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空は曇り空。雨でも降ってきそうなくらい、どんよりとした曇り空だった。
そんな中、俺たちは――!
「遅刻遅刻するぅ!」
「のじゃぁー!」
パンをくわえて全力疾走!
たぷん、たぷん……制服のシャツが乳揺れに耐えきれず、ボタンがギチギチ鳴る。
魔法の基礎をある程度習得した俺たちは、身体強化魔法を軽くかけているため、スピードはそこそこ速い……といっても町では自転車程度が限度。ルール的にね。
「間に合えええ!」
スカートの奥、太ももがチラチラと覗き、揺れるたびに白いレースがひらり――風がスカートの奥までのぞき見ていく。
……どうしてこんなベタな展開に?って?
……簡潔に言うと、二日酔い。
魔法目覚ましが俺の脳の混乱(たぶん頭痛が原因)でうまく作動せず、寝坊したのだ……多分ね!?
「のじゃ! のじゃ!」
隣のルカは、俺が起きなかったせいで完全に巻き添え。
「一時間目まで残り10分! 急げ急げぇ!」
「のじゃぁあ!」
あの角を曲がればゴールは目前! ギリギリだけど、まだ間に合う!
うおおおおお! チャージ○回フリーエントリー! ノーオプショ○バトル!! うなれ俺の脚ぃぃ!
――そのとき、世界がスローモーションになった。
……実際はなってないんだけど、そう感じるくらい。
角を曲がった瞬間、ちょうど前方からのっそり歩いてくる神父服の男が!
「あ! あぶな……!」
「え!? な!?」
衝突。
パンが宙を舞い、男が宙を舞い、俺も宙を舞い――
――そして全員、尻もちをついた。
スカートがめくれて、太もも全開、胸も跳ねて一つボタンがはじけ飛んだ。
衝撃で脳がふわっと揺れる……っていうか、ぶっちゃけ痛い。マジで。
相手の男性は尻をさすりながら小さく呟いた。
「いてて……普段なら気づくのに……」
そしてこちらに目を向けた瞬間、その表情が強張る。
「君はっ……!」
「あなたは昨日の!」
お互いに驚いた。
ぶつかったのは、昨日公園の噴水前で死にかけた顔してた――あの若い神父さん。
「の、のじゃっ!? ど、どうして……! アオイ!早くしないと遅刻するのじゃ!」
「え?あっ……そ、そうだよね!」
急いで立ち上がると、スカートの裾を手早く押さえ、ふわっと広がった胸元を整える。
乱れた前髪を直しながら、慌てて神父さんにぺこっと頭を下げた。
「ご、ごめんなさい神父さんっ! 僕たち、もう時間ギリギリでっ……またどこかで!」
「え、あ……」
何か言いたそうにしてた神父さんを振り返る余裕もなく、ルカに手を引かれて――俺たちは再び、揺れる胸を気にする間もなく走り出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キーンコーンカーンコーン――チャイムが鳴り響く。
「ふにゃぁ……間に合ったぁ」
いや違う!今の“ふにゃぁ”は可愛いとかじゃない!
完全に出し切った疲労音!脳も内臓も空っぽのときの“ふにゃぁ”だから!
「のじゃぁ……」
ちなみに今日は入学式以来の、いやそれ以上の汗だくでの登校。
……だ、大丈夫かな?汗くさくないかな?女子として色々アウトでは!?
そんな俺の心配をよそに、教室のドアがガラッと開いて先生が颯爽と登場した。
「今日は予定していた授業内容を一部変更して、スペシャルゲストをお呼びしました。どうぞ、入ってきてください」
「「「え? スペシャルゲスト?」」」
教室が一気にざわめく。
いやいやいや、何それ!?そんなサプライズ聞いてないよ!?
このタイミングで“ゲスト”って……英語の授業で本場の人が来た!みたいな感じ?
「はぁ……へーい……」
「!?」
「のじゃ!?」
入ってきたのは――
ダルそうに肩を落として、まるで空気そのものが重力10倍になったかのような男。
その空気から放たれるオーラはただひとつ。
“めんどくさい”という概念の擬人化――それが今、ドアを開けてやってきた。
「どうも、みなさん初めまして。【ルコサ】と言います。一応エメラルド冒険者してます。……以後、覚えなくていいけど、お見知りおき~」
アニメだったらここでさ――
「え!? 今朝ぶつかったあの人が!?」
とかキラキラエフェクト混じりの演出入るところなんだけど、
現実っていうのは、そんな甘くない。
「「よろしくお願いしますー」」
……うん、これが答え。
どんなに偶然だろうと、たった今“教室の中”という戦場で出会った以上、
そこに過去の偶然は挟まらない。ここは学園。ここは現実。
それよりも――!
【エメラルド級】の冒険者だぞ!?
本場の外国人なんてレベルじゃない!
俺たち《アドベンチャー科》にとって本物の冒険者ってのは、憧れの……もう崇拝対象なんだよ!
そ・れ・が! エメラルド級!?
すすすすすごい! 何!? なんで!? どうしてここに降臨されてんの!?
これサインとか貰っちゃっていいやつ?
……って、あれ? なんか、こっち見てる……?
あ、ヤベ。とりあえず軽く頭さげて小声で「ちわっす」って言っといた。
そして、始まる――質問コーナー。
さすがだよみんな、俺たち全員【冒険者志望】だ。
もう興味と好奇心とテンションが渋滞してる。
ルコサ先生、質問の嵐に遭遇。
「ルコサ先生、エメラルド冒険者って、一人でなったんですか?」
「あー……いや。俺含めて、四人パーティーな」
返答、棒読み。でも超絶内容。
「じゃ、じゃあ……今どれくらい儲かってるんですかっ!?」
「大体……そうだな。新種のモンスターをギルドに納めて……一匹、一億」
「「「おおおおおぉおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
おおおおおおおぉぉぉぉ!!?
