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一人私室でくつろぎ、シュウと一緒に寄り添いながら刺繍を楽む。本当ならシドもいれた三人で一緒に何かをやりたかったのだが、彼の部屋へ行ったけど反応が無かったので、仕方なく今さっき戻って来たところだ。


「何処へ言ったのかしらね?シドは」


シュウヘ訊いたからといって答えは得られないのに、つい口に出してしまう。案の定、シュウは首を傾げて短い鳴き声をあげるだけだったのだが、その仕草が可愛らしかったので、私は少し心が和んだ。

指先を少し揺らしながらシュウに近づける。すると、子猫がじゃれつくみたいに遊び出し、刺繍どころではなくなってきた。尻尾を振り、小さな光を撒き散らしながら何度もジャンプして掴もうとするのを、指揮者の様な仕草で回避する。「ピャッ!」と声をあげながらシュウが悔しそうに指を追い、私は逃げる。その繰り返しをしていると扉がノックされる音が聞こえた。

「誰かしら?——どうぞ!」

少し大きめの声で音の方に向かい返事をすると「失礼します」と言いながらシドが入って来た。


「シド!戻ったのね、何処へ行っていたの?」


彼の姿を見るなり私は、手に持っていただけになり、全く進んでいなかった刺繍の枠をテーブルに放るように置いてシドの元へと駆け寄り、彼の腰回りに抱きついた。

「カイル様に呼び出されたから、彼の執務室へ行っていたんだ」

「あら、父さんが?最近忙しそうにしていたけど落ち着いたのかしら?」

「いや、相変わらずだったよ。疲労が溜まっているのか少しクマが出来ていたな」

「回復魔法を使えばいいのに。それすらも億劫なのかしら」

頰に手を当てて『んー』と唸ってしまう。人の事は言えないが、父は何かに集中すると他が見えなくなるので少し心配だ。

「かもしれないな」

効率的ではないなと思いながらも、その辺の事は母やセナが管理するだろうと、私は特に考えない事にした。自分が干渉せずとも二人はしっかりやってくれるから。


「どうぞ座って、シド」

逞しい腰から離れ、服の袖を引く。相変わらず白いシャツにトラウザーズというラフな格好だったが、こうも剛健な体つきだと、それでもお洒落に見えてしまう不思議さに私は『少しずるいなぁ』と思ってしまった。

「いや、すまないロシェル。遊びに来たわけではないんだ」

シドは申し訳なさそうにそう告げ、袖を引く私の手をそっと解く。そのままその手を掴み、包み込むように手を更に重ねてきた。


「……どうしたの?シド」


いつもと違う様子に少し不安になる。父と会って、何かあったのだろうか?

「実は、しばらく神殿を離れなければならなくなったんだ」

その一言に私は驚いた。私の『使い魔』であるシドが神殿を離れる事があるなど考えてもいなかったからだ。


「何故?シドは私の『使い魔』でしょう?側に居てくれないと寂しいわ!」


少し声を荒げてしまった私に同意するようにシュウまで「ピュッ!」と声を上げて、テーブルの上で頭を縦に何度も振っている。

「シュウ、お前まで文句を言うな。『居ない間はオレに任せろ』くらい思えないのか?」

レイナードは呆れた声を上げて額を押さえた。そんな彼に向かい、横に首をブンブン振るシュウの姿に少し笑ってしまった。シドも楽しかったのか、眉間にシワを寄せながらも口元は微笑んでいる。

「いつまでかかるかわからないんだ。その間はシュウ、お前がロシェルを守ってくれ」

だけどシュウは不満げな声しかあげない。私もそれには激しく同意した。


「イヤです、シド!ならば私も一緒に行きます!」


私の一言に「は⁈」「ピャッ⁈」と二人が揃えて声をあげた。『使い魔』同士何か通じるものでもあるのだろうか?


「『使い魔』が出掛けるのに、主人が同行しないなどおかしいわ!しかもシドは異世界から召喚されているのよ?この世界の事を全く知らないのに神殿を出るなど無茶です!」


シドが握ってくれている片手に、自分も手を重ねて強く包む。この手を離したくないという思いを込めて。

「待ってくれ、ロシェル。君はこの国を出た事があるのか?森の危険性は認識しているのか?」

レイナードに指摘され、私は声を詰まらせた。どちらの経験もないのに、『同行させろ』とは確かに無茶だったかもと認めざるおえない。でも、シドを一人で行かせるなど絶対にイヤだ!

「私は魔法が使えます!地図も読めますし、基本的な旅の知識はちゃんとあるわ!」


旅の経験が無い事は伏せた。

だけど、嘘はついていないわ!


