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「……俺って、生きてても意味ないんじゃないかって」
椅子に座った少年は、声を押し殺すように言った。視線は床に落ちていて、手の甲を爪で引っかいている。
 遥は少しのあいだ黙っていた。机の上で組んだ手をほどき、指先で木目をなぞる。
 「意味って、なんだろうな」
 少年は顔を上げないまま、小さく笑った。
 「……親にも先生にも言われたんです。”お前には何もない”って。部活も勉強も中途半端で。友達だって、俺がいなくても困らない。……それって、生きてる意味ないってことじゃないですか」
 その言葉は、どこか遥自身の胸をかすめた。
――家でも、学校でも。「いない方がいい」って空気に押し潰される日々。
意味なんて、望んだことすらなかった。
 「……俺もさ」
 遥はぽつりと口を開いた。
 「何回も思ったよ。俺がいなきゃ、楽になるやつ、いっぱいいるんだろうなって」
 少年は一瞬だけ視線を上げ、遥を見た。その目に宿るのは驚きと、わずかな安堵だった。
 「でもな」
遥は続けた。
「意味って、他人が決めるもんじゃないと思う。親とか先生とか、周りとか……あいつらは勝手に決めつける。でも本当は、”生きてる”ってこと自体がもう意味なんだよ」
 少年の眉がわずかに動いた。
 「……でも、何もできないのに」
 「できないから、意味がないんじゃない。呼吸してるだけで、たとえば誰かの目に映る。誰かの言葉に反応する。それだけで存在してるんだ。……意味なんか、後から勝手についてくる」
 沈黙が落ちた。部屋の空気が少しだけ重たく沈む。
遥はふっと息を吐き、目を細めた。
 「俺だって、まだ自分の意味なんか見つけてない。でも、息してる。……それで十分だって思ってる。だって、終わっちゃったら、探すことすらできないから」
 少年の手が止まった。ゆっくりと顔を上げる。
 「……それでも、生きていいんですかね」
 遥は頷いた。
 「生きていいんじゃなくて、生きてなきゃいけないんだよ。……意味がなくても」
 その声は、相談者に向けたものと同時に、自分自身に押し付けるような響きだった。