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数日後、館内の目立つ場所すべてに新しい貼り紙が出た。水平線舞踏会の当日、宿泊客の投票でもう一人だけサプライズ参加者を選ぶという告知だった。話題作りとしては上出来で、朝から投票箱の前には人だかりができた。
ラウールは原稿を持ちながら上機嫌だ。
「こういう予想外、大事なんだよ。舞踏会って、筋書き通りだけじゃつまらないから」
ベジラは笑っていたが、その目は投票箱の向こうばかり見ていた。セルマは何も言わず、ただ紙の束を揃える手つきだけが少し強い。
夕方、開票が行われた。ロビーの一角にスタッフが集まり、宿泊客も遠巻きに様子を見ている。ディアビレは洗いたてのグラスを運ぶ途中で、その輪の端にいた。
「それでは、サプライズ参加者を発表します!」
ラウールが大げさに封筒を掲げる。少し噛みながら名前を読み上げた瞬間、空気が変わった。
「ディアビレさん!」
一拍遅れて、拍手が起こる。客たちの中には「あの写真の人だ」「悪役の人でしょ」と楽しそうにささやく声も混じっていた。
ディアビレはその場で固まった。冗談ではないらしい。フレアが真っ先に手を叩き、ゲティまで口笛を鳴らす。ジナウタスは少し離れた場所で、驚きより先に何かを決めた顔をしていた。
ラウールが金の縁取りのある招待状を差し出す。ディアビレが手を伸ばしかけた、その横から白い指がすっと伸びた。
セルマだった。
「残念だけれど、この子は裏方で忙しいの」
そのまま彼女は招待状を取り上げ、誰も止めるより先に、紙を真っ二つに裂いた。
ぱり、と乾いた音がした。拍手の残りが、一瞬で凍りついた。
#海辺の町