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ありんす
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ねこなさま🐈⬛💘
7
す㍄
9
遡ること数時間前――
ステラはテーブルに並ぶダークマターを前に、腰が砕けそうになっていた。
それを生み出した張本人であるソニアは、自分の作った料理(?)を前に渋い顔をしている。
「申し訳……ない」
「だ、大丈夫よ。誰にでも得意不得意はあるもの!」
「そ、そうでしょうか」
「いーや、センスないからやめた方が良いよ」
ソニアの料理の味見担当として呼ばれたナハトは、一向にまともな料理が出てこず、空腹が限界に近づいている。
「ねぇ、皆に貴重な食材集めさせに行ったけど、結局何を作るつもりだったの?」
「それは、その……宮廷料理のようなゴージャスな――」
「身の程を知れ」
ナハトの冷徹な一言に、ソニアは思わず「すみません」と謝罪する。
「目玉焼きの時点で黒焦げにしちゃうんだもん。ママはもっと簡単なの教えてあげないと」
「そうね、目玉焼きを作れないと正直手詰まりなところもあるんだけど」
何にでも優しく答えてくれるステラが、ついに困り果ててしまっている。ここまで来ると、本当に救いようがない。
「こうなったら……お鍋にしましょう!」
「鍋、ですか?」
「ええ、お鍋ならお出汁を入れて材料を入れるだけ。焦げ付いたりすることもほぼないわ」
「なるほど、それならわたしにでも出来る!」
「おぉぉ! じゃあ早速練習だ!」
高級食材の全てを鍋にぶち込む。繊細な味わいを残すなどという、技術的な要素を捨て去った安定の選択肢。
ステラは出汁の取り方から、食材の投入順番まで丁寧に教え始める。
「こうやって小さく切り分けて……」
「なるほど、火の通りにくいものから順に……」
出汁もステラが作ったものを使用するため、もはや失敗のしようがない。
鍋の中では、鶏肉や海鮮素材がグツグツと煮え始め、豊かな香りが立ち上る。
「これで蓋をして、全てに火が通ったら完成よ」
「簡単だ、もう少し難しくても……」
「やめときなよ」
「やめとこっか」
ナハトとステラに即座に釘を刺され、ソニアは唇を尖らせる。
「じゃあちょっと私トイレ行ってくるわね。吹きこぼれたら火を弱くしてね」
「わかりました」
「ボクもできるまで昼寝~」
トイレに行くステラと、リビングのソファーに寝転がるナハト。
キッチンにはソニア一人……。
彼女は蓋を開けて、練習用の鍋の良い香りを匂う。
「う~む……なかなか良い。しかし色味が少し地味だな。私が作る料理はゴージャスでありたい。何かゴージャスになるものはないか……」
キッチンをあさると、彼女の好きそうな食材がいくつか見つかる。
「キャビアにフォアグラか……悪くない。おっこれは金箔じゃないか、私の料理に相応しい。こっちはドンペリーニョン。アルコールを入れると風味が増すと言うし、これも使おう」
キャビア、フォアグラはとりあえず缶の中身を全部ぶちまけ、ドンペリーニョンを大量投入。更に金箔で鍋全体をゴールド仕様に。正しくゴージャスな鍋が出来上がる。
「匂い付けにミントの葉とマスタードも入れよう。緑もあって綺麗だ」
そこにトイレからステラが戻って来る。
「そろそろ出来たかしら?」
「見て下さい、更にゴージャスでエレガントな鍋にしました!」
ソニアは誇らしげに鍋を見せる。
キャビアフォアグラは沈殿してしまった為、見た目は金に輝く鍋に見える。
「あらあら金箔を入れたのかしら。少し入れ過ぎかもだけど、まぁまぁこれも綺麗ね」
「ねーねーできたー?」
ナハトも匂いにつられてやってくる。
それぞれ小皿に取り分けると、金箔が煌めいて美しい。
「じゃあ味見を……」
三人が口に鶏肉を含むと「ん゛!」とうめき声が漏れる。
鼻の奥を突き刺す生臭さ、口の中で暴れるアルコールの刺激、そして金箔の妙な舌触り。
青い顔をした三人は、毒物を見るような目で小皿を見やる。
「な、生臭い臭いが鼻の中を駆け巡ってる……あとなにこれ? お酒っぽいんだけど」
「な、何かしら、私なにも入れてないと思うんだけど」
「金箔も口の中に張り付いて不快感ある」
見た目100点から繰り出される、味マイナス100点。
「おかしい、美味しくなる食材しか足してないのに」
「えっ、ソニアちゃん何か足したのかしら?」
彼女は使用した、キャビア他ドンペリーニョン、ミント、マスタードをテーブルに並べる。
「これを追加した。豪華になるかと思って……」
「なんで素人のくせにオリジナリティだそうとするんだよ!?」
ナハトの叫びはもっともである。
「美味しいものと美味しいものでも、喧嘩しちゃうことがあってね」
「喧嘩……ですか」
「甘いものと辛いもの同時に口の中に入れたら不味いでしょ?」
「確かに……」
まさかの鍋すら失敗してしまい、三人に暗雲が立ち込める。
すると、玄関から声が聞こえてきた。
「あっ、ラウルたち帰ってきたよ!」
「どうしましょう、まだ全然仕上がってないのに」
「土台初心者を、たった数時間で料理できるようにするってのが無理があったんだよ」
ナハトの圧倒的正論。
「ラウルちゃんに相談しましょうか」
◇
俺は殺し屋リスの肉を持って、急ぎキッチンへと向かう。
当然ソニアの料理の進捗を聞くためだ。
中へと入ると、青い顔をしたママ上たちの姿が目に入る。
「……ダメだったか」
「ごめんね、手は尽くしたんだけど」
「すまない、私が不甲斐ないばかりに」
俺は練習で作ったと思われる鍋のフタを開ける。金色の美味しそうな鍋だが……。
「食べてもいいよ。この世の悪を煮詰めたような味がするけど」
ナハトが顔をしかめながら、口元を押さえている。どうやら相当な毒物を作ったらしい。
「よし、わかった。俺がソニアでも作れるとっておきの料理を考えた」
「大丈夫ラウル、鍋ですら失敗する子だよ?」
恐らく火を使う時点でハードルが高いのだろう。
火を使わず、簡単で、それでいて高級感のある料理と言えばこれだ。
コメント
1件
もうお腹抱えて笑っちゃったよ……「素人がオリジナリティ出そうとするな」ってナハトのツッコミ、まさにその通りで最高すぎる(笑) キャビアに金箔、ドンペリにミントとマスタード、全部入れて「ゴージャス」って言い張るソニアの暴走、完全に狂人ムーブで好き。 でも最後の「火を使わず高級感のある料理」ってラウルの発想に、めっちゃ続きが気になる~!