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ニヤリと笑うリアンの顔を見て、焔の中でふと疑問が生まれた。後回しにするともう訊く機会なんかいつ来るかわからない。なので即座にその答えを求め口を開く。


「お前は最初からこうなると知っていて、それでもあんな言葉を俺に贈ったのか?」


伏せ目がちになりながら声に出し、今更周囲の視線が全て自分達に集まっている事実を思い出して慌てて自分の口を手で塞ぐ。だが当然そんな事をしても前言撤回なんぞ出来るはずがない。

そんな焔の姿を可愛いなぁと思いつつ、リアンはクスッと嬉しそうに笑った。


「えぇ、当然です。この先どんな結末が待っていようが、それでも俺は貴方を心から愛していますよ」


一切の淀みなくさらりと言った言葉が、再びケイト達三人の感情を逆撫でしてしまう。

間髪入れずにケイトは大剣を焔に向かって一直線に投げたが、焔は難なくそれを躱し、グサリと床に刺さっただけに終わった。キーラとナーガも怒りをぶつけたい気持ちで表情が歪んでいるものの、魔法を封じられているせいで何も出来ず、怒りを発散する術が無い。ケイト並みには動けない身では殺気を帯びた視線を投げかけるのがやっとなのがとても悔しい。ナーガの長い体を生かして体当たりをしたとしても、どうしてもスピードが足りずあっさりと避けられて終わりだろう。

何よりもリアンを巻き込みたくない。その場には居なかったおかげで『手を出すな』という命令を聞いていなかったケイトとは違う為、直接手出しをしづらいという縛りも二人の邪魔をする。

「こうなると決まっていたのなら、フラグの回収なんか必要だったのか?」

この結果をみれば当然抱く疑問であるが、リアンは『そこに考えが至るとは』と少し驚いた顔をしている。焔の『召喚魔』として、『フラグ』とちゃんと発音出来た事を褒めたい気分にもなった。

「必要でしたよ。少なくとも、私にとっては」

「……そう、なのか?」


「えぇ、とっても。だって……貴方との、沢山の思い出が得られたでしょう?」


切なそうな表情を浮かべながらぽつりとリアンが言う。本当ならばこのままお互いが納得出来る最高のエンディングを迎えられるのに、元の世界へ戻ればどうせ焔は俺の事を捨てるんだと思うと、メリーバッドエンドへ繋がるルートしかリアンには選ぶ事が出来ない。

何も知らぬままであれば、自分が管理者でなければ……魔王ですらも、無ければ。事態はもっと穏便に済んだろうに。


「いずれ主人は俺の元を去り、帰ろうと試みる。そして……俺の知らない誰かの為に、愛し子の為に元の世界へ戻るのだろう?」


胸元に置いたままになっていた手に力が入り、リアンが着衣を無造作に掴む。そのせいで長い爪が布をも貫通して手の平に少し刺さり、服に血の染みが広がった。焔はただオウガノミコト育ての親と交わした約束の為に戻りたいだけだとは知らぬリアンの表情が嫉妬に歪む。

「何の話だ……」と口にはしたが、焔の顔色が途中で変わった。


まさか『竜斗』の事か?と不安になる。どこまで知っているのか、何に気付いているのかわからず戸惑いが顔に出てしまい、そのせいでリアンの気持ちがより一層荒んでいった。


「アンタは渡さない、誰にも」


そうリアンが言ったと同時に、彼らの足元にポッカリと穴が開き、底の見えぬ空洞が出現した。焔は下へ落ちないよう咄嗟に縁へ手を伸ばしたが、リアンの髪が体に絡みつき、その動きを阻まれる。


「——んな⁉︎」

「帰さない。絶対に、絶対に!」


黒髪の絡む焔の体を引き寄せて自らの腕に抱くと、そのまま二人は穴の底へと落下していってしまった。

「リアンッ!」

ケイトが即座に二人を追おうと立ち上がったが、目の前がまだ少しフラつき遅れをとってしまった。すると、ぽっかりと床に開いていた穴が一瞬でリアンの手により修復され、元通りの様子になった。同じルートで彼らを追いかける手段を消され、ケイトは激しく動揺した。

バッとキーラ達の方へ顔を向け、「この下に行くルートは何か無いのか⁉︎」とケイトが叫んだ。

「えっと……今調べるけど……」

「待ってよ。此処よりも下層の階なんか、そもそも本来なら存在しないわよ?……魔王ちゃんが勝手に造っていたのなら、話は別だけど」

「いや。ボクの検知能力だったら事前に勝手に地下へのルートを造っていようが地図には記載出来る。補助魔法か、情報収集と分析くらいしか得意じゃないみたいなもんだし、特化してそっちの能力を伸ばしたからね」

キーラが渋い顔をしながら空中に浮かぶ半透明のパネルを操作し、城内やその周辺の地図を解析していく。どんなに探しても、やはり望むようなルートは一切なかった。

「あー……無理、だね。今この瞬間にルートを創造しつつ落下していってる感じだ。しかもご丁寧に、既に通過した部分は鉱石でばっちりと堅めて行ってるから、地面を何度も爆破した程度じゃ全然追いつけないかも」


「意地でもアレと、二人きりになりたい……のねぇ」


赤や黄色の宝石を散りばめた綺麗な親指の爪をガリッと噛むナーガの目に怒りが滲む。

「土竜達に掘らせてはみるけど、期待はしないで。ボクらが追いつく前に……決着が着くかもしれないから」

自分達の魔王がした選択を簡単には受け入れられず、王座の間に居た全ての魔族達が苦々しい思いを抱え、黙り込んでしまった。

せめてリアンが勝てばまだいいが、もし焔が勝利すればどうなるのかを知らぬ彼らは、『自分達は敬愛する魔王を永遠に失う事になるのか』と考えただけで、計り知れない喪失感を胸の奥に感じた。


このままでは結果を見届けられず、加勢もさせてもらえぬ事実も皆の心を深く抉ったのだった。

いつか殺し合う君と紡ぐ恋物語

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