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「へぇ、演劇部……」
「うん。先生は少し厳しい感じに見えるけど、不器用なだけだからさ。それ以外は普通の先生だし。」
結局のところ、僕たちは2人で絆創膏のゴミを捨てるためだけに長い廊下を渡っていた。
酷く目を合わせづらく、俯く。そんな時にふと目に入るのは、微かに空いた僕たち2人の距離間。酷く広く、遠い。細い人だったら余裕で通り抜けられるほどの間だ。かと言って急に近づけば相手との距離が狭くなっても、心の距離が遠くなるだけだ。僕はそれを十分に理解しているし、十二分に感じている。
それでいて、相手のオーラがまさにそれだった。
「…演劇部、かぁ。」
そんな僕たちは部活動の話をしていて、どうやら相手は部活動には入っているが、出席はしていないのだと。要するに、幽霊部員だ。
そんな彼は何故か懐かしむように演劇部という単語を小さな声で呟いていた。何か事情があるのかな、なんて思いながら歩みを進めていると、いつの間にかゴミ捨て場に到着していた。僕は丸めていたそれをポイっと捨てると同時に、相手は声を上げた。
「───あの、君、名前は?」
覚悟を決めたように言葉に出す彼に、僕は少し目を見開いた。
「僕は、しにがみです。えっと…君の、方は……?」
どもりながらも、相手に名前を聞くと相手は少し間を空けてから答えた。
「───ぺいんと。2年B組、出席番号35番のぺいんと。」
僕はその名を聞いた時、少し肩が震えた。…いや、確かに名を聞いて驚いたところもあるが…1番は、学年だ。
「え”っ?!せ、先輩?!……なんですか…?!?!」
てっきり同い年で他のクラスだと思い込んでいた僕は、自分が先ほどまで犯していた失態が頭の中で繰り返されていた。そんな僕に自分自身を責めながらも、なんて日なんだ、厄日じゃないかと神様にも少しだけ当たってしまった。
そんな僕が面白かったのか、彼は少し笑った。
「あははっ。しにがみくんって、意外と演技下手くそなんだね。」
「は、はぁ?!」
急に言われる関係のないことに、僕は少し焦りと動揺、怒りを露わにすると相手はまたふふっ、と笑った。いや、笑う場面じゃないんだが?なんて思いながらも、僕は彼の話に耳を傾ける。
「いやぁ、だって先生から聞いてたイメージと全然違ったからさ…あははっ。」
目尻から流れる涙を拭いながらもそう言う彼の言葉に、僕は不信感を抱く。
「……先生?って、誰?誰先生ですか?」
そう問いかけると、相手は微かに笑いを含めながらも答えた。
「あぁ、演劇部の先生だよ。だって僕、演劇部に入ってるから。」
「……………はぁ゛?!?!?!」
大きな声を出すと、相手はまた笑った。そりゃそうだ。何か話がおかしいと思った。2年生のくせに部活の話したり、2年生のくせになんだか陰気じみてて、喋り方もぎこちないし…。あれもこれも、全部僕は踊らされていたのか?
「…じゃあ、ぺいんと先輩は演技できるんですか?幽霊部員なら、あんまできないと思いますけど…」
僕が呆れるように言うと、相手は少し悩んだ素振りをしてからこちらに満面の笑みを向ける。
「俺、演技好きだから。だから、鈍ってはないと思うよ。」
───鈍っていない。もしその言葉が本当だとしたら、もし先生の言い分がこの人だと合っているのなら、噂話が合っているのなら、今僕はすごいことになってしまっている。
だって、この人は───
───市内一の役者だと、耳にしたから。
「……僕も、演技は好きですよ。」
一言ポツリと呟き、僕は靴を履き替える。相手はポカンとした顔をしているが、僕はそれをフル無視。靴を履き替え、ガシャン、と自転車のスタンドを上げてからサドルに腰を下ろす。
「───じゃ、僕帰らないといけないので…」
誤魔化すように、足早に立ち去ろうとする。腰を上げ、自転車を立ち漕ぎする。…しようとした、ところだった。
ガシャン、と大きな音が耳を貫通し、僕の体の重力は後ろへ引っ張られる。転けそうになりながらも後ろを見れば、先輩が僕の自転車を止めていた。
「ちょっ…何してるんですか!危うく怪我するところでしたよ?!」
相手の行動に驚きながらも、微かな怒鳴りを入れるようにする。相手は先ほどと同じような満面の笑みをこちらに向け、一言僕に放つ。
「俺も乗せて!」
口から出たのは、アホな声のみだった。
……………
風が冷たく、肌が痛い。風の音も、何かを叩くような音で。オレンジ色に染まる空色のせいだろうか、この時間帯はもう流石に寒い。自転車通学は夏でも冬でもいくらでも恨める。
今日の自転車はいつもより重くて、重心が違くて、少し難しい運転になっていた。
「…なーんで先輩と公園に?!」
交通量が多く、風も強い。大声で立ち漕ぎをしながらも先輩に声をかける。ちら、と後ろを覗くように見るも、相手はよそを向いている。
「…んー。」
微かに聞こえる声で、確かにそう言った。手を口元に当て、考えるようなそぶりを見せて。
彼のかけているメガネが徐々に下にずれながらも、相手は冷たい風を受けて鼻を赤くしていた。
「君、僕と会ったこと…ある?」
微かな微笑みを見せる彼に、寂しさや悲しさが含まれていたのは無視した。だってその言葉は、図星だから。
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