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#王国
星崎 ヒロア
333
#現代ファンタジー
むぎ 🖤🪽
73
#死ネタ、流血表現、暴力表現
穏霞 乃矢
2,916
セイラン城正面口の車寄せに、数台の浮遊式政府専用車が静かに滑り込み着地した。近衛兵の誘導を受けリヴァンはゆったりと歩みを進める。磨き上げられた大理石の廊下が彼の足音を高く反響させ、支配者の風格を際立たせていた。やがて彼は白円の間の扉を開いた。白円の間は、光と静寂に満ちていた。大理石の床は天窓からの光を映し返し歴代国王の壁画が金泥で輝く。頭上の巨大なエルフクリスタルはろうそくのように淡く脈動し、この場に集う者の心を見透かしているかのようだった。隅ではエルシェ湖に落ちる滝から引き込んだ清水が静かに流れ、王国の“循環”と“清浄”を象徴していた。
中央の円卓を囲む三人。ラマズド科学技術長官、ジン博士、そして、ラッセル大佐。西の席だけが空いている。そこへリヴァンが現れてジン博士の前に立つ。
「これは、ジン博士ではないですか……ご無沙汰しておりますな」
だが、博士は視線も向けず腕を組んだまま沈黙。無言の抗議だった。リヴァンは唇をわずかに吊り上げ、ラマズドの隣席へ座り、ラマズドに耳打ちをした。
「例の件は、順調か」
「ええ、保育器の中で筋繊維が日々発達しております。博士の目は封じてあります」
「そうか……舞台は整うな」
ラッセルが目を細くしラマズドを睨み、眉をわずかに動かすが沈黙を守る。荘厳なファンファーレが響き重厚な扉が開いた。
「イーサム陛下、御出座であらせられる!」
白銀の王衣を纏った男が揺るぎない歩みで中央へ進む。やがて、王は円卓奥の玉座に腰を下ろした。椅子がわずかに沈み、その音を合図に空間は凍りついたように静まり返る。
「これより、臨時の御前会議を執り行う」
低く通る声が白円の間を支配した。一同が着席し王が杖を床に打ち鳴らす。
最初の議題は政務官失踪事件。十数名に及ぶ行方不明者の中には、スメラ秘書官の名も含まれていた。
「スメラ秘書官の捜索は進んでいるのか」
国王がリヴァンに問う。
「残された痕跡から、魔物被害の可能性が高いと報告を受けております」
ざわめく声が広がる。その中でラッセル大佐が一歩前へ出た。
「陛下、首相。私はこの件にラマズド長官が関わっているとにらんでいます。彼女はラマズド長官にモンスター政策の異を唱える者が相次いで失踪する事に疑問を持ち、独自で調査をしていました」
場の空気が一気に張りつめる。
ラマズドは悠然と立ち上がり薄い笑みを浮かべた。
「それで、私が関与しているという証拠は?」
短い問いかけが鋭い刃のように大佐の胸を抉った。
スメラが失踪してから、必死に跡を追ったが掴んだのは憶測ばかり。
確たる証拠など、まだ何一つ持っていなかった。
「答えられぬか……」
ラマズドは椅子に腰を下ろし勝者のように微笑んだ。
リヴァンが口を挟む。
「ラッセル君。軽率な告発は混乱を招く。ラマズド長官は国を支える要だ。根拠のない中傷は許されぬ」
だが、ラッセルは食い下がる。
「ラマズド長官が就任して以来、首相の態度が明らかにおかしい。以前の首相ではありません!」
リヴァンの瞳が一瞬揺れたが、すぐに冷たく否定した。
「くだらん推測だ。私は変わらぬ」
会議室には冷えた空気が流れた。そのとき、ジン博士が静かに立ち上がった。
「陛下。リヴァン首相とラマズド長官の王研政策について進言します」
ジン博士の瞳が王と重臣たちを見渡す。
