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「 忘却の残り香 。 」
────────────────
朝だった。
昨夜の空気はまだ残っている
レイアは宿で寝ている
レンは壁にもたれてスマホを見ていた
俺は、一人で歩いていた。
理由はない
ただ、足が向いていた
────────────────
街の外れ
人気のない道。
そこで、立ち止まる
「……」
いる。
だが、気配は弱い
でも、妙に引っかかる
──── 歪者ではない。
もっと、静かだ。
「……」
白い影が見えた
人のカタチ
でも、輪郭が少し曖昧だった
[……]
声はない
ただ、そこにいるだけ
「……何者だ」
反応はない
近づく
その瞬間
────頭が揺れる
【……間に合わなかった……】
【…ごめん……っ…】
「……っ…」
まただ
でもこれは、” 敵の声 “ じゃない。
もっと…奥だ。
[……]
影が、こちらを見る
ゆっくりと。
[……あ…]
そして、口を開く
[……だれ…]
その一言で、
何かが引っかかる
「……お前は」
言葉が続かない
なぜか、出てこない
[……あなた]
少しだけ首を傾げる
[……知ってる、気がする…]
「……」
心臓が僅かに重くなる
(……なんだ、これは…)
思い出せない
でも、
” 忘れてはいけない何か “ がある。
「……名前は」
無意識に聞いていた
少し、沈黙の時間が続く
[……ない]
即答だった
[……分からない]
その声は、空っぽじゃない。
でも、” 抜けている “ 。
「…そうか」
それしか言えなかった
また、沈黙の時間が続く
風だけが動く
[……あなたは]
小さく言う
[……だれ]
「…シキ、だ。」
[……シキ]
繰り返す 確かめるかのように
影の目が、少しだけ揺れる
[……いたい]
「…」
[…ここ、]
胸に手を当てる
[……見てると]
一歩、近づく
[……くるしい。]
「……」
言葉が出ない
[……なんで]
その問いは、
誰にも向いていない。
ただ、零れたものだった
「……」
俺は答えられない
分からないからだ。
でも
目を逸らせなかった
(…これも、”見る”のか。)
昨夜の言葉がよぎる
『『 一緒に見ればいいじゃん 』』
「……来い」
口が勝手に動いていた
[……?]
「…分からないなら、」
一瞬、間を置く
「そのままでいい。」
[……]
「ここにいろ」
また、沈黙の時間が続く
影は少しだけ考える
そして、
[……いいの]
「……ああ」
その瞬間、ほんの僅かに
空気が、軽くなる
[……じゃあ、]
小さく頷く
[……行く]
その言葉は
決心 でも、 感情 でもない
ただ、
” 選んだ音 “ だった。
「……レム」
[……?]
気づけばそう呼んでいた
「…それが、お前の名前だ」
[…レム]
ゆっくり、繰り返す
[…うん]
その声は、どこか不安定で
でも
消えてはいなかった。
────────
夜に近い夕方だった
街の色が、少しずつ落ちていく
「……ここだ」
俺は足を止めた
後ろには、レムがいる
[……]
何も言わない
ただ、ついてきている。
それだけで十分だった
────────────
扉を開ける
レイアが先に気づいた
『…おかえり!』
軽く手を上げる
その視線が、すぐに後ろへ向く
『…誰?』
レンも、ゆっくり目を開ける
[……]
レムは俺の後ろへ隠れてしまった
「…新しいやつだ」
短く言う
『…雑じゃない?』
レイアが少し笑う
でも、その目は見ている
〈……〉
レンは何も言わない
ただ、レムを見ている
[……]
レムは、少しだけ視線を落とす
少しだけ空気がズレる。
『……名前は?』
レイアが聞く
[……レム]
小さく答える
『…へえ、いいじゃん』
軽く返す
でも、そこで止まる
『……で、何者?』
沈黙の時間が続く
俺が答える
「……分からない」
『は?』
「記憶がない」
空気が変わる
レンの目が、僅かに細くなる
『…それ、大丈夫なやつ?』
「分からない」
また、それだけだった
レムは小さく言う
[……でも]
全員の目線がレムへ向く
[…ここにいると、]
少しだけ、言葉を探す
[……いたくない。]
レイアの表情が変わる
『…そっか』
それ以上は聞かない
レンは小さく、息を吐く
〈……シキ〉
初めて口を開く
〈シキは、分かって連れて来てる…でしょ?〉
「……ああ」
短く答える
でも、それ以上は言わない。
レンはそれを見て、何も言わなくなる
『…まあ、いっか』
レイアが軽く言う
『ここ、そういうのが多いし』
その言葉に、少しだけ空気が緩む
[……]
レムはまだ、立っている
「…座れ」
[……うん]
ゆっくりと、座る
ぎこちない動き
でも、逃げてはいない
しばらく、誰も喋らなかった
同じ空間にいる
それだけだった。
「…レム」
[……?]
「…ここにいろ。」
それだけ
[…うん]
小さく頷く
その声は、まだ不安定で
でも、確かに 残っていた 。
その日、
もう一つ、 ” 欠けた存在 “ が加わった
それはまだ
過去 でも、 意味 でもない。
ただの ” 結果 “ だった
来世はくらげ
#ダークファンタジー