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#サイコホラー
れい
夜のグラディウス。
空は黒く沈み、風が石畳を撫でていた。
だが――
静かなのは、最初だけだった。
ドォンッ!!!
轟音。
広場の一角が爆ぜる。
石畳が砕け、炎が噴き上がった。
悲鳴。
逃げ惑う住民。
建物の窓が震え、瓦礫が崩れ落ちる。
「始まったか」
カイルが静かに目を細める。
その背後。
白銀騎士団が一斉に武器を抜いた。
銀の刃が、夜に並ぶ。
「総員、配置につけ」
短い命令。
だが、それだけで空気が変わる。
「市民の避難を優先しろ」
「敵主力は俺たちが抑える」
騎士たちが散開する。
統率された動き。
迷いがない。
その瞬間。
広場の奥から、ゆっくりと影が現れた。
瓦礫を踏み潰しながら歩いてくる。
血のような紫髪。
片目を走る深い傷。
大柄な体躯。
その男が現れた瞬間、周囲の空気が重く沈んだ。
ゼルヴァン・グリード。
口元が、愉快そうに歪む。
「……へぇ」
低い声。
「随分、いい匂いがすると思ったら」
ギチ、と紫黒の魔力が腕に絡みつく。
鉤爪が形成される。
「王国の騎士様か」
騎士たちの空気が張る。
だが。
カイルは一歩も引かない。
長剣を静かに抜く。
銀の刀身が、炎を映した。
「冒険者狩り、ゼルヴァン・グリード」
「王国騎士団団長として、お前を拘束する」
その言葉に。
ゼルヴァンは数秒、黙ったあと――
吹き出した。
「拘束?」
笑う。
肩を震わせるほどに。
「ははっ……!」
「いいねぇ、それ」
バキィッ!!
地面が砕ける。
ゼルヴァンの姿が消えた。
「団長!!」
リシアの声――
より速く。
ガァンッ!!!
凄まじい衝撃。
カイルの剣と、紫黒の鉤爪が真正面から激突していた。
衝撃波で石畳が吹き飛ぶ。
周囲の窓ガラスが砕け散る。
ゼルヴァンが笑う。
「いい反応だ!!」
カイルの表情は変わらない。
「……速いな」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
ギギギ、と刃が軋む。
次の瞬間。
ゼルヴァンが強引に力を流した。
爆発。
カイルが後方へ滑る。
だが足は止まらない。
同時。
「行くぞォォォ!!」
ガルドが突撃する。
大剣が暴風のように振り下ろされた。
ズドォンッ!!
地面が陥没。
しかし。
ゼルヴァンは笑ったまま後方へ跳ぶ。
「デカいな、お前!」
「テメェもな!!」
ガルドが吠える。
その横を光が走った。
セラ。
無数の魔法陣が展開される。
青白い光。
空気が震える。
「撃ち抜いて」
次の瞬間。
轟ッ!!!
高位魔法が一帯を飲み込む。
爆炎。
熱風。
敵集団が吹き飛ぶ。
だが――
炎の中。
ゼルヴァンは立っていた。
身体の一部を焼かれながらも、笑っている。
「最高だ」
紫の瞳が細まる。
「やっぱ“強い奴ら”は違う」
その時。
カイルが静かに剣を構え直す。
周囲の騎士たちも陣形を完成させていた。
白銀騎士団。
王国最強戦力。
対するは。
狂気に染まった“狩人”たち。
風が吹く。
炎が揺れる。
ゼルヴァンが、獣のように笑った。
「喰らい尽くす」
カイルの瞳が細まる。
「……総員――」
その瞬間。
「団長、待て」
低く響く声。
前へ出る巨体。
ガルド・バルディウス。
大剣を肩に担ぎ、獰猛に笑う。
「俺の隊の名前、忘れたか?」
ギリ、と地面を踏み締める。
「“特攻部隊”だぜ!」
騎士団の空気が、一瞬だけ荒々しく変わる。
ガルドは大剣をゼルヴァンへ向けた。
「おいデカブツ!!」
吠える。
「タイマン張れやァ!!」
空気が爆ぜる。
ゼルヴァンの口元が、ゆっくりと吊り上がった。
「……はは」
肩が震える。
「いいねぇ、お前」
紫黒の魔力が噴き上がる。
「最高じゃねぇか!!」
ドンッ!!!
