テラーノベル
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俺はゆっくりと芽里に近づくと、芽里はガタガタと震えながら後退りをした。
「いや、近づかないで!」
叫んだ芽里は、歩道橋の階段まで戻ろうとした。
「え?」
芽里は声を上げて、驚く。
歩道橋の階段から、黒いフードの男が上がってきていた。
男は芽里の顔を見てニタァと笑うと、芽里は後退りをした。
「芽里ちゃん、置いていくなんて酷いよ」
芽里は声も出せずに男を見ていたから、俺がすぐ側まで来ている事に気づいてなかった。
俺は優しい声を出して、芽里に言う。
「芽里、キミの魂、俺にくれよ」
「え?」
芽里は振り向くと、息を呑んだ。
無表情で鎌を持つ俺は、
「今までたくさんプレゼントしたよね?
今度は芽里が、俺にプレゼントしてよ」
俺の淡々とした声に、芽里は身体をこわばらせた。
「芽里からの最初で最後のプレゼント、芽里の魂が欲しいんだ」
俺がそう言うと、芽里は首を横に振った。
「どうして?俺、今まで芽里みたいにおねだりしたことなかったし、俺の初めてのおねだりなんだけど?」
「……いや。やだ」
芽里は掠れた声で震えながら言う。
「どうして……樹、私を殺すつもりなの?私、何もしてない」
俺の姿で溝口が見えない芽里は、溝口を確認しようと思ったのだろう。
そっと首を伸ばして俺の後ろを見たのだが……
「ひっ!」
口に手を当て、ガタガタ震え出した。
——わざわざ見なくてもいいのに。見えないように隠してあげた意味ないな。
俺は呆れた顔で、ため息をついた。
「宗輔……死んじゃう?死んだの?いやぁぁぁあ!」
芽里は叫ぶと、震えながら黒いフードの男に振り向いた。
俺を指差して
「この人が殺したのよ!」
と大声を出したが、黒いフードの男は目を丸くして芽里を見つめる。
「この人って……何を言ってるの?」
男は、俺が見えない。
何もない空間を指差している芽里の行動に、男は明らかに困惑していた。
「あなたこそ何を言ってるの!」
声を荒げた芽里は、
「もういいから! 早く、宗輔を助けなさいよ!」
溝口を助けろと喚き散らしたが、男は溝口の方に視線を向けるとニヤァと笑った、
「なーんだ、助けろって社長の息子のこと?
芽里ちゃんは、社長の息子と付き合ってたの?」
薄気味悪い笑みを浮かべている、黒いフードの男。
この男もあの女と同じ、狂気にはらんだ目をしていた。
——もしかして俺が芽里の魂を取れば、この男が芽里に何かするってことか?
見たところ何も持ってなさそうだが……
俺は男の全身を上から下まで見た。
やつれた中年の風貌をしている男が、芽里に何をする気なんだ?
「早くしてよ!」
芽里の切り裂くような声で、俺は我に返った。
–—俺は何を考えていた?
