数日後。
麻美は公言通り、紹介してくれる人を見つけてきてくれた。
それが今日なんだけど……
「え、ちょっと待ってよ。まだ心の準備が……」
つい最近、上手くいきかけていたと思っていた坂本さんともダメになったばかりなのに、もう別の人っていうのにも少しは抵抗がある。
「今さら何言ってるのよ。準備期間にレクチャーも十分したでしょ!」
それに何より、このレクチャー!
「だから無理だって、私には」
「無理じゃない!頭っから無理だと思うからダメなの。私が教えた通り、やれば大丈夫だから」
妙に自信満々に私に言ってのけてきた。
「それは麻美だからで私のキャラじゃないって」
自分の事じゃないのに、ここまで真剣になってくれている麻美には感謝しかない。
だけど麻美の言うようにわざと甘えて見せるなんて芸当を私は持ち合わせていない。
「何をするにも努力でしょ。恋愛だって同じなんだから。努力せぬもの何も得られずってね」
「うん、分かった」
説得力があるのだかないのだか分からないが、完全に言いくるめられている。
「それに相手は任せて。佑志にちゃんと言ってあるから人選に間違いなし!」
「本当にありがとう。佑志さんにも迷惑かけたみたいで申し訳ない」
「いいの、いいの。奈緒のためならって佑志も張り切ってたんだから」
佑志さんとは麻美の彼氏であり、婚約者。
大学時代からの付き合いでもう6年になるらしい。
麻美とは会社に入ってすぐに意気投合し、佑志さんとは何度か一緒に食事をして面識はある。
とはいえ、そろそろ結婚準備の忙しい二人の邪魔をしているようで申し訳なくなってしまう。
「今回の相手は私も知ってるし、良い奴だから安心して。ほら、覚悟を決めていくよ!」
気合を入れるように私の背中をバンと叩くと尻込みする私の手を引いて、待ち合わせの店へと足早に向かいだした。
「えっと、どこだろ……」
佑志さんとの待ち合わせの店に着くと、麻美は連絡することなく店内を目視で捜しだした。
私はというと、そんな余裕はなくただただ気持ちを落ち着かせるのに精一杯。
元々、初対面はそれほど得意ではない上、今日は麻美から色々とレクチャーを受けたことを実践しなくてはいけない。
堅苦しく考えすぎなのかもしれないけど、甘えるということは私にとってそれほどハードルの高いものだった。
しかも初対面!!
違う意味でドキドキが治まらない。
「あ、居た。奈緒、行くよ」
麻美のその言葉にさすがの私も覚悟を決めるしかなかった。
「おまたせ」
「ああ、お疲れ」
二人は軽く言葉を交わすと、向かい合わせで席に着いた。
「こんばんは」
私も麻美に続いてあいさつをすると空いている席に腰を下ろした。
「ほら、紹介して」
私が腰を下ろすや否や、麻美が佑志さんを急かしだす。
「えっと……」
麻美に促され佑志さんが口を開いたのとほぼ同時に、どんな人か気になりさり気なく視線を向けた。
「浩太!?」
「奈緒!?」
瞬間、ほぼ同時に私たちは互いの名を口にしていた。
「え、え、どういうこと?もしかして二人共知り合い?」
顔を見合わせ驚く私たちの間で麻美と佑志さんも驚いた様子で私たちを見比べている。
「ああ、中学の時の同級生」
そう答えたのは私ではなく浩太だった。
「そうなの?すっごい偶然!」
「うん、びっくりした」
テンション高めに驚く麻美に平静を装いながら答えるが内心、かなり動揺していた。
まさかこんなところで、こんな風に浩太と再会するなんて思ってもみなかった。
あまりに突然の再会に私は目の前に居る浩太のことをなかなか見ることができず、麻美の方ばかり見てしまった。
「元気だった?」
私と違い浩太は1㎜も動揺した様子もなく、普通にはなしかけてきた。
「うん、そっちは?」
だけど私はそれを返すので精一杯で、どこかぎこちないものになってしまった。
「え?もしかして元カレだったとか?」
私の態度がおかしかったからか突然、麻美がサラリと爆弾を投下してきた。
「そんなんじゃないから」
すかさず答える私に更なる違和感を覚えたのか麻美が疑いの眼差しを向けてきた。
「辻井くん本当?」
私では信用ならなかったのか、今度は浩太に尋ねだした。
浩太は何故か私を一瞬見てから
「ああ。期待に応えられなくて悪いけど、こいつとはただの同級生」
余裕の笑みで麻美たちに応えた。
「なんだー、残念。もしそうなら運命!とか思っちゃったのに」
麻美は浩太の答えに納得しつつも、本当に残念そうに声を漏らした。
「さすがにないだろ、そんなこと」
佑志さんも半分笑いながら、麻美をたしなめる。
「そうそう。たまに変な妄想スイッチ入るよな、川島って」
浩太は半分呆れた様子で笑い、佑志さんに同意を求めた。
「分かる、分かる。麻美って妄想大好きだからな」
「酷い、二人とも!」
仲の良い三人のやり取りに私も思わず笑ってしまった。
おかげで場の空気も和み、私と浩太とのぎこちなさも消え普通に話すことができるようになっていった。
――胸の高鳴りはそのままで……
だって浩太は私の初恋の相手だったから。
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