「な、なに、どうやって?」
「藤原さんが幸せでいる、以上です」
「は?」
私が幸せでいるのが復讐? それはどういうこと?
「いやいやいや、復讐っていうのは証拠を見つけて、突きつけて、ギャフンと後悔させるっていうのが……」
「それやって、幸せですか?」
「し、幸せかどうかは別として、スッキリはするでしょ!?」
「復讐の本当のゴールはなんですか? スッキリしてそのあとどうなりたいですか?」
どんどん質問をぶつけられて、思わず下を向いて黙り込む。
「……風見さんと復縁することですか?」
永井くんの声が消え入るように小さくなる。すっと顔を上げ、彼の顔を見るときゅるんと潤んだ瞳がこちらを見つめていた。
もう一度、ローテーブルに目を落とす。
復讐の本当のゴールが何かはわからない。ただそこに伊吹との復縁はないと思う。
私のことを大切にしてくれたし、一緒にいた時間はかけがえのないものだった。いまも、伊吹への気持ちが少しだけれど残っている。
だとしても、燎子を選んだのは事実だ。申し訳ないけど、自分のことをフって乗り換えるような男性と、信頼関係を作ることは今後できないだろう。
私のことを大切にしてくれて、一途に思ってくれる人。そんな人をパートナーに選びたい。 私は顔を上げると、彼の瞳をすっと見つめた。
「復縁はしない」
「他の人、探すんですか?」
「そう……だね。うん、すぐは難しいかもしれないんだけど……。いつかは」
「へー」
相変わらず、淡々とした彼の口調。私の気持ちがどうだとかあんまり興味がないのだろう。
「わかりました。復讐計画は三幕構成です」
「さ、三幕?」
「はい。まず一幕は『失恋したけど健気に仕事頑張る女』です」
「はぁ?」
間の抜けたネーミングに首を傾げた。なにそれ?
「藤原さんと、風見さんが付き合っていたことは、社内ではよく知られてますよね」
「そ、そうなの?」
「だと思いますよ。少なくとも営業部は知ってます」
「あー……」
社内恋愛はもちろん禁止ではないし、付き合っているひともチラホラいる。
永井くんのいる営業部と、私の所属する商品企画部はフロアが同じで、お互いの動きはなんとなく見える。
なんかますますやりにくいな。そんな気がしてきた。
「とりあえず、俺が藤原さんと風見さんが別れたらしいってことをそれとなく広めてみますね」
「あ、え……?」
「藤原さんも、誰かに聞かれたら別れたと伝えてください」
「はぁ……」
「あとは、いつも通りで」
いつも通り? まあそれはそうなんだろうけど……。
「いつも通りでいいですし、なんならもっと仕事がんばってください」
「は?」
「残業するとか、朝早く行くとか」
「えっ? な、なんで?」
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