「王立科学アカデミー研究所において、私でさえ立ち入ることを禁じられた“特別研究区”が存在します。そこでは魔物へのエルフエナジー照射実験が行われている事が非常に高い。毎晩、不気味な魔物の咆哮が研究員を脅かしています。これは、倫理規定に反し、科学技術先進国家の名を汚す行為です」
ジン博士は端末を起動し、論文を投影した。
「これは科学の進歩ではなく、国の存亡に関わる脅威です」
重苦しい沈黙が落ちる中、博士はさらに語り始めた。
「“エルフエナジー”――数万年前、この星に衝突したハレルヤ流星群の隕石に由来します。隕石の核には進化の記憶、未知の放射線、宇宙の歪みが封じられていました。それらが結晶化し、魔法の石となったのです。我が国はこれらを採掘、加工し、文明は飛躍的に進歩しましたが……古文書には、この石がもたらした“赤黒い目”の出現が記されています。魔物の咆哮が裏付けている事から、この照射実験は魔物の高度知能化を促すのではなく、凶悪化にするものだと、強く懸念する次第であり中止すべきです」
王は眉を寄せ、居並ぶ貴族たちが息を呑んだ。博士の言葉は空気をさらに重くしていく。ラッセルが博士を見やり、勇気を取り戻したかのように声を上げる。
「博士のおっしゃる通りです。ラマズド長官が関与しているとすれば、スメラ秘書官の失踪も……」
「やめろ!!」
リヴァンが声を荒げた。
「証拠なき憶測は国を混乱に陥れる!」
ラマズドはゆるやかに手を挙げ、場を制した。
「博士、ここにおられるのは科学の専門家ではございません。詳細な論文は混乱と恐怖を招きましょう」
まるで論点を避けるかのように、ラマズドは家庭でモンスターと過ごす市民の写真を映し出した。
「我々の研究は人々に癒しをもたらしています。博士は、この国の進化と経済、国益を止めようとされているのですか」
ジン博士の声が鋭くなる。
「長官の実績、主張は認めます。ですが、その論理で倫理無視の研究を正当化することはできません。
犠牲の上に立つ科学は、やがて国そのものを滅ぼす!」
「犠牲なくして、進歩はない!」
ラマズドが声を張った。
二人の視線がぶつかり火花が散るような緊張が白円の間を支配した。
会場に再び重苦しい沈黙が落ちた。
しかし、ラマズドは立ち上がり口元に冷笑を浮かべる。
「博士もご存知でしょう。ベネフィットがリスクを上回るように仮説を立て研究をする。
結果は過程の検証を行い考察する。それこそが研究の本質であり技術進歩になるのです。
魔物の咆哮もその過程のひとつ。未来を切り拓くには冷静さと冷徹さが要る。
多少の犠牲も、理想のためならばあっても良いと思いますが……」
彼の声は鋭く研ぎ澄まされ、場を切り裂いた。
王は深く目を閉じ、杖を鳴らした。
「状況は、よく分かった」
静かながらも、芯のある声だった。玉座に座す者として、国家の未来を背負う覚悟がそこにはあった。
「これより、私の見解を述べ各々に命ずる」
言葉を選ぶように、一拍置いてから続けた。
「まず、相次ぐ失踪者についてだが、市中で流行っている魔物討伐が原因だと思われる。一刻も鎮静化させるために、軍の拡充を命ずる」
「魔物に対するエルフエナジーの照射実験についてだが……リスクがベネフィットを上回るのか否か現時点では明確な判断がつかぬ。故に本件は、わが国の経済の根幹、国益に大きく影響することから、継続審議とし、実験は継続する」
「陛下、今なんと!」
ジン博士が思わず口を挟むが王は構わず続けた。
「次に、“王研”の組織体制についてだ」
王の声に、わずかに険しさが混じった。そして、王の視線は、リヴァンとラマズドへと鋭く向けられた。
「王研の特別研究区は廃止とし情報を共有するように命ずる」
