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先日の貴族邸襲撃事件は大々的な捜査をもってしても全く手がかりも掴めなかった。
何せ貧民区とは完全に隔離され出入り口の門には守衛がいる。そして、事件の目撃者はいない。屋敷の中も外も生きている者は居なかった。
被害者が何人かも分からない。判別が容易な遺体はほとんどなく、数を数えることも出来なかった。推測としてその邸にいる貴族、使用人、護衛、奴隷も含めた全員とされた。
その所業はそもそもひとに出来るような事ではない。
貴族の者たちはみな、警戒を最大限に引き上げている。
空には月はない。星たちだけが輝いている。
ランプの灯りを持ってメイドが屋敷の廊下を歩いている。
コンコンとノックする音。
「誰だ⁉︎」
ここの主人は警戒を顕に声を荒げる。
「メイドのバレッタです。お茶をお持ちしました」
「──ああ、入れ」
バレッタは屋敷の主人が最近雇ったばかりのメイドだ。
大きな眼鏡をして三つ編みなどと野暮ったい見た目をしているが、ここの主人は何でもいける。
それでも好色な主人はその野暮ったい見た目に反してなかなかどうして整った顔立ちに、整ったプロポーション。これは是が非でも剥いてみなければと雇い、早速こんな真夜中にお茶などという訳の分からん用事で呼び寄せたのだ。
「バレッタよ、ここの仕事はどうだ?」
そう問いかけ、主人は手の中にある菱形の魔道具を確かめる。
「はい、皆さまとても良くしてくださり、助かっております」
魔道具が手の中で妖しく光る。
「そうか。ここで私に仕えたいとそう思うか?」
「はい、是非にこのまま」
「ならばはっきりと仕えたいと言ってみろ」
「はい。お仕えしたく存じます」
魔道具が強く光る。
それと同時にバレッタの首から胸元にかけて紫色に紋様が浮き上がった。
「そうかっ! ならばそこで服を脱ぐがいい!」
主人の持つ魔道具は発動した。バレッタは自らの意思で隷属したのだ。
相手の心など必要ない。欲しい時に欲しいまま食らい尽くす。上から下までしゃぶり尽くしてやる。主人はこうしていつものやり方で歳若い女を奴隷にしている。
うつろな目をしたバレッタは主人の言葉に反抗する素振りもなく眼鏡を外し、上着をぬぎ、スカートも下ろし、ブラウスも脱いで下着もつけぬ姿になってみせた。
その全てを見ていた主人は、そう一から全て、ボタンを外す指の動きまで見ていたのに──どこからだろうか。
主人は今ごろはバレッタのやわ肌を見ているはずが、そこには闇だけがあった。宙に浮いた三つ編みが揺れる。
「ご主人様。私はどうでしょうか……お目にかなうと良いのですが」
闇が恥じらうようにそんな事を聞いてくる。
主人はなんとか搾り出すように口にする「ああ、美しいぞ」と。
「まあ……至極光栄でございます」
主人はこの相手の機嫌を損ねたら終わる、とそう直感して褒めて見せたが、何でもいける主人とはいえ、真っ黒な闇をむさぼる趣味などない。
三つ編みは今となっては野暮ったいアイテムではなく、そこに何かがいることを教えてくれるものとなっていた。
三つ編みが揺れて、揺れて、近づく。
「是非とも……味わって見てくださいませ……」
目の前で三つ編みが揺れる。三つ編みってこういう風になってんだなぁと思ったのがその男の最期だった。
「エミール、お前はこういう風にスマートに出来ないものか?」
バレッタが襲撃をした後には何も残っていない。この屋敷にはすでに助けられた奴隷以外は誰も居なかった。
「そういうキスミさんこそ、大暴れしておかげでどこも警戒MAXじゃないですか」
「キスミ様に何か文句でも?」
「うっ⁉︎」
目の前で宙に浮く三つ編みがエミールの発言を咎める。
さっきの現場をキスミから勉強しろと見せられていたエミールは顔を青くする。
「バレッタ、そろそろ元に戻れ。話しにくい」
「そうですね」
「うっ⁉︎」
そう言ってヒトの姿に戻って見せたバレッタは、当たり前だがすっぽんぽんで、主人の目は確かだったと言える裸体を2人の前に晒した。エミールは顔を真っ赤にして内股になってしまった。
「エミールは可愛いですね」