメッセージを打ち始めた。
メッセージの送り先は、大学時代からの親友・山崎洋子だった。
【今夜飲みOK? 至急相談したい事あり!】
そう打ち込むとすぐに送信した。
理紗子の親友・山崎洋子は大学病院に勤めている。
病院で働いているが医師ではなく事務部に勤めていた。
事務部と言っても受付や会計といった部署ではなく総務課だ。
いわゆる病院内の人事や採用、給与などに関する業務を行う部署だ。
だから月末以外は残業がほぼない。
洋子は大学時代から『医者をゲットする!』と宣言していた通り、
見事に医者の恋人を見つけた。
洋子の恋人は同じ大学病院に勤務する内科医師で、二人は今婚約中だ。
理紗子は二年前洋子から恋人の秋山貴史を紹介された。
秋山は理紗子達よりも七歳年上の穏やかでとても優しい男性だった。
医者と言ったら遊び人でプレイボーイというイメージがつきものだが、
洋子の恋人はとても落ち着いた印象の真面目な男性だった。
何よりも洋子の事が可愛くて仕方ないといった秋山の態度は、
秋山が洋子にぞっこんだという事を証明している。
理紗子はそんな秋山の事を、今では兄のように慕っていた。
洋子は昔からしっかり者で姉御肌、理紗子とは違い男性を見る目もある。
だから、今夜は洋子に今日の出来事を全て話し、相談に乗ってもらおうと思っていた。
メッセージを送って二十分ほどしてから洋子から返事が来た。
【なんかあった? いつもの店に六時ね!】
【thank you! よろしく!】
時計を見ると、まだ一時間ほどあったので、
理紗子はコーヒーのシミがついたパンツを洗う事にした。
その頃、健吾もタワマン42階の自宅へ戻っていた。
このタワマンが出来た当初、健吾は一括でこの42階の部屋を購入した。
本当は最上階を狙っていたが、先約がいたので仕方なくこの階にした。
健吾は二十代に株で儲けた金で、あちこちにマンションやビルを購入していた。
だから今は不動産賃貸業の収入だけでも余裕で暮らしていけるのだが、為替のトレードをやめる気はなかった。
トレードは今の自分を作り上げるきっかけとなったものだ。
そして健吾は何よりもトレードが好きだった。
トレードは、長期間休んでしまうと感覚や腕が鈍ってしまう。
また世界の情勢や国内の経済の動きに常に敏感でいないと、すぐに置いてけぼりを食らい多大な損失を被る。
そんな決して甘くはない勝負の世界から引退する事は、現時点では全く考えていなかった。
だからどんなに忙しくても、毎日相場をチェックをする事は怠らない。
それは、東京時間が開く午前九時前からニューヨークタイムが終わる明け方まで続く。
健吾は部屋に入るとすぐにリビングの壁際に置かれているトレード用のデスクの前に座る。
机の上には六つのディスプレイを備えたパソコン、そしてその左右にはノートパソコンが一台ずつある。
健吾はテレビのスイッチを入れ、海外の経済情報番組へとチャンネルを合わせた。
そして早速現在の相場状況をチェックし始める。
今の時刻はロンドンタイムが始まる直前だった。
現在含み益が出ているので、ここで利確するべきか?
それともニューヨークタイムまで握り続けるべきか?
健吾は ポンド/円 の一分足、五分足、一時間足のチャート、そして証券会社から開示される注文状況をチェックし、
しばらくチャートの動きを見つめていた。
そして時計の針が午後四時を示すと、いきなりチャートが激しく動き始める。
どうやらロンドンのファンド勢が一斉に『売り』を仕掛けて来たようだ。
この時、健吾は『買い』のポジションを握っていた。
その含み益は1000万円近くになっていた。
(チッ! 東京時間の全否定で来やがった…)
健吾はそう呟くと、
慌ててスマホ三台を机の上に並べ、両手で次々と決済ボタンを連打していった。
健吾はポジションに入る金額がかなり大きいので、一度の決済では済まない。
いくつもの証券会社を使い分散して相場に入っているので、
こういう時は慌ただしく決済ボタンを連打しなくてはならない。
そしてその行動が少しでも遅れると、利益はどんどん減っていく。
健吾は両手で次々に決済ボタンを押していき、なんとか全ポジションの利益確定が出来た。
(今日は+880万か。もうちょっと早く決済出来たらなぁ…)
健吾は少し納得がいかない様子だったが、まあ仕方ないと思う事にして一旦トレードを終了した。
あとは、夜から少額でトレードをする予定だ。
今夜はネットの動画配信サイトにある自分の投資チャンネルでライブ配信を行う事にしている。
その時、視聴者に向けてリアルトレードの手法を見せる予定だ。
この配信を心待ちにしているファンは多い。
ライブ配信は午後八時から始まる。
それまでにすべての雑用を終えておかないとと思い、とりあえず健吾は汗を流そうとバスルームへ向かった。