二人が同時に地面を蹴る。
激突。
大剣と鉤爪。
衝撃で石畳が吹き飛び、周囲の建物が軋む。
ガルドが笑う。
ゼルヴァンも笑う。
まるで怪物同士の殴り合い。
その光景を見ながら、カイルは静かに剣を構えた。
「……全隊」
銀の刃が前を向く。
「制圧開始だ」
次の瞬間。
グラディウス全域が、戦場へ変わった。
一方、その頃――
地下水路。
湿った空気が肺に絡みつく。
水滴が、ぽたり……ぽたり……と暗闇へ落ちていた。
狭い通路。
石壁には古い苔が張り付き、腐臭が微かに漂っている。
足音だけが響く。
白銀騎士団地下部隊。
先頭を歩くのはリシア。
その後方にレイン。
ユナ。
ドラン。
そして最後尾。
アルド。
誰も口を開かない。
空気そのものが、妙に重かった。
ユナが小さく舌打ちする。
「……おかしい」
「気配が薄すぎる」
リシアは周囲を警戒したまま問う。
「罠か?」
ユナは眉をひそめ、周囲の闇を睨む。
「……いや、違う」
小さく首を振る。
「もっとこう……なんて言うんだろ」
指先でこめかみを掻く。
「霧みたいなんだよね」
リシアが視線だけ向ける。
ユナは続けた。
「魔力探知機も特に異常はない」
腰に下げた小型魔具を軽く叩く。
淡い光は正常を示したままだ。
「敵の反応も出てないし、罠の魔力も薄い」
「でも――」
ユナの声が少し低くなる。
「何かで“覆われてる”感じがする」
沈黙。
ドランが周囲を見回した。
「探知妨害か?」
「そこまで単純じゃない」
答えたのはアルドだった。
壁にもたれたまま、暗闇を見ている。
「これは“隠してる”んじゃない」
静かな声。
「最初から“見えなくしてる”」
その言葉に、リシアの眉が動く。
「……どういう意味?」
アルドは少し考えるように目を細めた。
「例えば霧の中に立ってるとする」
「向こうに何かあるのは分かる。でも輪郭が掴めない」
「今の感覚はそれに近い」
ユナが小さく息を呑む。
「……だから気配が“薄い”のか」
アルドは頷かない。
ただ、暗闇の奥を見たまま呟く。
「いや」
一拍。
「“こっちを見ながら”、隠れてる」
その瞬間。
地下水路の空気が、ぞわりと粟立った。
誰も動かない。
水滴の音だけが響く。
ぽたり。
ぽたり。
レインが静かに二刀へ手を添える。
「……いるな」
低い声。
今度は確信だった。
気配は掴めない。
だが、“視線”だけがある。
暗闇の奥。
どこか。
あるいは――全部。
リシアが短く指示を飛ばす。
「隊列を狭める」
「ドラン前衛、レインは遊撃」
「ユナ、索敵を切るな」
全員が即座に動く。
その中で。
アルドだけが動かなかった。
壁際に立ったまま、暗闇を見ている。
ユナが振り返る。
「アルド?」
返事はない。
数秒後。
アルドがぽつりと呟いた。
「……趣味悪いな」
直後。
カラン。
どこかで何かが転がる音。
全員の視線が動く。
暗闇の奥。
何かが、揺れている。
ランタン。
古びた灯りが、ゆらゆらと揺れていた。
誰も持っていない。
なのに。
そこにある。
ユナの顔が険しくなる。
「さっきまで無かったよね、アレ」
「近づくな」
即答したのはリシア。
だが。
ふっ――
ランタンの火が消える。
闇。
完全な暗闇。
その瞬間。
「ッ!!」
レインが横へ跳んだ。
ギィンッ!!
金属音。
何かがレインのいた場所を裂いた。
石壁が深く抉れる。
速い。
見えない。
ドランが前へ出る。
盾を構える。
「来るぞ!!」
直後。
ヒュッ!!
闇から無数のワイヤーが走る。
ドランの盾へ突き刺さる。
火花。
ユナが短剣を抜く。
「上!!」
天井。
そこに、一瞬だけ“人影”がいた。
逆さまに張り付く黒い影。
紫の瞳だけが光る。
笑っていた。
「うわ、反応いいなぁ」
軽い声。
ロビンフット。
次の瞬間には消える。
レインが追う。
風のような速度。
だが。
「っ……!?」
止まる。
気配が消えた。
完全に。
リシアの目が鋭くなる。
(消えた!?暗殺タイプのスキルか?)
その時。
アルドが静かに口を開く。
「レイン」
短い呼びかけ。
「右後ろ」
反射的にレインが身を捻る。
ドスッ…
鈍い音。
レインのいた場所。
石壁に、黒い矢が深々と突き刺さっていた。
あと一瞬遅れていれば、首を貫かれていた。
ロビンフットの片目が細まる。
「……へぇ」
驚いている。
「見えてるんだ」
レインが後方へ飛び退く。
汗が一筋、頬を伝った。
今の一撃。
完全に死角だった。
なのに。
アルドだけが気づいた。
ロビンフットの視線が、ゆっくりアルドへ向く。
空気が変わる。
「君さぁ」
楽しげな声。
「ほんと、何者?」
アルドは答えない。
ただ。
暗闇の中で、その瞳だけが静かに細められる。
「……お前こそ」
低い声。
「そこら辺の魚じゃなさそうだな」
一瞬。
ロビンフットの笑みが止まる。
地下水路に、水音だけが響いた。
やがて――
「はは」
小さく、笑う。
「それ、初めて言われたかも」
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