「それじゃあ私の予想を話すけど、さっきの特殊個体モンスターの件と自警団の行方不明事件は繋がってると思うのよ。」
「ほぉ?」
「まぁ、ちょっと考えればわかるけどその特殊個体モンスターが現れた時期っていうのは自警団の方々が行方不明になった時と同時期であるということ。で、特殊個体モンスターは数こそ少ないがそっちをメインに対処しないといけないくらいには厄介になってること。」
「繋がりはゼロじゃないだろうけどどう繋がるのかが分かんないんだけど。」
「これは本当に私の予想よ?他のゲームとかの知識があるから思いついたに過ぎないものだけど、多分その特殊個体モンスターって行方不明になった自警団の人達じゃない?」
「はぁ?それマジで言ってる?」
「確証は無いけど、時期が被ってることとさっきのサハラさんの話曰く希望があれば外回りもやらせるって話。あれって本人にモンスターと戦うだけの能力があるからこその志願じゃないの?」
「確かに…。ちょっと他の人よりも剣が使えます程度じゃ志願するまでには早々こぎつかないもんね。」
「そういった確かな実力を持つ人達をサーチして外に連れ出す。外に出れば他の自警団からの監視の目だけでなく街の人すらも欺くことが出来るわけだ。後はクエストと称した拉致をしておしまいなんだろうね。」
「真っ黒じゃんこのギルド…。」
「ただ疑問としては今私らはそういった予想を立てて行動してて、お相手さんもそれを察して招き入れてるはずだが一向に仕留めに来ないところかな。」
「ギルドのしかも裏方ならいくらでも揉み消せるもんね。」
「それにあのギルド長であるサハラさんだっけ?彼の言動行動は演技ではなく芯からこの事件に対して対応してる人間の姿だった。仮にあれが演技だとしたら人間を超える感情の表し方だよほんと…。」
「そっか、一応サハラさんも思いっきり人の名前だけどNPCでAIによる受け答えなんだもんね。」
「メタ的なことを言うとそうなるけど、でもそれが出来るならこのゲームどっちの意味でも恐ろしいよほんと……。」
そんな会話をしてからさらに数分後再び部屋の扉がノックされおそらく簡易的ではあるがまとめられた資料を持ってサハラという男が入ってきた。
「急遽作ったものなので拙いものになりますがこれでよろしいですか?」
「いえ、とんでもない。初対面のしかも旅人なんて言う怪しい私達にここまでしてくださって感謝してます。」
「お恥ずかしい話ではありますが今は猫の手も借りたいほど私達も手一杯なので…。」
ミーシャがサハラさんと会話してる横で持ってきてくれた資料の束の一部分を手に取りサラッと目を通していく。
「自警団の方々って年齢や性別による制限がないんですか?」
「一応年齢は15歳以上となってます。男女による制限はなく、実力と街を愛すという理由があれば自警団自体は入れるようです。」
「そうなんですね。」
ペラペラと一人一人のいわゆる履歴書のようなものを見ているが顔写真付きのその紙には明らかに年齢に対して見た目が若い人がちょいちょい見られていた。
書類上では17と書いてるがその横の顔写真的なものは明らかに12、とかまだ幼さが垣間見えるものもあった。
「 ベルカトラ・アトラ、15歳の女の子。特技は初級魔法…。マグレル・カフカ、22歳の男性、特技は短剣を用いた戦闘及び隠密…。ミーナ・ミスカミ、20歳の女性。特技は探知魔法……。若い人も多いな。」
「私が見てる方はもう少し年齢が高い人が多いね。
カルマータ・ギルス、27歳の男性。特技は自己強化魔法及び体術(独学)。ファストラ・セクルト、32歳の男性。特技は『聖教 アクトマス』直伝剣術。ルミナス・ハスペナス、29歳の女性。特技は『聖教 アクトマス』直伝聖属性魔法学。こんなのばっかりだ。」
「サハラさん。この聖教アクトマスとは?」
「遠方の地に本拠地を持つ宗教団体です。厄災が世界を襲い希望をなくした人々を救うために作られたと聞いてます。」
「だいぶきな臭い集団ね?」
「ですが、確かな力があり魔物が嫌う『聖属性』を扱える騎士様や神官が仕えており、実際に彼らが構える本拠地付近の魔物の住処は浄化されそこを人々が開拓し住居を設けていると話は聞いてます。」
「そんな結構強い人達がこの街にも居たんだね。」
「けど、今持ってきてもらったこの資料というかは全部行方不明者なんでしょ?」
「……はい。彼らの所在は未だに掴めておりません。」
「大人はともかく20歳未満の子達が行方不明はまずいよね…。」
「当たり前だけど年齢関係なしにみんな家族がいるだろうし、20歳未満に至ってたきっとその家族の反対を受けてなお志願した人たちだろうからね。」
「…不甲斐ないばかりです。どれだけ謝罪しても許されないことだとわかっているのでせめて…せめてわたくしどもはこの事件を解決し弔いこの悲劇を繰り返さぬよう行動で示すしかないと思ってます………。」