リヴァンが僅かに身じろぎしたが王は続ける。
「君達はこれまで、成果や数字を重んじるあまり、真の価値を見誤ってきた。過度な競争により、情報が共有されず研究員達を疲弊させたと考えられる。本来、各々の知恵と協力によって進化するものだ。これを円滑に整えることが“政”の本質だ。王研があったからこそ、本国は幾多の新産業を育み民の生活を支えてきた。研究者たちが誇りを持って働ける場を築くこと。それこそが、政を預かる長の務めである」
一息、深く、そして静かに吐かれた。
「数字に囚われるあまり、本質を見失うことのないよう、……肝に銘じておけ」
白円の間が、凍りついたような静寂に包まれた。
「今後、改善の姿勢が見られぬようであれば……私は、君達の進退について真剣に再考せねばならない」
リヴァンの瞳が、かすかに揺れた。
「首相、およびラッセル。引き続き三者会談を執り行う。ここに残るように」
そう告げた王は、ふと、玉座の傍らに控える若き王子へと視線を移した。
「そして、イザリオ。お前にも近く、重大な役目を担ってもらう時が来るだろう」
王子は驚きに目を見開いたがすぐに深く頭を垂れた。確かに未来を示す曖昧な兆しとして白円の間に残った。王の声が響くと儀式の杖がもう一度、ゆっくりと床に叩きつけられた。先ほどよりも幾分静かな音だった。だがその重みは、誰の胸にも確かに届いた。
「これにて、散会とする」
王の背後で一人の老臣が静かに目を伏せた。侍従長・バルティス。かつて先代王にも仕えた王家最古参の賢臣。肩に届く白髪と深緑の裾長い正装。その佇まいは、まるで時代の重みを身にまとう歴史そのものだった。
(これが、陛下の“決断”か)
心に浮かぶ言葉を、表情に出すことはなかった。だが、その眼差しだけが、王の「譲れぬ正義」と「孤独な覚悟」を確かに捉えていた。バルティスは一歩前へ出る。
儀式の進行役として、静かに声を放った。
「王命により、会議はこれをもって終了といたします。御前にて意見を述べられた各位は速やかに退出の準備を」
その声は柔らかくも厳かで、白円の間の空気に穏やかな余韻を与えた。数名の補佐官、貴族が立ち上がりぞろぞろと退出の支度を始めた。
ジン博士は肩をわずかに強ばらせながらも、背筋を正し静かに立ち上がり、ラマズドともリヴァンとも、視線を交わすことはなかった。いや、交わせなかった。その胸中には積み重ねてきた信念が国王に届かなかった怒りと虚無が渦巻いていた。ジン博士は国王へと向き直り深く一礼。白衣の裾を揺らし、足早に白円の間を後にした。
続いて、ラマズド長官が無言で一礼し、着席しているラッセルを鋭い目線で睨みながら退出した。リヴァンの手が椅子の肘掛けに乗せられたままわずかに震えていた。握られた拳の関節は白く浮き出しそこから血が滲んでいる。顔は伏せられていたが、唇はきつく噛みしめられ、こめかみの血管が怒りと屈辱を雄弁に誰にも聞こえないように語っていた。
(この屈辱、必ずや返す。王国を、一滴、一滴、染め返すのは、この私だ)
その内に宿った炎は、今はまだ密かにしかし確実に燃え始めていた。
白円の間の王族控室
国王はゆっくりと背もたれに体を預けゆっくりと目を閉じた。疲れていた。だが、その疲労は肉体のものではなかった。言葉にすれば未来を選び取る者としての魂の消耗。自分の一言が、判断がこの国の未来を変えてしまう重圧に苦しめられた。
王は静かに目を閉じた。かつて自らが若き王子であったころの、父王とのやりとりが、心の底からふっと浮かび上がる。それは、まだ王子だった自分が、父王に呼ばれたあの夜のことだった。
