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日曜の午後。駅前の広場で、大地は鼻歌まじりに隼人と柊を待っていた。
「限定いちごクレープ、今日までなんだってさ!」
ジャンプ一つ分の元気で手を振る大地に、隼人は眉をひそめながらも口元が緩む。
「お前、クレープ目当てに人呼び出すとか……」
柊は腕を組み、静かに笑った。
「まあ、悪くない理由だな」
改札へ向かおうとしたそのとき――。
「……あれ?」
隼人が足を止めた。
向こうのホーム、見覚えのある二人がいた。萌絵と涼。
地味な私服に見えるけれど、首からはイベント入場証のストラップが揺れている。
しかも、耳をすませば楽しげな声が。
「今日の戦利品リスト、完璧!」
「BLオンリー、開場はあっちだ」
三人は同時に固まった。
……聞き間違いじゃない。
「BLオンリー?」
大地がぽかんとつぶやく。
柊は小さく息を吐く。
「腐女子・腐男子の祭典だな」
隼人は目を見開いたまま、何か言いたげに口を開閉している。
大地は一拍おいて、にやりと笑った。
「やっぱりそうかぁ~。前から怪しいとは思ってたんだよねぇ」
隼人が思わず振り向く。
「え、お前、知ってたのか?」
「うすうすね。萌絵ちゃん、いつも俺と隼人のことチラチラ見ながらニヤニヤしてたし」
「……言われてみれば」
隼人が真顔でうなずく。
その瞬間、萌絵と涼がこちらに気づいた。
二人とも一瞬フリーズする。
涼が先に口を開いた。
「……隼人、大地、柊。偶然だな」
萌絵は慌ててバッグを抱え込みながら顔を赤くする。
「こ、これはただの文化的探訪!」
「うんうん、アート鑑賞だよね」
大地がわざとらしく相槌を打つ。
隼人は顔を覆い、「情報量多すぎ」とぼそり。
柊はくすりと笑った。
「秘密、ばれたな」
萌絵は必死に弁解する。
「いや違う、これは……」
涼が冷静に遮った。
「口止め条件を提示しよう。クレープ一人一個ずつおごる。どうだ」
「賄賂かよ!」
隼人が半笑いで突っ込む。
「賛成!」
大地は即答。
柊も「合理的」と微笑んだ。
結局、五人で新しいクレープ屋へ。
「いちごチョコ、二つください!」
萌絵はまだ頬を赤くしていたが、涼は平然と受け取った。
「今日のことは、ここだけの話だ」
甘いクリームの香りが漂う中、大地がほくそ笑む。
「なんかさ、こういうの、みんなで秘密共有って感じで楽しいね」
隼人はクレープをかじりながら、ちらりと萌絵たちを見てつぶやく。
「……まあ、面白かったから許す」
駅前には、クレープの甘さと小さな共犯の空気が満ちていた。