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### 第17話:短編映画の主役と、レンズの向こうの『透明な自分』生放送特番での伝説的なB小町との激突から一ヶ月。
C小町の名は「単なるイロモノ」という評価を完全に払拭し、勢いは加速する一方だった。
そんな折、事務所の応接室で私を待っていたのは、映画界で今最も注目を集めている新進気鋭の若手映画監督からの直筆のオファーだった。
「——短編映画の、主人公……ですか?」
テーブルの上に置かれた台本の表紙には、『透明な群青』と書かれている。
「ええ」
黒岩Pが禁煙の部屋で未点火の煙草を指で弄りながら、静かに頷いた。
「海外の映画祭にも出品予定の15分の短編映画よ。監督は『美裕のを持つ圧倒的な透明感と、その裏にある歪な存在感で撮りたい』って熱望してるの。役柄は……かつて事故で記憶を失い、自分の本当の性別や名前すら分からないまま、海辺の街で『自分』を探し続ける不確定な少年少女・ユウ」
「……ユウ」
台本を指先でなぞる。
前世の男だった私(榊博己)としての記憶。
トランスジェンダーとして生きることを決めた私(榊美裕)としての今。
そして、前世で事故に遭い、この『推しの子』の世界に転生したという、誰にも言えない秘密。
「私以外の誰がやるの、って役ですね……」
「そういうことよ」
黒岩Pが不敵に口元を歪める。
「2.5次元舞台で役者としての牙は見せた。今度はスクリーンの巨大なレンズを通して、あんたの『魂の素顔』を世界に焼き付けてきなさい」
**【撮影当日:海辺の古い港町】**
潮風が吹き抜ける防波堤の上。
カメラチームが静かに機材を構え、監督がモニター越しに私を見つめている。
「美裕さん」
監督が静かに声をかけてきた。
「この映画には、派手なセリフも劇的な展開もありません。ただ、あなたがそこに存在し、波の音を聞きながら『自分は何者なのか』を問いかける……その揺らめきだけを切り取りたいんです。演技をしないで、あなたの内側にある『記憶』をそのままレンズに晒してください」
「はい……」
衣装は、ダボついた白のシャツに擦り切れたデニム。
メイクもほぼノーメイクに近い、素の『榊美裕』だ。
カチンコが鳴る。
『透明な群青、シーン12、カット1——ロール、スタート』
静寂。
聞こえるのは、寄せては返す波の音と、風の鳴る音だけ。
私は防波堤の端に座り、遠く広がる群青色の海を見つめた。
(自分は……誰なんだろう)
記憶の底から、前世の男だった頃の感覚が蘇ってくる。
冴えない部屋でスマホを握り締め、誰にも認められず、画面の向こうの輝きを羨んでいた男。
交通事故の暗闇。
そして、美裕として生まれ変わり、鏡の前で自分の身体に違和感を抱きながら泣いていた夜。
(男としての自分も、女としての自分も……前世の自分も、今の自分も)
どれか一つが偽物で、どれか一つが本物なわけじゃない。
全部が私で、全部の傷があったからこそ、私は今こうしてアイドルとして、表現者として生きていられるんだ。
すっと、目から一筋の涙が頬を伝って落ちた。
悲しみじゃない。
自分という存在を、はじめてすべて肯定できたような、静かで圧倒的な透明な涙。
「…………っ、カット!!!!!」
監督の叫び声が、静かな海に響き渡った。
モニターを覗き込んでいたスタッフたちの誰かが、息を呑む音が聞こえる。
監督は立ち上がると、震える声で私に向かって拍手を送った。
「素晴らしい……! 完璧です、美裕さん! 映画の神様が降りてきたようなカットだ……!」
撮影を終え、控室テントに戻ると、スマホに通知が届いていた。
画面を開くと、黒川あかねちゃんからのメッセージだった。
『美裕ちゃん、映画の撮影どうだった? あなたがどんな映画を撮ったのか、完成したら一番に見せてね。映画館の大きなスクリーンで、あなたの「素顔」に逢えるのを楽しみにしてる』
あかねちゃんだけじゃない。
C小町のメンバー——灯ちゃん、沙也加ちゃん、そして玲奈ちゃんからも「撮影おつかれ!」「美裕ちゃんの映画、絶対メンバー全員で試写会行くからね!」とメッセージが入っていた。
私は海風に髪をなびかせながら、空を見上げた。
前世で憧れていた『推しの子』の世界。
その世界のスクリーンに、今度は私という存在が、一つの「作品」として刻まれる。
「見ててね、みんな。これが……私の生き様だから」
短編映画『透明な群青』。
それは、榊美裕という表現者が、世界に向けて解き放つ新たな奇跡の産声だった。
表向きには短編映画『透明な群青』で見せた美裕の圧倒的な「透明な光」に世界中が息を呑み、試写会で寄り添うC小町の絆が絶賛されている……その輝きの裏で、神城玲奈の「闇」は静かに、そして狂おしく深まっていた。
試写会場の最前列。
暗闇の中でスクリーンの青い光に照らされる美裕の横顔を、神城玲奈はひとときも目をそらさずに見つめていた。
スクリーンの中で、自分の性別も過去も削ぎ落とし、ただ「一人の人間」として静かに涙を流す美裕。
