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蓮司の相談室2

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蓮司の相談室2

34 - 第34話 消えたいわけじゃない

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2025年11月02日

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窓の外で、夕焼けが沈みかけていた。薄暗い光が相談室の中に流れ込み、机の上に長い影を落とす。


ドアが静かに開いて、一人の少女が入ってきた。

制服の袖を握りしめたまま、声を出すのにも少し時間がかかっていた。


「……話、聞いてくれますか」


蓮司はペンを回す手を止め、軽く頷いた。


「座れ」


少女は机の向かいに腰を下ろした。目の下のクマが薄く見える。

どこか遠くを見ているような、焦点の合わない瞳だった。


「最近……消えたいって思うことが多くて」


声は小さく、震えていた。


「でも、死にたいわけじゃないんです。ただ……止まりたい。全部」


蓮司は腕を組み、しばらく黙っていた。

窓の外では、グラウンドの端に立つカラスが一羽、静かに羽を震わせている。


「止まりたい、ね」


「はい。

朝起きても、息するのもしんどくて……

誰かに“頑張れ”って言われると、胸が潰れそうになるんです。

頑張れない自分がダメなんだって、また責めちゃって」


言葉を吐くたびに、少女の声はか細くなっていった。


蓮司はゆっくりと息を吸い、机に視線を落とした。


「“頑張れ”って、便利な言葉だよな。

言う側も、受け取る側も、何かした気になれる。

でも本当は、ただの“音”みたいなもんだ」


少女が顔を上げた。


「音……ですか?」


「そう。

“頑張れ”って言葉に意味を持たせるのは、自分の中にある余力だ。

今、その余力がもう残ってないなら、音にしか聞こえない。

無理もねぇよ」


少女の目に、少しずつ水が滲んでいく。


「……みんな、普通に頑張ってるのに。私だけ止まってる気がして」


蓮司は首をかしげた。


「止まってることを、自分で分かってる時点で、まだ動ける証拠だ。

本当に限界のときは、止まってることすら分からなくなる」


「でも……」


「でもじゃない」


蓮司は穏やかに遮った。


「お前が立ち止まるのは、負けじゃない。

息が詰まってるのに、走り続けるほうがよっぽど危ねぇ」


少女の肩が、かすかに震えた。

それが涙か、安堵か、本人にも分からないまま。


「……休んでいいんですか」


「当たり前だろ。

止まることと、終わることは違う」


夕陽が完全に沈む。

相談室の中には、残り火のような光だけが漂っていた。


蓮司は立ち上がり、窓を少しだけ開けた。

冷たい風が流れ込み、カーテンがゆるやかに揺れる。


「お前が息してるだけで、ちゃんと今日を生きてる。

それ以上の証明なんて、いらねぇよ」


少女は俯いたまま、小さく頷いた。

涙が机の上に一滴、静かに落ちた。


蓮司はその音に何も言わず、ただ、ペンを指の間で回した。

沈黙の中に、やさしい現実だけが、確かにあった。


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