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「あぁ、ロミオ様、ロミオ様!!」
甲高くも少しの低さを交えた言葉が教室中に響く。反響を繰り返すわけでもないが、なぜか自分の心ではその言葉が反芻されていた。仮とした衣装を纏い、姿も何も練習なのだから自分の姿であることには変わりない。
「なぜ貴方はロミオ様でいらっしゃいますの?」
喉を少し締め、何かを懇願するかのように感情を込める。
波にのってきたところで、ふとパンパンっ、と甲高い拍手が2回鳴り響いた。自分の声は反響していないのに、拍手だけは鳴り響いていた。
「じゃあしにがみはこれで終わり。次は───…」
先ほどまで暴れ狂っていた心臓も、ガクブルと震える足を力づくで止めていたのも、声の震えを感情に乗せたのも…全てが終わった。僕は全身の力が抜け、安堵の息を吐いた。つまりは、緊張の糸が解けたということだ。
そんな僕───しにがみは、演劇部の顧問に何のアドバイスも、何の褒めもなく帰れと指示をされ、僕はカバンを背負って教室を出た。
(あの先生、ほんと下手だよなぁ。)
あの先生は、あまりにも不器用すぎる。それを知っているのは僕だけだ。もちろん物理的に言う手先の器用さではない。
───言葉の伝え方だ。あの先生はアドバイスをすることも褒めることもしない代わりに、ダメなところがなければ帰れと指示をし、ダメなところがあれば少し残れと指示をする。たったそれだけだ。
だからなのだろう。みんなが顧問のことを裏で”鬼畜ババア”と呼んでいるのは。まぁそりゃ、ダメなところもあるけれど……僕もそこまで好きではない。一度くらいはババアと叫んでやりたいところだが、臆病な僕にはできっこない。
「…はぁ。」
深くため息をついて、走り出す。外の空気は冷たいけれど、美味しかった。髪は靡き、鼻は冷たくなり、足は寒さで痛くなる。手も震えるけど、家の温もりを求めて、ただがむしゃらに走った。
───だからバカなのだ、僕は。
「どわっ!」「う゛わ゛っ?!?!」
思いっきし前からも走ってくる人とぶつかってしまった。それに、相手もビビり倒したのかあまりにも大きな声を出していて、僕は少し胸が苦しくなりながらもすぐに起き上がり、相手に手を差し伸べた。
「ごっ、ごめんなさい!!」
目の前にいる中学生くらいの男の子は、メガネをかけており酷く陰気じみていた。まるで僕の学校生活と変わらないようだ。
……はは、自虐のつもりで言ったけどあまりにもダメージが大きい…。………笑えない。
少しズレたメガネに彼は慌ててメガネを元の位置へ戻し、カバンを背負って僕の手をとった。
「だ、大丈夫ですか?怪我、してないです?」
あまりにも大きくぶつかったせいか、僕は膝がジリジリと痛む。多分だけれど、出血でもしているだろう。それに、僕が出血をしているということは、相手も怪我をしている可能性が大いにある。
「大丈夫です」と言葉をかけるが、相手は僕の目を見て一言、言い放った。
「───嘘つかないでください。」
「………は、あ?」
あまりの突然の言葉に、いつもの生意気な言葉がふいに出てしまった。けれど、僕はそれに気づくことはなく、ただただ頭が混乱していた。嘘をついたという証拠も、自覚さえもないのに”嘘をつくな”なんて言われようがどうしようもない。
「……え、えぇっと…嘘、って?」
優しく問いかけるも、相手はこちらを凝視するばかりだ。酷く目立つ金色の髪に、淡くも太陽のような彩度を持つ瞳、少し長い前髪にかかるメガネ…。陰気じみているくせ、イケメンオーラはメラメラと炎のように燃えているように見えた。
相手は浅いため息を一つついてから、頭を掻きむしる。そうして丁寧な手つきでカバンを漁り始め、彼は何かを見つけた瞬間にこちらにそれを差し出した。
「…えっと、はい、バンソーコー。どうぞ。」
「………はっ?」
急な絆創膏に、僕は裏返った声を出しながらも驚くが、相手は何てことのない顔をしながらもそれをこちらに差し出す。だからといって、これを断るのも何だか悪い。
ここまでしてくれているのだ。彼の良心を素直に受け止めることとして、僕はその絆創膏を受け取った。
「………膝、バンソーコー貼ったらゴミは僕に。」
酷く落ち着いた表情に、僕は少し距離を置いてしまう。先ほどまで弱々しかった顔は今では酷く冷静であり、冷徹な顔にしか見えない。そんな彼に、僕は重い口を開ける。
「え、が、学校で捨てれば……」
血の出ている膝を絆創膏で防ぎながらそう言葉をこぼすと、相手は途端に先ほどの弱々しい顔に戻る。
「えっ。で、でも…僕がぶつかっちゃったから…捨てに行かせるのは、ちょっと…。」
遠慮しがちな顔に、僕は少しだけ、顔を歪めてしまった。それは多分、僕が気づいてしまったから。彼の先ほどの怖いくらいの冷徹な顔は、演技だと。だからこそ、彼の演技が下手くそすぎて苦しくなる。
(───僕みたい。)