「目的地は『最果ての森』だと聞いている。かなり危険な場所なのだと。そんな場所にロシェルを連れてなど——」

その言葉を聞き、私は最後までシドの言葉を聞かずに「尚の事一人でなど行かせられないわ!」と悲鳴に近い声で叫んだ。

「魔物が多く居るのよ?貴方だけでなど無理よ!」

「神官の一人が同行してくれるそうだから大丈夫だ、そんなに心配するな」

「神官は戦闘職ではないわ。魔法に関しては私の方が腕は上よ。私が行きます」

真剣な顔でキッとシドを睨みつける。神官達の能力を信頼してはいるが、今回に関しては話が別だ。

「……ロシェル」

我儘を言わないでくれとシドの顔に書いてある。でも、やっと得られた全ての感情を吐露出来る相手なのに、離れるなんて絶対に耐えられない。


「……俺には判断出来ない。カイルに直接訊いてくれないか?だが、ロシェルの同行など俺は反対だ。その事は忘れないでくれ」


強く、ハッキリとした拒絶に体が震え、どちらからともなく手を離す。行く宛のなくなった私の手はスカートをギュッと掴んだ。

「……わかりました。今から父さんに訊いてきます」

シドの顔を見られないまま頷き、肩に飛び乗って来てくれたシュウと共に、私は私室を出て父の執務室へと向かった。




「父さん!」

ノックもしないまま、私は父・カイルの執務室の扉を両手でバンッと開き、大きな声で叫んだ。

「ロシェル?どうしたんだい?」

乱雑になっている机の奥で父が頭を上げ、私の来訪に驚いた顔をした。シドから聞いていた通り少し顔色が悪く疲労が滲み出ている。いつもならそんな父を気遣い、側に仕えている事が多いセナはそこに居なかったから、他に仕事があったのかもしれない。


「シドが『最果ての森』へ行くと聞いたけど何故なの?彼が行くなら、私も行くわ!」


反対されようが絶対に説得してみせる決意を胸に父へと告げる。淑女としてあるまじき仁王立ちの状態なうえに、鼻息も荒げてしまっていたかもしれないが、気を使う余裕もない。


さあこい! どんな事があろうと、私は——!


「行くって……まぁ良いけど。足手纏いにはなっちゃダメだよ?」

「え!——い、いいの⁈」

父がアッサリ許可してくれた事に、私は逆に驚いた。『反対される前提で来たのに、何故⁈』と、どうしたって思ってしまう。 こんな簡単に認められていいものなの⁈拍子抜けもいい所だ。

「レイナードが一緒なら問題無いんじゃない?神官の誰かを同行させようと思っていたけど、ロシェルに任せようか。あ、でもそれだと道案内は別に必要だから……そうだな、サビィルを一緒に連れて行ってもらおうかな」

そう言ったかと思うと、父は机で再び作業をし始めた。何かを作っているみたいだ。もしかして魔法具だろうか?

「……えっと、ありがとう」

拍子抜けしてしまい、声が小さくなった。私の昂ぶった気持ちは何処へぶつけたらいいのだ。

「じゃあ、後はイレイラに任せるね。もうレイナードは客室に戻っていると思うから行ってみて」


「あの……父さん?」

「ん?」

「ところで、何故シドは『最果ての森』なんかに行かないといけないの?」

「魔法具の材料を揃える為にだよ」

「魔法具?古代魔法をまたおこなう予定があるの?」


「……え?」


父が突飛な声を出し、作業中だった手を止めてゆっくり顔をあげる。『何か変な事を言っただろうか?』と不思議に思いながら答えを待っていると、表現し難い困惑した顔の父と目が合った。


「あー……聞いていなかった?うん、そういえばそうだよねー、そうだったよねー」


と、棒読みで父が言う。

「えっとね、これは……レイナードを、元の世界に送還する魔法の為だよ」

「……何故?シドは私の『使い魔』よ?どうして帰さないといけないの?」

「そこからか!」

クシャッと髪をかきあげ、父がため息を吐いた。

「えっと……召喚対象だったのはシュウだったんだけどね、シュウが首に巻き付いていたせいでレイナードは古代魔法に巻き込まれて此処へ来たんだけど、それも聞いてないの?……ロシェルも同席している中で話した内容なんだけどねぇ……」


聞いていない。


シドはそんな事私に教えてはくれなかったわ。私は……シドに信用されていないのだろうか?それとも私が『使い魔になってくれ』とお願いしたから?我儘を聞いてくれているだけなの?『お友達が欲しい』と本心をいきなりぶつけたから言い難くなったの?——そう思うと、ギュと胸が苦しくなった。

「あー……。ほら、巻き込まれただけだから、レイナードは早急に帰してあげないと。彼は元の世界でしっかりとした立場のある人だからね」

「で、でも、シドは私のお願いを聞いてくれているわ。私の『使い魔だ』って、私を『主人だ』って言ってくれて……」


(巻き込まれただけだというのなら、何故、彼はそんな事をしてくれているの?)


力無い声しか出ない。彼の本心を思うと、怖くて仕方がなかった。

「……そうだね。『今は』そうだと思うよ。でも、用意が整えば、レイナードは異世界へ帰る」


(シドが帰る? 居なく、なる?……イヤだ、そんな——)


首を振って、無言のまま勝手に足が後ずさる。そんな私を見て、父はとても真剣な顔つきになった。

「……ロシェル、お前は何故その事を嫌だと思うのか、よく考えた方がいいよ。そしてお互いによく話し合って。もう僕がどうこう干渉出来る事じゃないからね」

もっともな父の言葉に、私は言葉を返せなかった。


頷き、無言のまま執務室を出る。 でも父は私に向かって特に声を掛けてはこなかった。作業に集中したかったからとかではなく、言わねばならぬ事はもう伝えたからという感じだった。

シドの考えている事はわからないが、彼が側に居てくれている間だけでも……主人らしくいよう。こんな行為がお詫びになるとは到底思えないが、せめて彼の望むままを叶えてあげなければと、強く思った。


(でなければ、私の我儘に巻き込んでしまった彼の側に、私が居る事など出来ないわ……)


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