――若き日の王宮、月の照る夜
重く閉ざされた謁見の間。燭台の火が揺れる中、父王は玉座ではなく、ひとつの古びた地図の前に立っていた。
「来たか、息子よ。遅かったな」
「申し訳ありません、父上。……何か、ご用でしょうか」
老いた王の背は、かつてのように屹立してはいなかった。
だが、その眼差しは、時の風雪に耐え抜いた者の静かな光を宿していた。
「そなた、エルフエナジーという言葉の意味を、どれだけ知っておる?」
「……数万年前のハレルヤ流星の隕石がこの星に封じられ、大地と命を繋ぐ、精霊のようなものだと教わりました」
「そうだ。だがな……」
父王は、ゆっくりと地図の一点を指差した。
「かつて、この地のエルフ山脈とカルデラはドラン家の聖域だった。イーサム王家が今こうして繁栄しているのは我が祖の代がそれを奪ったからだ。 “交渉”の名のもとに、武力を伴った正当化……結果、多くの命が消え、森は燃え、川は干上がった」
「それは、真実なのですか?」
「いや、それが、我らにとっての真実”であった。ということだ。だが、ドラン家にとっては、“奪われた”のだろう。歴史とは、常にふたつある」
父王は王子の前へと歩み寄り、そっと肩に手を置いた。
「この国は、かつての業(カルマ)の上に立っておる。だが、そなたの代でそれを乗り越えられるのなら、それが“真の王”というものだ」
「私は、その資格があるでしょうか」
「ある。そなたが動植物を愛し、即ち、自然界の摂理を重んじて民の声に耳を傾けている限りは。
力で統べる王から、共に生きる王へ。それこそが“熟した王国”の証だ」
言葉のあと、王は静かに手を差し出した。
「忘れるな、息子よ。王位を渡すべき時を間違えるな。過ぎれば腐る。早ければ割れる。熟す瞬間に渡すのだ」
王子は、その言葉を胸に刻みながら、父の手を固く握った。
「お父様……」
その記憶が、ゆっくりと遠ざかっていった。
――現在、白円の間の控室
王は目を開けた。
隣でイザリオ王子が心配そうに様子を伺っていた。
そして、王はイザリオに視線を向け、ゆっくりと落ち着いた声で話しかけた。
「イザリオが産まれた頃……帝国は和平協定を破り世界は再びこの地は戦火に包まれた」
イザリオ王子は静かに耳を傾ける。
「後に人は、その戦いを『モンスター大戦』と呼ぶようになった。幾千万の命が失われ、国土は焼け野原となった」
「だが、王立科学アカデミーが完成させた国防装置――エルフ・バリアが、最後の砦となった」
「帝国軍も、モンスターの大群も、その光の壁を破ることはできなかった」
しばらく沈黙が流れる。
「戦後、帝国は二度と我が国へ侵攻しないことを誓った」
父王は静かに振り返る。
「だからこそ、そなたは忘れてはならぬ。平和とは、勝者が与えるものではない」
「昨日まで敵だった者と、今日を共に生きようと決めた者たちが、お互いを理解し、尊重し守り続けるものだ」
イザリオ王子は静かにうなずく。
「はい、父上。いつの日か、ドラン家とも真に和解できる国を築いてみせます」
王は満足そうに微笑んだ。
「イザリオ。頼んだぞ」
「陛下、三者会談の準備が整いました。白円の間にお越しください」
バルティスが姿を現した。
「うむ」
王は短く答えると、イザリオへ視線を向けた。
「行こう、イザリオ」
「はい、父上」
二人はバルティスに続き、再び白円の間へと足を運んだ。
「これより三者会談を執り行う。早速だが、半年後、我が王位をイザリオに譲位することに決めた。
この血脈を、未来へ繋ぐのはそなたの務めだ」
王の声には、長き年月と、父王から受け継いだ重責の響きが宿っていた。
(……私が、王に?)
