その後も、理紗子は男性と当たり障りのない会話を続けていた。
そこで男性が言った。
「この出会いの記念に、是非僕から一杯ご馳走させて下さい。あなたのような綺麗な女性にお奨めしたい珍しいカクテルがある
んですよ」
それを聞いた理紗子は、
(珍しいカクテル? 一体どんなカクテルなんだろう?)
理紗子は今書いている小説で、バーのシーンを書きたいと思っていた。
だからネタになる事ならなんでも経験したいと思っていたので、その珍しいカクテルをご馳走してもらう事にした。
「じゃあ折角なので一杯だけ…….」
男性は頷いた後すぐにバーテンダーにそのカクテルを注文してくれた。
しばらくすると、そのカクテルが理紗子の前に置かれた。
それはグラスの下の部分がコーヒー色、そして上には生クリームのようなものが載っている。
確かに今までに見た事がない珍しいカクテルだ。
「なんかコーヒーゼリーみたいですね。この上の白い部分は生クリームですか?」
理紗子が聞くと、
「はい。この生クリームがカクテルと程よく絡み合いとても飲みやすくて女性に人気らしいですよ。今、六本木あたりで流行っ
ているみたいですね」
男性はそう言ってカクテルを理紗子にすすめた。
理紗子はおそるおそるそのグラスに口をつけてみた。
するとカクテルは意外に飲みやすく、酒に強くない理紗子でもさらっと飲むことが出来た。
ベースの酒は何を使っているのだろうか?
理紗子は酒に詳しくないのでそこまではわからなかった。
「飲みやすくて美味しい。これなら何杯でもいけちゃいそう」
「でしょう? ここはホテルですからあとは部屋に戻って寝るだけです。遠慮なくいっちゃいましょう」
男性がそこで意味深に笑った事に、理紗子は全く気づいていなかった。
「確かにそうですね。部屋までは五分もかからないですからね」
理紗子はそう言うと、安心したようにどんどんカクテルを飲み始める。
気づくとグラスはもう空になっていた。
理紗子はなんだか急に開放的な気分になって来た。
そして身体がフワフワと揺れるような感じでとても心地よい。
これも石垣島の癒し効果なのだろうか?
それとも、忙しい日常から解放されて自由を満喫しているから身体も揺れるのか?
そんな事を考えていると、また同じカクテルが理紗子の前に置かれた。
いつの間にか男性がもう一杯頼んでいてくれたようだ。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は島村俊夫と申します」
島村は名刺を取り出し理紗子に渡した。
名刺を受け取った理紗子は、自分の名刺入れを自宅に置いて来た事に気づき、
「水野と申します。すみません、名刺を持って来ていないので…….」
理紗子が恐縮して言うと、
「構いませんよ。楽しいプライベートの旅に、わざわざ名刺を持って来る人なんていないでしょうから」
そう言って島村はニッコリと笑ったが、理紗子は生理的に受け入れられないその笑顔から逃げるように受け取った名刺へ視線を
落とす。
島村は東京の上野付近で宝石関係の会社を経営しているようだった。
この会社の規模がどのくらいのものなのかは理紗子にもわからない。ただ経営者だという事は当たったようだ。
その時、じりじりとした熱い視線を感じた。理紗子はその視線に気付かないふりをして、慌ててカクテルに口をつける。
そして平静を装って言った。
「宝石関係のお仕事をされているのですね」
「はい。この島では黒蝶真珠の養殖をしているのをご存知ですか? 日本産の黒蝶真珠です。今回はその件で来ました」
島村は、今度は身体を理紗子の方へ向けて足を組んだ。そして理紗子の身体をなめ尽くすかのような熱い視線を送ってくる。
(無理! 絶対に無理! そろそろ部屋に戻ろう!)
そう決めた理紗子は、
「すみません、なんだかちょっと飲み過ぎてしまったみたいで…….そろそろ失礼させていただきます」
島村にそう告げると、
「そうですか。いやー残念です。もっとあなたとゆっくりお話がしたかったなぁ」
島村は心から残念そうに言った。
「すみません。ではおやすみなさい」
理紗子はそう言って立ち上がった途端、いきなり視界がぐるぐると回り始めた。とても自分一人では立っていられない。
足元がふらつき倒れそうになった理紗子の身体を、島村のがっちりした腕が支えた。
「お客様、大丈夫ですか?」
バーテンダーが慌てて駆け寄り、理紗子に声をかける。
理紗子は返事をしようと口を動かすのだが、ろれつが回らず上手く言葉にならない。
「フロントから人を呼びましょう」
「いえ、大丈夫です。僕が部屋まで送りますから」
「本当に大丈夫でございますか?」
「はい。きちんと送り届けますのでご心配なく」
そんな男性二人の会話が聞こえてきたが、理紗子はなんとか立っているのが精一杯だった。
腰に島村の手が触れている。それは腰というよりも、胸に近い部分を支えているような気がしたが、今の理紗子はそれに抗議す
る気力もなかった。
島村はしなだれかかる理紗子をがっちりと支えながら、エレベーターへと向かった。
コメント
4件
やばいカクテル飲まされちゃった💦 島村の思う壺になってはイカーン‼️ 健吾助けてーっ‼️
そのカクテルめちゃくちゃヤバいやつだよ💦誰か気付いて〜💦
うわぁ~😱まんまとペースに嵌められて 飲まされてる⁉️ これはマズイ....