夢見た!? 今俺、夢見てた!? いやマジで一匹で一億ってどこのファンタジー!? ここか!!!
ちょ、待て、それだけありゃ魔皮紙も魔法具も魔法ドレスも……って、なんだ!?いや俺男だからドレス要らんし!
つーか!一億って!
ルコサ先生、やっぱレベチだった……
「はい!ルコサ先生は、どこの役割なんですか?」
「俺は中距離専門の魔法サポート。あとは、パーティーメンバーと罠を張ったり、色々って感じだな」
「おおお!では得意な魔法は!? 適正魔法とかあるんですか!」
「残念ながら【適正魔法】はないけどね。でもこの装備は特注品でさ。【転移魔法】に【炎魔法】【水魔法】……必要なものの魔法陣やモンスター素材で作ってある」
「えぇ!? え、それって――」
「そうだなぁ……君たちが知ってそうなやつで言うなら――【メテオクラッシャー】も、一人で使えるよ」
「「「おおおおおぉぉぉおぉぉお!!!」」」
おおおおおおぉぉぉぉ!? マジか!? 【メテオクラッシャー】!?
アレって超級魔法だぞ!? 巨大な魔力の塊を空気中に生成して、それが相手を追尾してドッカーンする、ロマンと破壊力の塊みたいな魔法じゃん!隕石みたいだからメテオクラッシャー!
マジで見たい! でも校舎壊れるか……うん、いや、でも見たい!
「はいのじゃ」
――お、ルカが手を挙げた。
「なんだい? ルカさん」
え、ちょ、なんで名前知ってるの!? 俺たちまだ自己紹介してなくない!? ……あ、名簿か。納得。
「どうしてここに来たのじゃ?」
うーん? 質問の切り口がちょっと違う?
「……やることがあってね?」
「そのやることとは何なのじゃ?」
「それは秘密だぜ☆」
「ぐぬぬぬぬ……!」
うん、すごく……ノリのいい先生だなぁ。
「これだけ言っとくと、【仕事中】で……こっちから動き出した……かな?」
そう言って、ルコサ先生は一瞬――俺を、見る。
「????」
え、なんでこっち見た?
「で、みんな。質問まだあるだろうけど……そろそろ限界なんで、今日はここまで」
「「「えー!」」」
「……頭痛がひどくてな。勘弁してくれ」
確かに、さっきより顔色が悪いかも……目の下とかちょっと黒いし。
先生も心配そうに駆け寄る。
「大丈夫ですか? 無理せず――」
「大丈夫じゃないです……すいません、保健室借ります」
そう言い残し、ルコサ先生はフラフラと足取りのまま、教室を出ていった。
「……動き出した、のじゃ……」
小さく呟いたルカの声が、やけに意味深で。
でも、俺にはまだ――わからない。
それでも……
……とりあえず、今日もなんとか平和っぽいし――
もうすぐ、体育祭だしね!
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【魔法の等級について】
魔法にはそれぞれ等級が存在し、段階ごとに威力・発動難易度・魔力消費が大きく異なる。
等級は下から順に:
• 初級
• 中級
• 上級
• 超級
• 神級
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【初級魔法】
・日常生活から戦闘補助まで幅広く使用される。
・魔力消費は非常に少なく、初心者や魔力量の少ない者でも使える。
・炎や水、風などの基本属性を扱うことが多い。
・例:小さな火を出す《ファイアスモール》、水を出す《アクアドロップ》など。
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【中級魔法】
・攻撃・防御の両面で実用的。
・戦闘職の冒険者や学生たちがよく使う魔法。
・一対一や少数戦で主力として活躍する。
・詠唱や構築にはある程度の習熟と訓練が必要。
・例:火球を放つ《ファイアボール》、氷の槍を飛ばす《アイスランス》など。
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【上級魔法】
・大規模な攻撃・補助を行うことができる。
・魔力消費は多いが、戦闘の流れを一気に変える力を持つ。
・一部の冒険者や軍人は、これを習得することが強さの証明になる。
・一人では使用が難しい場合、【魔皮紙】や装備補助が必要なこともある。
・例:《フレアバースト》《ストームエッジ》《ガイアクラッシュ》など。
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【超級魔法】
・大量の魔力と引き換えに、莫大な攻撃力を持つ魔法。
・本来は、魔力に長けた人間が十数名、魔皮紙1枚に1時間ほど魔力を流し続けて発動するレベル。
・そのため実戦向きではなく、魔皮紙も使い切りの高額品となる。
・狩猟に使ったとしてもコストがリターンを上回ることが多く、使用者は限られる。
・「一応、エメラルド級の冒険者なら何時間もかければ一人で発動できる」と言われるほどの難易度。
・例:《メテオクラッシャー》《ハルマゲドンレイ》《アストラルバースト》など。
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【神級魔法】
・人生の中で到達できる者はほぼ存在しないとされる。
・魔皮紙化も不可能。
・どれだけ才能と努力を重ねても、その境地に達する者はほんの一握り。
・ただし古代から存在は確認されており、現在も一部の研究機関では解析が進められている。
・ミクラル国においては、グリード王国の代表騎士が【神級魔法】である《武器召喚》を使用することで知られている。
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※なお、魔法の等級はあくまで一般的な目安であり、装備・補助・連携によって威力や範囲が上下する場合もある。