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遥の相談室2

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遥の相談室2

48 - 第48話 学校の休み時間がいちばんつらい

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2025年11月20日

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放課後の旧準備室は、薄暗い。窓は半分だけ開いていて、外から吹き込む風が紙の端を小さく揺らしていた。部屋の奥の机には、一人の男子生徒が座っている。遥――この学校の一部の生徒のあいだで“相談に乗ってくれるらしい”と噂される高校二年だ。


彼は机に肘をつかず、背もたれにも寄りかからず、ただ静かに座っている。誰かを待つ、という様子もなく、ただそこに“いる”。


そこへ、戸口の影が揺れた。


「……あの」


小さな声。遥は顔だけをわずかに向けた。


「入りなよ」


その一言は、歓迎でも拒絶でもなかった。ただ事実を述べただけのような、乾いた落ち着きがあった。


生徒はおそるおそる部屋に入り、椅子に腰を下ろす。落ち着かない視線が机の上を泳ぐ。


「……相談、してもいいですか」


「話したいなら。無理に吐き出す必要はない」


その言い方に、焦らされていた気持ちが少しほどけたのか、生徒は息を吸い、言葉を落とした。


「……休み時間が、いちばんつらいんです」


遥は頷かない。相槌も打たない。ただ“続けて”と静かに空気で示す。


「みんな集まって話してて……自分は、どこにいればいいか分からなくなって。席に座ってるだけでも“浮いてる”って思われてる気がして……」


言葉が詰まった。視線が沈む。

遥は目をそらさず、しかし決して深く覗き込むこともせず、一定の距離を保ったまま言った。


「教室って、誰が命令したわけでもないのに、勝手に“役割みたいなの”が出来るからな。群れるやつ、黙ってるやつ、中心にいたがるやつ。……おまえは、そのどれでもないってだけだよ」


生徒は、意外そうに顔を上げた。


「……それって、悪いことなんですか」


「悪いなら、学校はとっくに全員同じ人間で埋まってるだろ」


淡々と言う。ふざけてもいないのに、少し救われるような調子だった。


生徒の肩がわずかに落ちる。


「……休み時間って、自由な時間じゃないですか。でも、自由って……しんどいんですね」


「自由は“自分で選ぶ”ってことだからな。逃げ場がないと、しんどくなる」


遥は一度目線を机に落とし、また生徒へ向き直った。


「おまえ、たぶん周りが思ってるより、よく人を見てる。だから疲れる」


生徒の喉がかすかに動く。


「……そんなこと、誰にも言われたことないです」


「普通は言わないよ。気づいたところで、誰も説明できないから」


沈黙が落ちる。だが痛い沈黙ではなかった。

生徒は指先を押し合わせながら、小さく問う。


「……どうしたら、休み時間が怖くなくなりますか」


遥は少しだけ椅子を引き、姿勢を正した。ほんの数センチ動いただけなのに、空気が変わった。


「まず、“どこにいればいいか”を決めろ」


「……決める?」


「毎回、考えるからしんどいんだよ。“迷い”は体力を使う。廊下側の窓でも、黒板の横でも、どこでもいい。“自分の居場所だ”って一回決めたら、そこにいるだけでいい」


生徒はその言葉をじっと飲み込んだ。


「……そんなことで、変わるんですか」


「変わる。人間は“選択が少ない”ほうが動きやすいから」


遥は続ける。


「あと……声をかける相手は、一人だけでいい。毎日じゃなくていい。“今日、誰か一人に話しかけられたらよし”くらいでちょうどいい」


「輪に入らなくても……?」


「入らなくていい。入る必要のほうが珍しい」


生徒はわずかに笑った。涙に濡れたような、弱い笑みだったが、確かにそこにあった。


「……なんか……楽になりました」


「なら、来た意味はあったな」


生徒は立ち上がった。来たときより背が伸びたようにさえ見える。


「また……来てもいいですか」


「おまえが話したいなら。俺はここにいるだけだから」


その無愛想とも取れる言い方に、逆に安心があった。


生徒が扉を閉めると、部屋には再び静寂が満ちた。


遥は一人残されて、小さく吐息を落とした。


「……休み時間がつらいのは、あいつだけじゃないだろ」


誰に言うでもなくつぶやき、窓の外へ視線をやった。

夕の光が資料室の埃を照らし、静かに渦を描いていた。


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