第一話「観察者の選定」
「君さ、最近どんな夢を見た?」
ユリウスは、その質問をされるといつも一瞬だけ思考が止まる。
夢を見た記憶は確かにある。しかし、その内容を思い出そうとすると、まるで霧がかかったように曖昧になってしまう。
「……覚えてないな」
曖昧な答えを返すと、目の前の男――京麩 小環(きょうふ こわい)は、満足げに微笑んだ。
否、彼はもうそう呼ばれるべきではない。
この男の名は**「スケアリー」**。
彼は「恐怖そのもの」であり、「恐怖を食らう怪物」だった。
ユリウスは、京麩(スケアリー)の顔を見ながら、ほんの少しだけ自分の身体が震えているのを感じた。
まるで猛獣に睨まれた獲物のように、喉が乾く。
スケアリーの顔は、どこまでも白く滑らかだった。
目は鋭いが、笑みを浮かべるとまるで”優しげな紳士”のように見える。
しかし、その口角が上がるたびに、何かが「剥がれ落ちる」ような錯覚を覚えるのだ。
彼の存在そのものが”作り物”のように思えてくる。
「いいねぇ、その”無自覚”さが最高だよ」
スケアリーは、恐怖を愛する犯罪者だった。
彼にとって、恐怖は「芸術」であり、完全犯罪は「調理法」のようなものだった。
ユリウスは彼の作品を見届ける「観察者」。そして、夢の中で「適切な材料」を彼のもとへ運ぶ役割を持っていた。
「今日の”食材”は?」
「……名前はツグミ。”操られる殺人者”だよ」
🔪夢の中の選定
ユリウスは毎晩、夢を見る。
そして、その夢の中には必ず”誰か”が現れる。
今夜の夢には、ひとりの青年がいた。
細身の体、無表情。だが、その手には確かに血がついていた。
「君は……何をした?」ユリウスは尋ねる。
青年は、ゆっくりと口を開いた。
「……わからない。気づいたら、やっていた。」
ユリウスは、その言葉に「確信」を得る。
この青年は、適している。
彼は「犯人になる素質を持つ者」だった。
🔪現実への橋渡し
翌朝、ユリウスは目覚めた。
夢の記憶はまた曖昧になっていたが、ある”名前”だけは鮮明に覚えていた。
「ツグミ……」
まるで、頭に焼きついたかのように、その名前だけが離れなかった。
「おはよう、ユリウス。今日の夢はどうだった?」
スケアリーが楽しげに訊ねる。
ユリウスは、躊躇いながらも口を開いた。
「……ツグミ、という名前の男がいた。」
スケアリーは、静かに目を細める。
「へぇ、”ツグミ”か……いいねぇ。どんな”味”なの?」
🔪ツグミの秘密
数日後、スケアリーとユリウスはツグミと対面した。
「初めまして。俺はスケアリー、恐怖を愛する者さ。そして……君の才能を”調理”したいと思ってる。」
ツグミは戸惑っていた。
「俺は……ただ、言われたとおりにやっただけで……」
「言われたとおりに?」
ユリウスは、その言葉に引っかかるものを感じた。
ツグミは「自分の意思では殺していない」ということなのか?
「誰に指示された?」
「わからない……でも、”やれ”と言われると、手が勝手に動くんだ」
スケアリーは満足げに笑う。
「なるほど。”操られる殺人者”ってわけか。いいねぇ……こういう”食材”は調理のしがいがある。」
🔪スケアリーの狂気の実況
「さて、今夜のメニューは”無意識の殺意”。」
「繊細な恐怖の下味をつけて、じっくりと”自覚”を煮込んでいこう。」
「最初の一口は”否定”、次の一口は”快楽”、最後の一口は”自己崩壊”……ふふ、いいコース料理になりそうだ。」
ツグミの目が、揺れる。
「俺は……」
「大丈夫。君の手は、もう知っているよ。”料理の仕方”をね。」
ツグミの背筋に、ぞわりと何かが這い上がる感覚がした。
ユリウスは、ただ黙ってその光景を見つめる。
(やはり、この男は……)
スケアリーは狂気を食らう怪物だ。
そして、彼の目の前には”最高の食材”が転がっている。
🔪完全犯罪のレシピ:第一幕
ツグミの最初のターゲットは、彼に命令をしていた”誰か”だった。
「俺に殺せと言ったのは、お前か?」
ツグミは電話越しの声に向かって問いかける。
そして、その答えを聞く前に……
「ツグミ、”料理”の時間だよ。」
スケアリーの声が響いた。
その瞬間、ツグミの手は”勝手に”動いた。
「……あ。」
次の瞬間、”命令主”は床に倒れていた。
「いいねぇ……見事な包丁捌きだったよ。」
スケアリーは、満足げに拍手を送る。
ツグミは、何が起こったのか分からず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「これが……俺の意志?」
「違う違う。”お前の本当の姿”ってやつさ。」
ツグミの目が、ゆっくりと変わっていく。
そこには、これまでになかった”何か”が宿っていた。
ユリウスは、静かにその光景を見つめる。
(……やっぱり、俺の”選んだ”人間は、犯人になるんだな。)
だが、ユリウスは気づいていなかった。
「ツグミを見つけた」のではなく、「ツグミを作った」のだと――
次回 → 「操られる殺人者」
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