幼少の頃から、父の背中を見て育った。どんなときも揺るがず国を導く、その姿を誇りに思ってきた。だが、いざ自分がその玉座に立つ日を告げられたとき、心の底に押し隠していた不安が顔を覗かせた。
(本当に、私に……)
(務まるのだろうか……)
(父上のように、民から信を得られるだろうか……)
(力に頼らず、人々の声に耳を傾け、自然と共に歩む政を成せるのか)
胸に湧き上がる思いは、やがて静かな決意へと形を変えつつあった。
だが、その決意はまだ輪郭の定まらない“原石”のようなものだった。脈打つ心臓を押さえながら、王子は父の横顔を真っ直ぐに見つめた。そのとき、リヴァンが静かに口をはさんだ。
「陛下、イザリオ様がご即位される前に、外の世界を知る機会を設けてはいかがでしょうか」
「外の世界……?」
「はい。エルファーナ様とともに、西の島へ旅をされてはいかがでしょう。あの島にはバリア塔もございます。王家の保養所もございますので、ゆっくりと過ごすこともできましょう。王国の礎となっているものを、その目で見ておくことは、きっと、お二人の成長にもつながるでしょう」
イーサム王はしばし黙り込み、静かにリヴァンを見つめた。
「……そうだな。考えておこう」
「エルファーナと一緒に旅へ出られる日を楽しみにしております。リヴァン首相。提案ありがとうございます」
イザリオは目を輝かせた。その姿を見つめ、父は穏やかに微笑んだ。
「お前たちの成長を、父も楽しみにしている。イザリオ、お前はこれから自室へ戻りなさい」
「はい、お父様」
イザリオは一礼すると、バルティスを伴って自室へ戻っていった。
リヴァンは、まったく別の感情を胸に抱えていた。誰にも気づかれぬように、ほんのわずかに口元を歪める。
(ついに……来たか)
その瞳が一瞬、赤黒い影を宿す。浮かんだ笑みは祝福ではなく不気味な確信の色を帯びていた。
(これでようやく、この王国を私の色で染め上げる)
会議の円卓から少し離れた位置に座っていたラッセルは、その影のような笑みを見逃さなかった。
(リヴァン……お前は譲位を喜んでいるだけじゃない)
(ラマズドと何があった……)
ラッセルは静かに拳を握る。誰にも見せない友への警戒の火が心にともされた瞬間だった。その異変を王が察知した。
「ラッセル大佐。どうした? 何か言いたそうな顔をしているな」
ラッセルは、迷いを押し殺すようにゆっくりと立ち上がった。
ラッセルは静かに拳を握り、やがて立ち上がる。
「はい、陛下。報道でも取り上げられておりますが、スメラ秘書官の件について……」
「また、その話か。ラッセル、いい加減にしろ!」
リヴァンが遮った。だが、ラッセルは続ける。
「彼女が置手紙を残して魔物討伐に向かうなどあり得ません。彼女は慎重で優れた直感を持っていた。
リヴァン、ラマズドに何を言われた?もし、何か知っているのなら、正直に話してくれ!」
「知らん。私も信じ難い。幼馴染の彼女がそんな行動に出るなど。今も無事を祈っている」
リヴァンの声音は静かで逆に不気味な冷たさを帯びていた。
国王が杖を軽く鳴らし、二人を制した。
「二人共、落ち着きなさい。スメラの安否を気にかける気持ちはわかる。
だが行政区内の不可解な事件を静観はできぬ。リヴァンよ。君は変わった。
成果や効率ばかりを追いかつての謙虚さや敬意を失いつつある。
私は君を息子のように思い数々の政務を託してきた。
だからこそ、初心を思い出せ。
今はラッセルの気持ちに寄り添い耳を傾けるべきだ。
これは民の声を聴くのと同じだ。以前のように、誠実な君を取り戻してほしい」
リヴァンは表情を変えず遠い虚空を見つめていた。
ラッセルは黙って下を向く。
「これにて散会とする」
王は静かに告げ、杖を床に打ちつけた。
その響きが消えても、ラッセルの胸にはなお消えぬ違和感が残っていた。
リヴァンは目を細めて低く呟く。
そして、すぐそばに控えていたマラー秘書官に声をかける。
「速報を流すよう報道局に連絡を。これより、王位継承に向けた準備を本格化する。国内外への公布、初回の準備会議を即座に手配しろ」
「かしこまりました」
マラーは即座に通信端末に指示を飛ばす。
少し間を置き、リヴァンは小声で更に続けた。
「治安局にも通達を入れておけ。ラッセルの動きを監視。
カーンには、首相官邸内の警備体制強化をさせろ」
「承知いたしました」
マラーは静かに頷き、更なる命令入力を開始した。
=ニュース速報=
イーサム国王、王子に王位を継承へ――
コメント
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寺島あおいです🤍 第14話、読ませていただきました。 王の“継続審議”という判断に、もどかしさとリアリティを感じました。ジン博士の倫理の訴えと、ラマズドの冷徹な論理の衝突が白円の間に張りつめた空気を作っていて、どちらの正しさにも胸が痛みました。 そして何より、父王から受け継いだ「熟す瞬間に渡す」という哲学が、今のイーサム王の決断に重なって見えたのが美しかったです。リヴァンの内に宿る暗い炎も、ラッセルの警戒も、次が気になる終わり方でした。 引き続き、王国の行く末を見守らせてください🌷