『俺達は死因には一切関与しない』
グリムの言った言葉を、俺は思い出した。
——俺は死神じゃないが、今、俺は死神と同じ。魂を刈り取っているんだ。
その俺が芽里から魂をとった後、芽里がどうなるかを気にしても、俺は関与することは出来ない。
いや、関与はすることじゃない。
なのに、俺は……
俺が芽里を見ると、芽里は俺に縋るような瞳を向けてきた。
「ねぇ、樹。芽里は樹が好きだったのよ」
「……」
「宗輔のところに行ったのは、悪いと思っているわ。
でも、樹のことを嫌いになったんじゃないの」
甘えるような声を出す芽里。
だが、身体は小刻みに震えている。
ああ、そうか。
芽里は助かりたいから、俺を懐柔しようとしているのか。
芽里の考えがわかってしまった俺は顔を下に向けて、苦笑いをした。
その直後、男が芽里に向かって言う。
「ねぇ、芽里ちゃん。何を言ってるの?」
見えない俺と会話している芽里を見て、男は不思議そうな顔をしていた。
男の言葉に反応した芽里は、男をキッと睨む。
「うるさいわね!あなたは早く宗輔を……あの女をなんとかしてよ!」
芽里の荒げる声に、男は一瞬だけ瞠目した。
しかし、すぐにクックッと笑いを溢す。
「どうして俺が、溝口社長の息子を助けないといけないんだよ。
俺をクビにした社長の息子なんて、どうでもいいよ」
「——ッ!」
芽里はすぐさま俺に振り向いて、縋るような目をした。
「樹は私のこと、好きよね?私に何もしないわよね?」
俺の情に語りかけて、命乞いをする芽里に
「俺も芽里が好きだったよ。大事にしたいと思ってたよ」
と言うと、芽里は顔を明るくした。
「じゃあ、私に何もしない……」
芽里が俺の鎌を横目で見た一瞬、俺は芽里の首元に鎌の背を向けた。
「そんなワケないだろ?」
俺は芽里を冷たく見つめる。
「男は、自分の欲を叶えてくれる道具だと思っている。それは……色欲の罪に値するんだよ」
「え?」
芽里の首元の横に向けた鎌の背を移動させて、芽里の首の後ろに刃先が来るようにした俺は……
「今の俺はね、自分の欲しい物をねだって貰ってばかりの芽里から、魂を貰いたいんだよ。
だから芽里の魂を貰うよ。さよなら、芽里」
そう言って鎌を強く引き寄せた。
断首するように魂を刈り取ると、芽里の目は見開いていた。
そんな芽里を気にすることなく、俺は刈り取った魂を持って去ろうとしたが——
「え?え?今の何?」
芽里は両手で首を抑えて、狐につままれたような顔をした。
そして俺を見た芽里は
「何なのよ! 血も出てないし、脅かして最低!」
と大声を出して俺を睨んだ。
——どういうことだ?
魂を取られたと、全く感じてないのか?
芽里の反応に驚愕した俺は芽里を見つめていたが、芽里はハッとした顔になる。
俺の後ろを、芽里は凝視していた。
俺が芽里の視線を追うように振り返ると、男も同じように芽里が凝視する方向に視線を向けていた。
三人が見たのは、微動だにしない溝口の横でゆっくりと立ち上がる女。
全身が赤に染まり、手元には鈍く光る包丁から滴り落ちる赤の液体。
静寂の時を刻むように、ポトッポトッと雫を垂らす音が鳴る。
俺はこの光景に息を呑んだ。
それは芽里と男も同じだった。
女は視線に気づいたのだろう。ゆっくりと顔を動かして、こちらを見る。
そして、ニタァと不気味な笑顔を見せた瞬間——
「きゃぁぁぁあ!」
芽里が一目散に階段に向かって走って行った。
男は慌てて
「芽里ちゃん!」
と叫び、芽里の後を追う。
男は芽里に追いついて、芽里の腕を掴んだが
「離して!離してってば!」
芽里は男の腕を引き剥がそうとした。
その瞬間、芽里がバランスを崩した。
「あっ……」
足を滑らせた芽里は仰向けのまま、逆さまに落ちようとしていた。
芽里の腕を掴んでいた男は芽里に引き摺られかけていたのだが、共に落ちるのを恐れたのだろう。
男は掴んでいた手を、素早く離した。
手を離された芽里は宙を浮かぶように、両手を広げたまま階段下まで、ゆっくり落ちていった。
——ドサッ
鈍い音と共に階段下に横たわる芽里の姿は、首と手足がありえない方向に向いていた。
目を見開いたまま全く動かない芽里を、俺は階段の上から見下ろす。
俺は低い声で
「今度こそ、本当にさよなら。芽里」
と、静かに言った。
るるくらげ
いと
#和風ファンタジー
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