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その頃、涼平も遅くまで事務所に残っていた。

朝早くから一日中根を詰めて仕事をしている涼平を見て、たまりかねて加納が声をかけた。


「涼平、もう今日はその辺で帰れ! 根を詰め過ぎてもいい物は作れないぞ!」

「ああ、もうこんな時間ですか。今日はかなりはかどったなあ! いやぁ仕事に集中していると恋の悩みも忘れられていいですね」


涼平が呑気な事を言ったので加納は思わず苦笑いをした。

涼平は帰り支度をすると加納に挨拶をした。


「じゃあ先輩、お先に失礼します」

「おうっ、お疲れ!」


事務所を出た涼平は自転車に跨ると家路についた。


時計を見ると、時刻は午後九時を少し過ぎている。

もし今日詩帆が遅番だとしたら、タイミング良く一緒に帰れるかもしれない。

そう思った涼平はカフェに寄ってみる事にした。


涼平がカフェの前に着くとすでに店は閉まっていた。


(遅かったか…)


涼平はため息をつきながら念の為詩帆がいつも自転車を停めている裏口にある駐輪場へ向かった。

するとそこで誰かが立ち話をしているのが見えた。

暗闇の中目を凝らすと、詩帆と西田が向かい合って話しをしていたので驚く。


涼平は咄嗟に木陰に隠れた。

そして二人の様子を木陰から覗き込む。


「ごめんね、帰るところを呼び出しちゃって。いや、ちょっと話したい事があってさ」

「先生話ってなんですか?」

「うん、いや、今度良かったら休みの日に会って貰えないかなと思って」


西田は少し照れたように言った。

それを聞いた詩帆はびっくりして声を出す。


「え?」

「いや、その、僕、江藤さんの事、大学にいる時から実はちょっと気になってたんだ」

「……」

「よかったら僕と付き合ってもらえませんか?」


詩帆は驚き過ぎて何も言えずにいた。

しかし少し間を置いた後、西田にこう質問をした。


「先生は卒業前に石田さんとお付き合いされていませんでしたか?」


詩帆の問いに一瞬西田が驚く。


「ああ、あの時はね。確かに。でも今は誰とも付き合っていないですよ」

「え? でも石田さんが卒業した後結婚したんじゃ?」

「ああ、結婚したけれど一年で別れた。いわゆる性格の不一致ってやつかな」


西田はそう言ってハハッと笑う。

そしてもう過去の事なので特に問題ではないでしょうといった感じで微笑んだ。


そんな西田の様子に、詩帆はなぜか心がモヤモヤするのを感じた。

そして我慢出来ずにこう話した。


「私、今お付き合いしている方がいるんです。彼には交通事故で亡くなった恋人がいるのですが、彼は今でもその彼女の事をとても大切に思っているんです。私は彼のそんな誠実で優しい所が好きですし、とても尊敬しています。だから申し訳ありませんが、先生とお付き合いする事はできません。ごめんなさい」


詩帆はきっぱりとそう言うと、西田に向かって深く頭を下げる。

それから自転車を押してその場を立ち去った。


後に残された西田は、呆然としてその場に立ち尽くしていた。そして詩帆の姿が見えなくなると、ガックリと肩を落として駅の方へ歩いて行った。



その場に一人残った涼平は、しばらくの間木の陰で動けずにいた。

詩帆が西田に言った言葉を思い返すと、今までに感じた事がないような熱い思いが溢れてくる。

それはあまりにも勢いが凄くて抑える事が出来ない。


(詩帆に会いたい! 詩帆に会って話がしたい!)


そう思った涼平は、次の瞬間自転車へ飛び乗っていた。

そしてものすごい勢いで自転車をこいで詩帆を追いかけた。


秋の夜風が涼平の火照った頬を優しく撫でていった。



涼平は更に全速力で自転車をこいだ。

すると漸く前方に詩帆の後ろ姿が見えてきた。

涼平はさらに勢いをつけて自転車をこぐと、大声で叫んだ。


「詩帆ちゃん!」


その声に、詩帆は自転車を停めて振り向く。

そして驚いた顔からすぐに笑顔に変わった。


「夏樹さん! 今帰りですか? すごい偶然ですね」


そこで涼平は真剣な顔をして詩帆に言った。


「詩帆ちゃん! 今からドライブに行かないか?」


いきなり夜のドライブに誘われた詩帆は一瞬驚いていたが、少し考えてから言った。


「はい!」


返事を聞いた涼平の顔がみるみる笑顔になる。


「じゃあ五分後に詩帆ちゃんのアパートに行くね」


涼平はそう言うと手を挙げてから自宅マンションへ向かった。

セルリアンブルーの夜明け

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コメント

2

ユーザー

西田先生、過去は過去、今は今みたいな言い方はダメですよ‼️ 詩帆ちゃんの「菜々子さんとの事をいつまでも大切に思う涼平さんが誠実で尊敬してる」って涼平さんが立ち聞きしてたら居ても立っても居られないよね〜🥰💞 涼平さんは西田先生をライバル視してたけど、詩帆ちゃんは涼平さんとお付き合いしてる❤️その言葉は恋人って事だしそれだけで満足✨ ではなくて突然のドライブデート🚗で急展開かな⁉️✨💏💞

ユーザー

西田先生からの交際の申し込みを 毅然とした態度でキッパリ断った詩帆ちゃん..。 そして その二人のやり取りを木陰に隠れて 立ち聞きしていて.... 詩帆ちゃんが 自分のことを交際相手であり、優しくて尊敬している人....と言ってくれたのを聞いた涼平さん..😍💕ヨカッタネ~♡ 心から愛する人に そう言って貰えたら 、嬉しくてドキドキしちゃうよね~🥺💖 この後のドライブデート👩‍❤️‍👨🚗 キャアー♡ ( 〃▽〃)ワクワク💕

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