TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

ゆうれい都とナギ

一覧ページ

「ゆうれい都とナギ」のメインビジュアル

ゆうれい都とナギ

30 - 第27話「お盆の盆踊り」

♥

5

2025年07月27日

シェアするシェアする
報告する

第27話「お盆の盆踊り」
夜のあかりは、ぼんやりと揺れていた。

輪のように並んだ提灯は、誰が灯したのかわからないまま空に浮かび、

その下では盆踊りの輪がゆるやかに廻っていた。


ナギは人混みのなかにいた。

ぬれたような空気。

地面にしみこんだ太鼓の音。

手拍子のかわりに、だれかの笑い声。


今日のナギは、紺とあずき色の格子柄の浴衣を着ていた。

髪はふわりと後ろで結ばれ、もみあげだけ頬に沿って垂れている。

首筋に、夜の湿気がすっと張りついていた。


「どこにいるの……?」

ナギはユキコをさがしていた。


でも──みんな、ユキコに見えた。


そして、どのユキコも少しずつ違っていた。




輪のなかに入る。

手をつなぐ。

足を出す。

一歩、まわす。

誰かの背中。誰かの肩。


「ナギちゃん」

背後から声がした。


ふりむくと、そこにいたのはユキコのような、ユキコではないような顔。


「わたし……なの?」

ナギが聞くと、相手は微笑んで手を差し出した。


「踊ろう」




踊りながら、ナギは自分の手のぬくもりを感じようとした。

けれど、指先は冷たく、そしてどこかで途切れていた。

足元も、まるで床のない舞台で舞っているようだった。


目の前の人の顔が、にじむ。

輪郭が、ぼやけていく。

名前が──思い出せない。


もしかして、自分の名前すら。




ナギは立ち止まった。

輪のなかで、音だけが進み続ける。

ユキコを、見失った気がした。


そのとき。

ぽん、と肩をたたかれた。


ふりむくと、そこには“本当の”ユキコが立っていた。


今日は、墨をうすめたような灰青の浴衣。

胸元のひとすじの刺しゅうだけが、月の形をしていた。

ユキコは黙って、ナギの手を取った。


「まぎれるって、怖いね」

ナギが言った。


「でも、ひとりじゃなければ、大丈夫」

ユキコはそっと答えた。




再び輪に入る。

今度は、手がつながっていた。

ちゃんと、重みがあった。

ふたりの歩幅が合うたび、胸の奥に灯がともる気がした。


その夜のスタンプは、輪の形だった。

にじまず、かすれず、静かに残っていた。

ゆうれい都とナギ

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

5

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