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王城の一室。そこには王がよく知る少女がふたり、仲良く過ごしている。
ひとりは王国いちの魔術士。もうひとりは王国いちの守りの要。山神マイと名乗る少女はたまにこうしてフラっと現れては、仲の良い友だちを訪ねている。
「ねえ、マイちゃん。私って居たら魔術でどんな敵もやっつけちゃうっすけど、居なかったら居ないでなんとでもなるっすよね?」
私は暖炉の前でくつろぐ山神マイちゃんにそう尋ねる。
「何とかは全然なると思うけど、居ないとマイが寂しいかな?」
マイちゃんは人がいる居ないを寂しさという指標で表現することが多いっす。その上で言えるのは、こういうシチュエーションで寂しくない、なんて言う事はないという事っす。
「まあ、それについてはごめんとしか言えないっすけど。私は……探しに行かなきゃならないんすよ」
「誰を?」
「ダリルさんっす」
マイちゃんの目が何かを思い出そうとして、諦めた。
「エイミアちゃんの知り合い?」
「まあ、そんなとこっす。割と薄情者で勝手に消えたっすよ」
物理的に。というか生物的に。あるいは概念的にってとこっすかね。
「ふーん。あてはあるの?」
「ないことはないっすね。知ってそうな人を……知ってるっす。とりあえずその人に会ってから、行けるか考えるっすけど、たぶん大丈夫なんすよね」
あの幼女はみんなとは違う世界の王らしいっすから。
「じゃあ、その人に会えたなら、マイも会いたいから連れてきてね」
「それは約束するっす。殴ってでも連れてくるっすよ」
「んふふ。エイミアちゃんがそう言うなら期待してるね」
マイちゃんの、何もかも知らないような笑顔に、私は絶対見つけて怒鳴りつけてやるんだって決意が固まるっす。
「バレッタさんはどうするっすか?」
「どう? それは私に行くかどうか聞いているのですか?」
「もちろんっすよ。それにエミールくんも」
「僕も?」
「そうっす。まあ、行かないって言っても連れて行くっすけど」
「え? それは──」
玉座に座るエミールくんは、今はもう立派に王様で、それなのに偉ぶることなんてなく、国民からの支持も篤い。バレッタさんはそんなエミールくんを陰で支え、ときに叱っていたりもするっす。
それもダリルさんがいたからこそっす。このふたりの分は、私じゃなくって本人に怒ってもらうっすよ。そのためにもこれから探す労力は惜しまないし、そのためにも使えるものなら使うっす。
だから私は返事することもなく、こう告げるっす。
「──“花園”」
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
エイミアはかつてのダリルのように、そう呟いて、次の瞬間には3人は王城ではなく花が咲き乱れる草原に立っていた。
「ここは……?」
「こっちっすよー」
エイミアは過去にもやってきたここを迷うことなく案内する。色とりどりの可愛い妖精たちがまとわりついて歓迎してくれている。
小さな足跡が何人分かと続くその道を歩いた先、あの時の生垣が見えてきた。ダリルとともに歩いた、最後の散歩みち。
エイミアは押し寄せる感傷の波に抗いながらエミールたちの先導をつとめるように歩く。
やがて甘い香りのする生垣を抜けて、その先にあるテーブルセットが視界に入る。
ダリルと歩いた時にはそこでとんでもない目に遭ったと思い返し、それさえもが目頭を熱くさせる。
歩き、近づくほどに鮮明になる景色。
そこには、訪ねてきたエイミアでさえも思いがけない者が思いがけない姿でくつろいでいた。
「未知の世界にでも旅立つ覚悟だったっすのに、それならさっさとくればよかったっす」
エイミアと遅れてきた2人の視線の先に居たのは、愛らしい幼女とティータイムと洒落込む1人の少年。それは3人ともが知らない少年ではあったが、3人ともが別々によく知っている少年であった。
「おお、よく来たの。ほれ、話していたお主の仲間よの」
振り向いた少年は3人を見て、優しい笑みを浮かべる。
「ああ、会いたかった。初めまして……ダリルと言います」
それは3人が良く知る男の若返ったかのように縮んだ姿で、初対面の挨拶をしてきた。
「なるほど、キスミ様……今はそういうことですか」
「キスミさんはやっぱり凄いなぁ」
2人とも再会したからなのか、この精霊界がそうさせたのか、記憶を取り戻したようだ。だが1人……。
「初めましてじゃないっすっ! 私とダリルさんはずっと! ずっとっ──!」
そう言ってうさ耳は駆け出して戸惑う少年ダリルに抱きついて離さなかった。我慢していた涙も、想い続けた心ももうとまらない。
突然の熱烈な抱擁に押し倒され、少年は戸惑いはしたが、胸の中で泣きながら笑顔で喜ぶ少女に、少年ダリルは微笑みその頭を優しく撫でてみせた。