テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#勧善懲悪
#勧善懲悪
夜。工房の作業台に、黒い名刺が四枚並んでいた。
スレンは椅子の背に腕をかけ、テオハリの話し方を真似してみせる。
「最近つらいこと、ありませんか。誰にも言えない悩みほど、早く手放した方がいいですよ」
声色まで柔らかくて、サペは思わず顔をしかめた。
「腹立つくらいうまいな」
「褒め言葉として受け取る」
ズジがメモをめくる。
「相談した人の共通点、あった。最初はみんな、自分の願いを叶えたいだけだった。でも途中から、別の人の秘密を差し出すよう誘導されてる」
「交換条件にしてるんだ」
マイナが言う。
「願いそのものはどうでもいい。弱みを集めるのが本体」
エリアは名刺の縁を爪でなぞった。
「じゃあ、逆にそこを崩せばいい」
「どうやって」
「相談した人が、一斉に口を開けばいい。あんたたち、弱み握られてるんじゃなくて、脅されてるだけだって分かったら」
簡単に言うが、それが難しい。
サペが黙っていると、キオノフが静かに口を開いた。
「最初の一人は、僕が当たってみる」
「え?」
「礼を言いに行くのは得意だから」
その言葉に、少し笑いが起きた。
翌日。サペたちは、相談会に行ったことのある人たちを一人ずつ訪ねた。キオノフが前に立ち、責めずに話を聞く。ズジが必要なところだけ記録を取り、マイナが時系列を整理する。
すると、同じ文句がいくつも出てきた。
誰にも言えない悩みほど価値があります。
その価値で、願いを買えます。
まるで商品説明だ。
「人の痛みを、値段で見てる」
エリアが吐き捨てるように言う。
夕方になって、ついに一人の女性がうなずいた。
「私、話します。どうせもう知られてるなら、黙ってる方が悔しい」
それをきっかけに、二人、三人と口が開き始める。
ズジは手帳を握りしめた。
「出どころ、見える」
その瞬間、工房の外で、ばたん、と乾いた音がした。
サペが飛び出すと、窓の桟に小石が当たって落ちている。小石には糸が巻かれ、その先に黒い名刺が結ばれていた。
裏には、銀色の字で新しい一文が増えていた。
首を突っ込むな。
その文字を見たエリアが、にやりと笑った。
「やっと向こうも、こっちが邪魔になってきた」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!