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第十章 白霧山の彼方へ
第五話 泉での休息
空がゆっくりと白み始める。
夜の冷たい空気の中へ、遠くから鳥の鳴き声が響いてきた。
魔物との戦闘を終えた後。一行は再び焚き火を囲み、短い休息を取っていた。
火はもう小さくなり、朝靄の中で静かに揺れている。
ハヤトが空を見上げ、軽く息を吐いた。
「少し早いが、朝食を済ませて出発にするか」
「……まだ眠いわ〜……」
シュンタがぐったりした顔で呟く。
「お前、さっきまで普通に喋っとったやろ」
ダイチの突っ込みにシュンタは力なく答える。
「また眠くなってん……」
簡単な朝食を済ませ、一行は野営の片付けを始める。
焚き火跡へ土を被せ、荷物をまとめ、寝床を片付けていく。
少し離れた山道脇の木へ繋いでいた馬達は、昨夜の襲撃を免れて無事だった。
ハヤトは馬の様子を確認しながら静かに口を開く。
「これから先は本格的に山道へ入る」
遥か先。
白霧山の険しい稜線が、朝日に浮かび上がっていた。
「この辺りは危険な獣は少ないようだが……安全第一で進もう」
一同も真剣な顔で頷く。
昨夜の戦闘で、旅は決して安全ではないと改めて実感していた。
やがて準備を終え、一行は再び馬を走らせ始めた。
朝の山道は静かだった。
木々の間から差し込む光が、地面へまだら模様を落としている。
慎重に進みながら、しばらくして。
「お、泉や」
シュンタが指を差した。
山道の脇。
小さな泉が澄んだ水を湛えている。
「ここで少し休憩にしよう」
ハヤトの言葉に一行は馬を降りた。
馬達へ水を飲ませ、各々も泉の冷たい水で顔を洗う。
「つめたっ……!」
ダイチが肩を震わせる。
ジントは小さく笑いながら、手についた水滴を払った。
一方ジュウタロウは、静かに剣の手入れをしている。
透き通るような細剣の刃へ、朝の光が反射していた。
その横で、シュンタがふと思い出したようにダイチを見る。
「なぁダイちゃん」
「ん?」
「ダイちゃんさぁ、戦う時に雷と水みたいなん手から出しとるやん」
シュンタは身振りを交えて続ける。
「こういう水を使って攻撃!みたいなんできへんの?」
泉を指差す。
だがダイチは即答した。
「いや、オレはあの戦い方しかできん!」
「そうなん?」
「オレの知っとる水属性のやつはなぁ、こう、水自在に操って飛ばしたりしとったで」
シュンタが両手をひらひら動かす。
「それを大道芸みたいに披露してたんよ」
「へぇ……」
ジントが感心したように声を漏らす。
その時ハヤトが静かに口を開いた。
「魔力の扱い方は、人によってかなり違うからな」
大剣へ手を添えながら続ける。
「多くの者は、自分の属性に合った魔石付きの武器や杖を通して魔力を増幅させる」
「俺やジュウタロウもそのタイプだ」
「でも、ダイチみたいに直接魔力を操れる者もいる」
ハヤトは少し笑う。
「それだけ制御が上手いということだ」
「そうなんかぁ……」
ダイチが少し照れくさそうに頭を掻く。
すると、ジュウタロウも静かに口を開いた。
「オレも、手から直接氷を出したりは出来ない」
細剣を布で拭きながら続ける。
「だが、妹は小さい頃から得意だったな」
「へぇ〜!」
三人が感心した声を上げる。
「やっぱ才能とかあるんやなぁ」
「多分な」
ジュウタロウは短く答える。
するとダイチが、自分の拳を見ながら呟いた。
「でもオレも最初から、今みたいにできたわけちゃうで」
「昔は剣使って戦っとったし」
ジントは思い出す。
ラディスで、毎日のように剣の稽古をしていたダイチの姿を。
「ダイチは剣も上手かったけどね」
ジントが微笑む。
「今の戦い方の方が、ダイチっぽいよね」
「そうか?」
ダイチは拳へ薄く雷と水流を纏わせる。
「まぁ……今の方が、親から受け継いだ属性をちゃんと使えてる気はするな」
その言葉に、シュンタが自分の赤い髪を弄った。
「オレもオカンの火属性を受け継いどるけどなぁ」
赤い瞳を細める。
「ファイヤー!!とか、オカンみたいには全然できへんし」
「正直、自分の能力ってまだよう分からんわ」
「お前の母ちゃん、怒ると怖そうやな……」
ダイチが苦笑する。
するとシュンタは勢いよく頷いた。
「そうなんよ!!」
「ほんま何回か人生終わった思ったで!」
「それ絶対盛っとるやろ」
「盛ってへん!!」
そのやり取りを聞いて、ジュウタロウが小さく笑う。
「確かに、シュンタの母親は怒ると迫力があったな」
帝国へ行く道中の出来事を思い出す。
「な!? ジュウも見たやろ!?」
「見た」
ジュウタロウは淡々と頷く。
「あれは容赦なかったな」
ハヤトも笑いながら呟く。
「俺の母上も、怒る時は怖かったからな」
賑やかな声。
その様子を、ジントは楽しそうに眺めていた。
泉の水音。
木々を揺らす風。
仲間達の笑い声。
それらが不思議なくらい自然に胸へ溶け込み、ジントは小さく目を細めた。
コメント
1件
ああ、このエピソードいいですね。戦闘後の穏やかな空気がすごく沁みました。特に泉での雑談シーン、各自の能力のルーツや家族の話が出てきてキャラの背景がぐっと深まった感じ。シュンタの「人生終わった思った」には思わず笑ったし、ジュウタロウの妹が氷得意ってワードは今後に期待しちゃいますね。ジントが仲間の笑い声に目を細めるラスト、旅の温かさが伝わってきました🔥