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第6話 伝承は固定、気温は変動
正式な事故報告書が完成した。
安全確認担当者が、関係者を前に読み上げる。
「結論から読みます。《伝承整合要件、降臨任務の必要性、任務者の適性に問題なし》」
仙人が胸を張った。
「ほら」
「まだ続きます」
「《高温環境下における降臨相の身体負荷評価が不足。過年度の無事故実績を根拠とし、最新の人界気象条件を危険度評価へ反映していなかった》」
担当官が、黙って視線を落とした。
「さらに、《任務者が数十年にわたる身体負荷を申告せず、任務完遂をもって異常なしとしていた》」
今度は全員が仙人を見る。
「……そっちは俺か」
「そっちも、です」
景陽は仙人へ向き直った。
「今後は、暑い時も寒い時も、身体に負担を感じたら申告してください。くれぐれも、修行で解決しないでください」
「まだ何も言ってないだろ」
「言われる前に分かりました」
「私にも分かった」
担当官まで頷く。
「お前まで分かるな」
安全確認担当者が報告書をめくった。
「担当官は安全管理研修と再発防止報告書の提出。修了まで、単独での任務配置権限を制限します。任務者には体調申告の再指導を行います」
「俺にもあるのか」
「数十年、黙っていたので」
「報告書は?」
「担当官だけです」
「よかった」
「喜ぶな」
担当官が低く突っ込んだ。
来年度からは、任務前に人界の気温、湿度、日照を確認し、降臨相への負荷を再評価する。任務中の補水手段を確保し、異常時には即時帰還。冷却香と冷気術は、伝承再現の一部として正式に組み込まれることになった。
灯台調整員が、最後の項目へ確認印を押す。
「冷気に関する記録との整合も取れています」
「安全になったうえに、怨霊としての完成度まで上がった」
仙人は満足げに頷いた。
「最後に、《前年に問題がなかったことを、単独の安全根拠としない》」
安全確認担当者が報告書を閉じる。
「伝承は固定されていても、人界の環境は変動します。任務者の我慢も、安全根拠にはなりません」
「多少の暑さくらいは……」
「素直に聞け」
担当官に遮られ、仙人は渋々口を閉じた。
「以上の対策が完了すれば、来年度も同じ任務者による降臨を認めます」
仙人と担当官が、同時に顔を上げた。
「来年も、俺でいいのか」
「適性に問題なしと、最初に読み上げました」
「そうだった」
仙人が担当官を見る。その目にはもう、先ほどまでの不服そうな色はなかった。
「来年も成功させるぞ」
「ああ。その前に、お前は体調申告の指導だ」
「お前は報告書だろ。頑張れ」
「数十年分の『暑かった』を書かせるぞ」
「それは勘弁してくれ」
コメント
1件
第52話、ちゃんと読了しましたよ。 事故報告書の読み上げという形式で、前回の“暑さバトル”をきっちり総括&制度改善に落とし込んだのがいいですね。『伝承は固定、気温は変動』というタイトルが、この話の本質を一言で表していて、構造的に好きです。 「来年も俺でいいのか」と確認する仙人と、「適性に問題なし」と最初に言ってたでしょと返す流れに、なんだかじんわりしました。あと「数十年分の『暑かった』を書かせるぞ」という最後の脅し(笑)も、彼らの関係性が伝わってきて、とても良い温度感だなと。