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13 - 【第二章】第4話 出逢いの記憶(日向司・談)

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2023年09月27日

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次の日。今日は久しぶりの休みだったので、俺は昼まで寝ていた。本を読んだりして夕方まで過ごし、さあ夜は何食べるかと思った時、もらった割引券を思い出した。


(美味かったし、また行ってもいいかもな。開店時間は十七時だったはず)


時計は十六時半を告げている。開店同時には入れそうに無かったが、俺は出掛ける準備を始めた。



「いらっしゃいませ!お一人様ですか?」

昨日と同じく、あの小さな店員が出て来た。

「あ、昨日はどうも」と言うと、何故かキョトンとした顔をされてしまう。

「えっと、タオルを巻いた氷もらった者なんだけど」

「——あぁ!失礼いたしました、もう大丈夫ですか?」

「…… ああ。別に、最初からなんともなかったし」

「よかった!では、こちらへ。お一人様のようですし、カウンターの席でもよろしかったでしょうか?」

「大丈夫だ」


(…… ?何だろう今の反応は)


何とも言えない違和感を覚える。その様子を見ていた昨日の男の店員が、ニヤっと笑うのが目に入り少しイラっとした。彼の顔は、少し勝ち誇ったようにも感じられた。


比較的開店してすぐに入ったのに、入店してから十分も経った頃には席がもうほとんど埋まり、ビックリした。人気があるというのは本当だったらしい。昨日はあの時間に十五分程度で入れたのは運が良かったのかもしれない。

チラッと店内を見渡すと、せわしなくあの小さい店員が店全体をまわっている。別に担当の場所があったわけでは無かった様だ。

忙しなく働く姿を見て、桐生が彼女を『唯ちゃん』と呼んでいた事を思い出し、自分もそう呼ぼうと勝手に決める。本人を前にしてそう呼ぶかはまた別の話だが、心の中だけなら問題はないだろう。


俺の視界にあの小さな姿が入るたび、彼女は色々な客に話し掛けられ、笑顔で唯が対応していた。あれだけ客に対して愛想がいいと絡まれる事も多いだろうから、男の店員がやたらに警戒するのもまぁ納得出来た。

一人で食べているせいか、つい暇になり自然と唯に目が行く。よく見ると、かなり可愛い部類に入るなと思った。でもそんな事を誰かに言うと、残念ながら『幼女趣味だ』と思われそうでもあった。


持ってきた本を読みながら酒を飲む。

もうあまりコップに酒が残ってないなというタイミングで、唯が「追加はございませんか?」と、声を掛けてきた。

ビックリした。そんな所まで見てるのかと。まぁ偶然かもしれないが。

「えっと、どうするかな。そうだな、緑茶もらえるか?」

「冷たいのと熱いのがございますが」

「熱いので」

「かしこまりました!——おぉ…… 難しそうな本ですね」

首を傾げ、俺の本に興味深々といった目を唯が向ける。

「犯罪心理学の本だ。そんなずごく難しいもんじゃない。大学で習う程度のものだ」

「じゅ…… 充分難しいと思うんですが」

「いいや、興味さえあれば誰でも読めるよ。まぁ、辞書が必要な箇所もあるかもしれないが」

「そうなんですか…… すごいなぁ。あ、失礼しました。読書のお邪魔をしてすみません。すぐに注文の品、お持ちしますね」

昨日も思ったが、随分と話し掛けてくる店員だな。不快では無いからいいのだが。




それからというもの、何故か彼女が気になって、俺は何度も店に足を運ぶようになった。たまに桐生も誘ってはその店で酒を飲み、奴の方は社交的な性格なせいかすっかり店長とまで知り合いになったらしい。俺と言えば話すのは唯くらいで、その度に男の店員に睨まれる。

来店時には毎回色々な事に小さな違和感を覚えながらも、それでも、働く彼女の姿を見ているのは楽しかった。ミスも無く、おっとりしていそうなのに客をかわすのもしっかり心得ている。こういった店で働くのが向いてるタイプなんだろう。俺には無理だ、面倒でたまらない。愛想はよくないし、基本的に口数も少ない。少ない証拠をかき集めたり、色々な資料を検証したりしている今の仕事の方がずっとしっくりくる。サービス業が出来る奴を心底尊敬するよ。




ある日。仕事帰りにコンビにでも寄って帰るかと思い立ち歩いていると、俺の行こうと思っていた店の前で唯を見かけた。あの、毎度睨んでくる男性店員と、別の友人らしき数人と何やら楽しそうに話している。店の常連であろうが、店員のプライベートの邪魔をする気の無い俺は、何も見なかったかのようにコンビ二へ入ろうとした。

「——あれ?どうも!お仕事帰りですか?」

なのに、男の店員がニヤッと笑いながら俺に声を掛けてきた。


(こっちが敢えて避けたのがわからないのか?)


そう思うと、少しイラっとした。

「ああ、そっちはバイト帰りか?」

無視は悪いと思い、無難に返事をする。

「ええ、さっき終わって皆川先輩と一緒に帰る所だったんですよ」


(へぇ。唯は皆川(みながわ)という苗字だったのか、知らなかった)


新しく得た情報に、不思議と嬉しさを感じる。ほっこりした気持ちでいると「…… 知ってる人なの?」と、唯が彼に小声で訊いているのが聞こえ、ビックリした。


(何言ってるんだ?あんなに何度も話しているし、顔を見て案内もしてただろうに)


「やだな、先輩。常連さんじゃないですか」

彼の声に嫌味な色が混じる。まるで彼女がそういった反応をする事がわかっていたみたいに。

「うそ。ごめん、覚えてないよ…… 」

唯は小さく言うもしっかり聞こえている。悪いな、耳はいい方なんだ。

「いい加減お客さんの顔も覚えないとダメですよ?皆川先輩も」

そう言いながら唯の頭を彼が嬉しそうな顔で撫で始めた。

ムカッとする。何でかわからないが、とにかく気に入らない。ペコッと唯に一礼されはしたが、俺を見ている感じがしなかった。


(——そうか。何か感じていた違和感の正体は、これか)


唯は『客』としてしか俺を見ていなくて、客の顔までしっかり記憶する気がそもそも彼女には無いんだ。折角あれだけ気がきくのに、それってかなり致命的な欠点なんじゃないのか?接客業をやるのは。

そう思うも、わざわざ言う気にはなれない。俺が言った所で、結局は『客』の言葉なんて流して終わりだろうから。

「もう用がないなら、俺はこれで」

そう言って、俺は当初の目的であったコンビにの中に入って行った。

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