観客たちが息を呑み、隣で宵闇灯が密かに感極まったように吐息を漏らし、向井沙也加が「美裕ちゃん……すごすぎるよ……」と涙を拭う中で——玲奈だけは、全く違う熱量で胸を焦がしていた。
(あぁ……綺麗。綺麗すぎるよ、美裕ちゃん……)
玲奈の手が、膝の上で白くなるほど強く握りしめられる。
(私以外の全部を削ぎ落として、あんなに透き通っちゃって……。ダメだよ。あんなに綺麗になったら、世界の全員が美裕ちゃんを奪いに来ちゃうじゃん。……私だけのものにならないじゃん)
玲奈の内に潜むのは、かつて地下アイドル時代に「愛した光(推し)」を信じすぎ、傷つき、壊されて生み出された**純度100%の依存と狂愛**。
美裕が『性別を超えた光』として世界の頂点へ登り詰めれば登り詰めるほど、玲奈の胸の奥にある「この光を自分の手で壊して、永久に私だけのものとして閉じ込めたい」という歪んだ欲求が膨れ上がっていくのだ。
**【試写会後の楽屋】**
「美裕、映画本当に良かったわよ。これで海外の映画祭のノミネートもほぼ確実ね」
黒岩Pが満足そうに書類を整理し、康弘も「試写会の関係者からのオファーメールが止まらないよ!」と笑顔でスマホを操作している。
「みんな、ありがとう。二人がC小町を守ってくれてたから、私は映画に集中できたんだよ」
美裕が温かい笑顔をメンバーに向ける。
灯は「ふん、当然でしょ。次は私たちの番」と強がり、沙也加は「美裕ちゃん、ハグさせて〜!」と抱きつく。
その輪から少し離れた楽屋の隅で、玲奈は静かにスマホの画面を見つめていた。
画面に映っているのは、**大手匿名掲示板(2ちゃん風スレ)の裏スレッド**。
**【裏】C小町・神城玲奈アンチ&裏情報スレ★4**
**402 名無しさん@お腹いっぱい。**
玲奈って元地下の『ルシフェル』にいた神城だろ?
あいつ昔、執着しすぎた太客にファンサしすぎてストーカー化させて現場出禁になった奴じゃんww
**403 名無しさん@お腹いっぱい。**
マジかよww
過去の地下時代の闇をC小町に持ち込むなよ。
美裕ちゃんがせっかく映画で世界レベルに行こうとしてるのに、足引っ張るなよな。
**404 名無しさん@お腹いっぱい。**
玲奈のあの目、本物のキチガイの目だろ。
美裕の光に群がってるだけの寄生虫www
**405 名無しさん@お腹いっぱい。**
いずれ玲奈が美裕刺すか、炎上させてC小町終わらせる未来しか見えんわ。
スマホの青白い光が、玲奈の無表情な顔を照らす。
普通なら傷つき、怯えるような惨烈なアンチコメント。
しかし、玲奈の唇は……小さく、歪に吊り上がっていた。
「……ふふ。『美裕ちゃんを刺す』……? 『足引っ張る』……?」
玲奈はスマホを胸に抱きしめ、うっとりと目を閉じた。
「そうだよ……。美裕ちゃんが世界に行っちゃったら、私から遠くなっちゃう。だったら……美裕ちゃんが一番輝いてる瞬間に、私がその足を引っ張って、一緒に泥の中に落ちてあげなきゃ……」
玲奈の手が、衣装のポケットの奥に隠された**「あるもの」**に触れる。
それは、地下アイドル時代から彼女が肌身離さず持っている、過去のトラウマと狂気(アンチからの脅迫状や壊れたペンライトの破片)が詰まった小さな黒いお守り袋だった。
「待っててね、美裕ちゃん。世間が美裕ちゃんを称賛すればするほど……私が、美裕ちゃんの『唯一の闇』になってあげるから」
楽屋の喧騒の中、美裕はふと寒気を感じて振り返った。
「……玲奈ちゃん?」
「……なぁに? 美裕ちゃん」
玲奈は一瞬でいつもの「無表情で儚げな少女」の顔に戻り、天使のように首を傾げてみせた。
「ううん……なんでもない。次の新曲の練習、頑張ろうね!」
「うん! 私……美裕ちゃんのためなら、死ぬ気で歌うね」
美裕の放つ太陽のような「光」と、玲奈の内で肥大化し続ける「絶対的な狂気」。
B小町との共演、2.5次元舞台、そして映画成功を経て、C小町は最高の絶頂期を迎えると同時に、身内から崩壊しかねない最大の爆弾を内部に抱え込むことになったのだった。
コメント
1件
みぅ🤍🥀です。 第15話、読み終えました。 短編映画『透明な群青』の撮影シーン、本当に美しかった…。自分の全ての傷を認めて肯定するあの涙が、私の胸にも静かに落ちてきました。美裕ちゃんの「これが私の生き様」って台詞、痺れます。 でもその輝きの裏で、玲奈ちゃんの狂気がじわじわと深まっていくのが怖くて…。「私が美裕ちゃんの唯一の闇になる」って言葉、本当にゾッとしました。この先どうなるのか、続きが気になって仕方ないです。
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#【推しの子】
#SAKAMOTODAYS
おとうふ 紹介文読んで🙇
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りな
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