「……そうね。そうする他ないでしょうね。」
(それにしても年齢制限が最低値は決まってるのに最高値は決まってないのなんでだろう?自警団に限らず正直こういう事って動ける人間の方が重宝されるからなるべく若い人を取ると思うけど……。)
そう思いながらまたペラペラと資料の束をめくっていく。
アムナ・イーシス、63歳の女性。特技 魔法に関する知識主に炎や水などの基本となる攻撃魔法。
カルカタ・サムシャイル、70歳の男性。特技 『サミハラ流剣術』会得による剣士、及び講師。
(………なるほど?お年寄りの中にはこういった生きた歴による経験値から知識という形で補助できるのか。だから上を決めてないのか。確かにそれなら若くして入った子も力を付けることが可能になるわけだ。そしてそれが上手く行けばギルドの手を借りなくても自警団だけで事足りるようにもなるし、ギルドとしても所属しているギルド員達の戦力増強にも繋がると判断したのか……。)
「…ねぇサハラさん?」
「なんでしょうか?」
「分かる範囲、もしくは答えられる範囲で構わないですがそのイレギュラー的な魔物達に関する情報なんかはないんですか?」
「一応報告書がありまして、念の為そちらも数種類程度ですが早急に用意できたものがあります。こちらですね。」
サハラはミーシャにその報告書数枚が重なってる紙を渡す。それをミーシャが受け取り1枚1枚確認していく。そして少し難しい顔をし重い息を吐いたあと言葉を紡いでいく。
「………うん。認めたくないけどやっぱりか」
「、てことは……」
「そういう事になるわ。」
「一体何が分かったのですか?」
「酷な現実をサハラさんに突きつける形になります。覚悟してください。」
「…あぁ。」
「先ほど受け取った報告書を拝見させてもらいました。そこには相手が誰であったか、どんな見た目でどう言った行動をとったのか、
そしてそれと相対した報告書を書いた人物はどう言った感想を抱いたのかまでしっかりと読ませてもらいました。その結果……。」
「なにが……」
「特殊個体モンスターと言われてる魔物はほぼ確定で行方不明者であると断言していいでしょう。」
「なっ!?いくらなんでもその発言は冒険者とはいえ許されない…!」
「私だってこんな発言したくないですが事実としてここにあるんです。例えば渡された時に表紙になっていたこの報告書。」
「……特殊個体のゴブリンですね。」
「この報告書にはこのように書いてありました。『他のゴブリンよりも少し知性を感じられた。普段は群れを成して小隊として行動するゴブリンでざっくり分けても前衛のナイフを持つものと粗い作りの弓兵のスリーマンセルで襲ってくるケースが多いが、今回退治したゴブリンは前衛であるナイフ持ちがなかなか攻撃してこず、弓兵ばかりに攻撃させこちらの陣形が崩れた時にのみ前衛の者が襲ってこなかった。』と書いてあります。」
「確かに不自然な行動ではあるが相手も生き物だ学習する事はあるだろうから不思議なことではない…。」
「確かにそうです。しかし行方不明者の中にこのゴブリンと同じ動きをするだろう人物がいるんです。」
「なんだと!?」
「マグレル・カフカ。彼の得意とするスタイルは探検を使った戦闘及び隠密と書いてあります。続けてアピール文として*『短剣*のリーチを補うために弓兵と組ませてくれるとありがたいです。懐に入れば大体のモンスターは動きが鈍りこちらに有利が回ってきます。私はその有利を最大限活かせると自負してます』と書いてありました。
*先ほど話した特殊個体モンスターのゴブリンの頑なに自分から動かず弓兵に動かしてもらい隙を着くこの戦闘スタイルと、マグレル・カフカさんの売り込みトーク内容がこんなに綺麗に一致しますかね?*」
「…な、なら本当に討伐した特殊個体モンスターは………。」
「報告書最後の討伐者による感想も『あまり思い出したくない戦いだった。見た目はモンスターなのに戦闘の感じが人間とやっているような錯覚に陥った。』とも書いてますし」
「私達は、私達は気付かずに町の人をこの手で………。」
「ほんと心が腐ってますよねこんな事するやつ。」
「魔物による仕業…ではないよね。」
「わっかんないけど少なくとも人為的ななにかは感じる。」
「…では、今後はその『何者』かを調べてまいります。」
「…あんまり言いたくないけど疑うなら自分の管理してるこのギルドを真っ先に疑うといよ。自警団の人達をあれこれ出来るのは多分ギルド員だろうからね。」
「…助言ありがとうございます。」
「進展なり動きがあったら手伝うよ私達も。」
「そうだね。ちょっとこれは見逃せないし許せないよね?本当に……。」
そう言葉にしたプリンの拳は小刻みに震えうっすら血を流していた。
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