テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
葉音/ペア画中
43
#異世界転生
上野文
8,960
コメント
1件
いやあ、第45話「闘う者たち」、めちゃくちゃ熱かった…!カルドが退位して自らグラツィアに殴り込む決断、かっこよすぎる。「自分でぶん殴らないと気が済まない」ってセリフに痺れたわ。コピットが六つの大臣掛け持ちで駆け込んでくるシーンは不意に緩んだけど、引き継ぎ頑張れよ…!アル―・ウッディーンの回想も泣ける。あのエスカリオの王が教えた「飯を食え」が今の戦略に繋がってるの、巧いなあ。レイナとイサベラの母子の対話も重くて、フィリップを認めた最後が切なかった。次の展開が気になりすぎる🔥
カルドはリチャードの国葬を終えると、
自らの退位とジョン王子の即位を年内に行うと発表した。
その後、カルドはエレノアとウイリアム・マーシャルを呼び寄せた。
「後は頼む」
マーシャルがカルドを見つめる。
「行くんだね。グラツィアに」
「ああ」
カルドは短く答えた。
「金で戦争するんじゃなく――」
「自分でやる」
カルドは笑った。
「あいつらだけは、自分でぶん殴らないと気が済まない」
そして、マーシャルに向き直る。
「マーシャル。ジョンを頼む」
「かしこまりました」
この後、ウイリアム・マーシャルは、若きジョン王が背負うことになる、
この国の困難と共に立ち向かっていくことになる。
カルドはククルースを呼ぶと、手短に尋ねた。
「どれくらいになる」
「千名ほどかと」
「十分だ」
その時だった。
バンッ!
勢いよく扉が開いた。
「なんでまた僕が留守番なんですか!」
コピットだった。
「なんで僕ばっかり、内務大臣とか外務大臣とか……
六つも掛け持ちで持たされてるんですか!」
「そりゃ、お前が優秀だからだよ。他の者に任せられるか」
「また、そんなこと言って……」
コピットは不満そうに頬を膨らませた。
「今度は僕も連れて行ってくださいよ」
「わかった。そうする」
「本当ですか?」
「ああ。ヒューバードに伝えとくから、引き継ぎが終わったら追いかけてこい」
「絶対ですよ。嘘つかないでくださいね」
マーシャルが呆れた顔をする。
「お前、国王に無礼だぞ」
するとカルドは、にやりと笑った。
「俺は生まれてこの方、嘘をついたことは一度もない」
「……それ、今まで何度聞いたと思ってるんですか」
カルドは聞こえないふりをした。
そしてククルースを伴い、城を出ていった。
モンゴリア軍は、エンドアにも押し寄せていた。
すでに二つの街が踏み潰されている。
モンゴリア軍は、そのまま南下しようとしていた。
北の地平線に、土煙が上がった。
見張りの兵が叫ぶ。
「モンゴリア軍です!」
城壁の上にいた将軍が、遠くを見つめた。
「数は?」
「わかりません」
兵士は青ざめた顔で答えた。
「地平線が……全部、敵です」
その報告を聞いても、アル―・ウッディーンは動かなかった。
やがて王は、静かに口を開いた。
「私が子供のころ、南の地はエスカリオの支配地だった」
将軍たちは黙って王の言葉を聞いていた。
「だが――ある一人のエスカリオ人がやって来た」
アル―・ウッディーンは、遠い過去を見るように目を細めた。
「その男は、たちまちエンドアを解放した」
王は、かすかに笑った。
「私の故郷……北の貧しい街にも来た」
「そして俺に、文字を教えてくれた」
「……王よ?」
「俺の頭を撫でてな」
アル―・ウッディーンは、遠い日の声を思い出す。
――飯を食え。
――腹いっぱい飯を食え。
――そうすれば、次にやることがわかる。
王はゆっくりと城壁の外を見た。
「兵士に食わせる米がなければ……」
「十万の軍も、一日で消える」
将軍たちの顔を見渡す。
そしてアル―・ウッディーンは、モンゴリア軍ではなく、デルーの街を見た。
「敵は、あの草原の兵だけではない」
「我らの腹を空かせるものすべてが敵だ」
その言葉に、将軍の一人が息を呑んだ。
アル―・ウッディーンは空を見上げた。
「そうですよね……エスカリオの王よ」
その目には、少年だった頃に出会った一人の男の姿が映っていた。
アル―・ウッディーン・ハルジーは、空に向かって微笑んだ。
「お母様……どうして娘の言うことに、耳を傾けてはくださらぬのですか」
イサベラは、すがるように母を見つめた。
「ロウム教皇は、カラコルムに和平の使者を送ると申しております」
「戦争は終わるのです」
スパルーニャ女王イサベラ。
かつて親友でもあった従妹、ジャスミンの遺児である。
その娘の言葉を、レイナは静かに聞いていた。
やがて、大后は口を開いた。
「戦争が……終わる?」
イサベラの目を見つめる。
「本気で、そんなことを思うておるのか」
「……」
「妾は幼き頃、何者からも、この美しい国を守ろうと剣を取った」
レイナは窓の外へ目を向けた。
「今日この日まで、多くの者と戦い……幾人もの人を斬った」
「なれど――」
その声が、わずかに低くなる。
「平和なぞ、訪れなんだ」
イサベラは何も言えなかった。
「お前も女王として生きるなら……」
レイナは娘を見つめた。
「いつか選ばねばならぬ日が来る」
「平和を訴えるのか」
「それとも、剣を取るのか」
しばしの沈黙。
やがてレイナは、ふっと表情を和らげた。
「フィリップは、いい男だ」
「……お母様」
「末永く添い遂げるがよい」
それだけ言うと、レイナは背を向けた。
そして、後ろに控えていた二人に声をかける。
「エレン」
「はい」
「ジャンヌ」
「ここに」
「行くぞ」
二人がレイナの後に続く。
扉へ向かう途中、レイナは一度だけ窓の外を見た。
そこには、スパルーニャの美しい景色が広がっていた。
長く戦い続けてきた女王が、最後まで愛した故郷の姿だった