テラーノベル
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急に始まります
海に行った数日後。
夜中、急に息ができなくなった。
視界がぐらぐら揺れて、 胸が焼けるみたいに痛い。
「……っ、は……」
ナースコールを押す指も震える。
そのまま、意識が遠のいた。
目を開けたとき、
天井は見慣れた白だった。
だけど、体中が重い。
「……凛」
低い声。
横を見ると、湊がいた。
目の下にクマ。 制服のまま。
「……お前、帰ってないの」
「帰るわけないだろ」
その声が掠れている。
俺は酸素マスク越しに笑った。
「大げさ」
「……大げさで済むかよ」
湊の拳が震えてる。
「急変したんだぞ」
俺は、何も言えなかった。
医者の声が、頭の中で響く。
“予想より進行が早いかもしれません”
半年。 それすら、保証じゃない。
それから、俺はほとんど病室から出られなくなった。
歩くだけで息が切れる。 食欲も落ちて、体も痩せていく。
鏡を見るのが怖くなった。
ある日、湊がりんごを剥いていた。
不格好で、皮が分厚い。
「……下手」
「うるさい」
でも、ちゃんと俺の口元まで持ってきてくれる。
「食え」
「いらない」
正直、喉を通らない。
湊の手が止まった。
「……凛」
その声が、少し怒ってる。
「食べないと、もっと弱る」
「もう十分弱ってる」
つい、言ってしまった。
空気が凍る。
湊の目が揺れた。
「……諦めんなよ」
「諦めてねぇよ」
声が荒れる。
「でも、怖いんだよ!」
涙が溢れた。
「日に日にできないこと増えてくし、未来の話できないし……!」
「……」
「お前の大学も、将来も、俺いないのに!」
言った瞬間、後悔した。
湊は黙って、 りんごを置いた。
そして、俺のベッドに座る。
「俺の将来に、お前いないって決めんな」
「でも——」
「でもじゃない」
初めて見るくらい強い目。
「凛がいなくなる未来なんて、考えてない」
「無理だろ」
「無理でも」
湊は俺の手を握る。
細くなった俺の手。
「今、生きてるだろ」
その一言が、胸に刺さる。
「未来の心配して、今を捨てんな」
俺は泣きながら笑った。
「……かっこつけ」
「うるせ」
湊はそっと、俺の額に額をつける。
「凛」
「……ん」
「怖いなら、一緒に怖がれ」
強がりじゃない声。
「俺も怖い」
それを聞いて、 少しだけ、息が楽になった。
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