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「葉山。今日付けで、DTM事業部に異動になったんだよな。どうぞよろしく」
圭と同期入社でもあり、DTM事業部の部長、柏木 爽が、手を差し出してきた。
少し癖の掛かった短めのツーブロックのヘアスタイルと、垂れ気味の一重瞼の瞳は、気さくな雰囲気に見える。
部長という肩書きを背負っているせいなのか、柏木はグレーのスーツに身を包んでいた。
「葉山圭です。今日から……よろしくお願いします……」
彼は、深々と一礼し、ゆっくりと身体を起こすと、ぎこちなく手を差し出し、握手を交わした。
つい数日前まで、副社長だった圭にとって、同期のヤツに頭を下げる事は、屈辱以外にない。
課長という肩書きは付いているが、新入社員と大して変わらないようなものだ。
「葉山。DTM事業部に来るのは初めてだろ? フロアを案内するよ」
「はい。お願いします」
圭の受け答えに、葉山は微苦笑を覗かせていた。
「なぁ。俺と葉山は同期なんだし、俺の前では、以前のように接してもらってかまわないよ」
「…………分かった」
「じゃあ、さっそく行こう」
柏木に促され、圭は部署内を案内された。
圭は改めてDTM事業部のフロアを見渡した。
開放的な空間の奥には、部長のデスク、裏にはパーテーションがあり、奥は打ち合わせ用のスペースがある。
部長のデスク前には、社員のデスクが向かい合わせになって、縦一列に並び、それが左、中央、右に三列、配置されていた。
フロアの左端には、重厚なドアの防音室が三部屋と、白いドアは会議室らしい。
DTM事業部は、オフィスカジュアルで仕事をしている社員が多く、スーツをキッチリと着こなしている圭は、どこか浮いていた。
「葉山のデスクは、ここな」
圭のデスクは、左の列の一番端の場所にあり、部長のデスクから近い場所を指定される。
「了解」
彼は、短く返事をするも、特に荷物があるわけではなく、手持ち無沙汰になってしまう。
「ああ、そうだ! これから部署全体の会議がある。防音室の隣の会議室に行ってくれ。白い扉の部屋が会議室だ。よろしくな」
柏木が、自身のデスクに戻って資料を手に取り、会議室へ向かっていくと、圭も、おずおずと同期の上司に付いていった。