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「バレッタ、エミールを頼む」
「……はい」
コツ、コツと僕の前に現れた足音の主は、僕を庇うようにして奴らの前に立ちはだかる。キスミさんがここに来た以上、奴らの未来はもうないだろう。けど、それは、引導を渡すのは僕で有りたかったのに──。
「エミール、落ち着いて、楽になさい。少しでも進行を遅らせることしか出来ませんが……キスミ様ならすぐに終わらせてくれますわ、きっと」
これが普通の魔術ではないことは、受けた僕なら分かる。これは巨大な呪いの装置。なんでこんなものが造られていたのか。全てを拒絶するかのようなこの呪いは僕の命を退けようとしている。治癒ではどうしようもない。呪いの本体を無くさなければ。
「何だ貴様は! そのホビットの仲間か⁉︎」
「何だろうと関係ないわっ、そいつらは侵入者よ! クリスタルよ、そいつらを殺せ!」
僕を襲った攻撃が、キスミさんにも襲い掛かる。
それはとてつもない速さで飛来しキスミさんに直撃してしまった。
「キ……ヒュー……」
僕はもう声さえ出せない。キスミさんは⁉︎
「あはは! 私たちに逆らうような奴らは! 皆殺しよおぉ!」
あぁ……だめだったか。僕は目を閉じて諦めてしまおうとした。
ボッ……と、火が着く音に目を開けると、変わらずそこに立つキスミさんがいた。キスミさんは何かを咥えて大きく息を吸ったかと思うと今度は白い靄を吐き出した。
「これはタバコって言うんだが、こっちで吸うとどうも魔道具扱いらしくてな。希望って言う名の魔道具。俺はこの世界に願いを受けて来てしまったんだ。その俺が助けたお前に絶望させて終わらせるなんて事はできないよな」
キスミさんはそう言って吸い終わると、全身からとんでもない量の魔力を噴き出してみせた。
「な、何よあれ! なんで生きてるの⁉︎」
「それどころかさっきのが効いていない、刺さりもしていないなんて」
「それにこの圧は……これがまさか魔力だとでも言うのか⁉︎こんなデタラメな! これではまるで!」
まるで、何なんだろうか。
「けどこの魔道具は全てを拒絶する! 私たち以外の全てを! あいつが何をしようとも無駄なのよ!」
キスミさんの膨大な魔力の圧も、実際奴らの手前で何かに遮られている。見えない壁でもあるかのように。
キスミさん……一体どうするつもりなんだ?
そうして見たキスミさんの手には鞭が握られていた。僕にくれたものと同じムチが。
「エミール。お前は強くなった。俺の力の一部を受けて、な」
一部。これからキスミさんがそのムチで何をするのか。
僕に何を見せてくれるのか。