廃墟と化した老人介護施設の裏手駐車場は、雑草がアスファルトの隙間を突き破り、かつての喧騒を忘れた静寂に包まれていた。午後の陽光は、くすんだコンクリートにまだらな影を落とし、賢治の黒いアルファードだけがその場に不釣り合いに光沢を放っていた。
車は前後にリズミカルに揺れ、バックドアから覗く女性の膝まで下ろされたパンティストッキングが、陽光に照らされてかすかにきらめく。桜貝のようなネイルが、彼女の指先で妖しく輝いていた。賢治の息は荒く、額に汗が滲む。彼の動きは激しく、情熱に突き動かされていた。車内の空気は熱を帯び、窓ガラスが曇るほどだった。
彼女、吉田美希のあどけない顔に浮かぶのは、快楽とわずかな抵抗の入り混じった表情だ。彼女の嬌声が狭い車内に響き、賢治の興奮をさらに煽る。
「美希! 美希!」
彼の声は切迫し、まるで彼女の名前を呼び続けることでこの瞬間を刻みつけようとしているかのようだった。
「あ、ん…」
美希の声は小さく、しかしその抑えきれない響きは、賢治の心をさらに掻き立てた。
「美希!」
「…!」
二人の濃密な時間は、まるで永遠のように感じられたが、30分ほどで終わりを迎えた。情熱の波が引くと、車内にはかすかな気まずさと余韻が漂う。美希は不満げな表情を浮かべ、ブラジャーのホックを留め直すと、脱げかけたパンティストッキングを慌ただしく引き上げた。彼女の指先は、桜貝のネイルが光るたびに、どこか不満を訴えるように動いた。
「部ちょお…」
美希の声は甘く、しかしどこか拗ねた響きを帯びていた。
「もう、社長だよ」
賢治はスラックスを履き、ベルトを締めながら軽く笑った。ルームミラーに映る自分の乱れた髪を掻き上げ、余裕を取り戻すように身だしなみを整える。その仕草には、どこかこの関係を支配しているという自負が垣間見えた。
「部長は、部長だもん!」
美希はさくらんぼのような唇を尖らせ、頬を膨らませて抗議した。彼女の瞳には、愛らしい不満と、言いたいことを抑えたもどかしさが揺れていた。
「で、なに。なにか言いたそうだけど」
賢治は彼女の表情を読み取り、からかうような口調で問いかけた。シートに凭れ、煙草に火をつける仕草は、まるでこの瞬間をさらに味わおうとしているかのようだった。
「どうしていつも車の中でするんですか!」
美希の声は少し高くなり、頬が赤らむ。彼女はシートに身を沈め、膝を揃えて不満をぶつけた。
「興奮するだろ」
賢治はニヤリと笑い、窓の外に目をやる。遠くの木々が風に揺れ、廃墟の静けさが二人の会話を際立たせていた。
「誰かに見られているみたいで、嫌!」
美希は腕を組んでそっぽを向くが、その仕草にはどこか彼を意識した愛嬌が滲む。
「見られても構わない」
賢治の声は低く、挑戦的だった。彼の視線は美希の横顔を捉え、彼女の反応を楽しむように留まった。 駐車場の空気は、夏の終わりの湿気を帯び、どこか退廃的な雰囲気を漂わせていた。廃墟の影が二人の関係を象徴するかのように、車に長く伸びる。美希は唇を噛み、言葉を探すように一瞬黙ったが、やがて小さくため息をついた。
「次は、ちゃんと…どこかで、ね?」
彼女の声は小さく、しかしその中にはかすかな期待が込められていた。賢治は答えず、ただ微笑みだけだった。
その表情に美希はヘソを曲げたように賢治の肩を叩いた。
「わかった、わかった」
「本当に分かっているんですか!?」
「分かってる」
「本当に!?」
賢治は軽く美希の唇を啄んだ。
「美希が1番、美希しかいないよ」
「じゃあなんで結婚したんですか!」
「会社の為だから、仕方なかったんだよ、ごめんな」
「部長ぉ」
賢治は、美希の小煩い唇をライオンのように仕留めると、ゴツゴツした手のひらで彼女のブラジャーをたくし上げた。荒々しい仕草の中にも、彼女を求める切実な欲望が滲む。
「やだ、部長…て」
美希の声は小さく、抵抗とも甘えともつかない響きを帯びていた。彼女の白い胸がこぼれ落ち、程よい大きさが陽光に照らされて柔らかく輝く。桜貝のような突起が、まるで彼を誘うように艶めいていた。
「や、ん..誤魔化して」
美希は恥じらいを隠すように目を逸らすが、その声にはどこか彼を試すような甘さがあった。
「誤魔化してなんかないよ。美希の可愛い顔が見たいだけ」
賢治の声は低く、熱っぽい。彼の視線は美希の顔を捉え、彼女の反応を確かめるように留まる。
「あ、あ…」
「美希が最高だよ。美希しかいないよ」
彼の言葉は、まるでこの瞬間を永遠に閉じ込めようとするかのように、切実で熱を帯びていた。
「ああん…」
クチュ。
賢治のざらついた舌が彼女の突起を転がすと、美希の肢体は喜びの声を上げ、車内に響き合った。彼女の吐息は、抑えきれずに漏れ出し、賢治の耳元で甘く震える。
「ぶ、部長…」
美希の声は、恥じらいと快楽の間で揺れ、どこか彼を呼ぶように切なげだった。賢治はその艶かしい動きに釘付けになり、彼女の反応一つ一つが彼の欲望をさらに煽る。股間は見る間に大きく熱を持ち、理性の糸を危うくするほどだった。 美希の髪が汗で額に張り付き、彼女の瞳は半分閉じられ、快楽と罪悪感の間で揺れている。賢治の手は彼女の肌を滑り、まるで彼女の存在を確かめるように、優しく、しかし強く触れる。
然し乍ら、スーツの袖から覗く腕時計の針は14:50をさしていた。そろそろ会社に戻らなければならない。賢治は大きく息を吸って深く吐いた。
「部長?」
「ごめん、今日はここまでにしよう」
「えええ!酷ぉい」
吉田美希のピンクの下着には染みが出来ていた。
「仕方ないよ」
「はぁい」
「もう時間だよ、禿げ親父が美希を待ってるよ」
「はぁい」
吉田美希は渋々といった風で、ふたたび衣類の乱れを直すとルームミラーで前髪を整えた。賢治がアルファードのスライドドアを開けると、ハイヒールの足元を気にしながらタラップを降り、両手を伸ばして空を仰いだ。
「ふぅ、狭かった!」
「ごめんね」
「今度は、勤務時間じゃない時にホテルに連れて行って下さいね!」
「分かった、分かったラブホテルね」
吉田美希は賢治に詰め寄った。
「部長!本当に分かってるんですか!」
「分かったよ、また今度ね。ほら、仕事に戻って、戻って!」
「戻りますよーっだ」
吉田美希は可愛らしく舌を出し、ピンクの軽自動車に乗り換えた。運転席の扉が閉まり、手をひらひらと振っている。その時、賢治は思った。
(そうだ、菜月は綾野の家に戻っている)
ならば、退勤後に吉田美希とラブホテルに行ったとして、帰宅時間を気にする事も、アリバイ作りに頭を悩ませる事もない。なんなら、マンションの部屋に連れ込んでも問題はないだろう。
「ふっ」
思わず笑いが込み上げる。賢治はどこまでも愚かだった。賢治はエンジンをかけた。アルファードのエンジン音が、静かな廃墟に響き合い、二人の秘密をこの場所に残したまま、車はゆっくりと動き出した。
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