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#海辺の町
サンドイッチを半分食べたところで、ディアビレはようやく平静を取り戻したふりをした。ふりだけで、本当は全然戻っていない。
「別に、助けなんて要らなかったんですけど」
口をついて出たのは、いつもの強がりだった。言った瞬間、自分で少し嫌になる。けれど、素直に助かったとはまだ言えない。
ジナウタスは呆れた顔もせず、ただカップをひとつ取り出してコーヒーを淹れ始めた。喫茶室の器具の位置まで、もう普通に把握しているらしい。
「要らないなら、サンドイッチを返せ」
「それは無理です」
「だろうな」
湯気がふたりの間にのぼる。喫茶室の狭い明かりの下で見る横顔は、ホテルの廊下で見る時より少しだけ柔らかい。
ディアビレはわざと顔をしかめてみせた。
「私は、ひとりでも平気です」
「知ってる」
「だったら」
「平気なのと、助けが要らないのは別だ」
言い返せずに黙ると、ジナウタスはコーヒーを差し出した。その目が少しだけおかしい。
「本音はもっと可愛いはずだ」
あまりにさらりと言うものだから、意味が遅れて届いた。頬に熱が集まる。手に持ったカップまで急に重くなった。
「な、何ですかそれ」
「思ったまま言った」
「やめてください」
「無理だな」
真顔で返されるのがいちばん困る。ディアビレは顔を隠すようにカップを持ち上げたが、熱いのは中身だけではなかった。初めて、言い返す言葉が本当に見つからない。
窓の外の夜は静かだったのに、店の中だけ心臓の音でうるさかった。
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