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試験が終わり、奈良公園での散歩をきっかけに、悠真と美咲は自然に連絡を取り合うようになった。最初は勉強仲間として、課題や授業の情報を交換する程度だったが、次第に日常の些細なことまで話すようになった。
「今日、教授が授業中に居眠りしてたよ」 「え、ほんと? それ録音してたら面白かったのに」 そんな他愛もないやり取りが、悠真の一日を少しだけ明るくしていた。
冬休みが近づく頃、二人は大学近くのカフェで会うことになった。小さな店内は暖房が効いていて、窓際の席からは街路樹のイルミネーションが見えた。
「ここ、落ち着くね」美咲がカフェラテを両手で包みながら言った。 「俺は初めて来たけど、いい雰囲気だな」悠真もホットコーヒーを口に運ぶ。
話題は自然と将来のことに移った。美咲は留学への思いを語り、悠真はまだ進路に迷っていることを打ち明けた。 「俺、やりたいことがはっきりしなくてさ。就職か大学院か、まだ決められない」 「それでいいと思うよ。焦って決めても後悔するかもしれないし」 美咲の言葉は、悠真の心を少し軽くした。
その帰り道、駅までの道を歩きながら、美咲がふと立ち止まった。 「ねえ、悠真くん。私たちって、友達……だよね?」 「え?」突然の問いに、悠真は戸惑った。 「もちろん友達だと思うけど」 「そっか。……でも、なんだかそれ以上になりそうな気がする」
美咲の言葉に、悠真の心臓が大きく跳ねた。彼女は照れくさそうに笑い、すぐに歩き出した。悠真はその背中を追いながら、自分の中に芽生えつつある感情を認めざるを得なかった。
年末、二人は再び奈良公園を訪れた。寒さの中、屋台の甘酒を分け合いながら歩く。 「寒いけど、こうやって一緒にいると楽しいね」美咲が言った。 「俺も。……なんか、冬が好きになってきた」悠真は笑った。
その瞬間、美咲が立ち止まり、悠真を見つめた。 「悠真くんって、意外と優しいんだね」 「意外って……どういう意味だよ」 「だって、最初は無口で冷めてる人だと思ってたから」 「ひどいな」 二人は笑い合ったが、悠真の胸の奥では、友情を超えた感情が静かに膨らんでいた。
年が明け、初詣に行こうと美咲が誘った。春日大社の参道は人で賑わい、屋台の匂いが漂っていた。二人は並んでおみくじを引いた。 「大吉だ!」美咲が嬉しそうに笑う。 「俺は……末吉か。微妙だな」 「でも、末吉って伸びしろあるってことだよ」 美咲の言葉に、悠真は思わず笑った。彼女といると、どんな結果も前向きに思えてしまう。
帰り道、境内の灯籠が並ぶ小道で、美咲が立ち止まった。 「悠真くん。私ね、留学のこと、まだ迷ってるんだ」 「迷ってる?」 「うん。夢はあるけど、奈良を離れるのが怖い。……それに、悠真くんと離れるのも」
その言葉に、悠真は胸が熱くなった。だが、すぐに答えを返すことはできなかった。ただ、彼女の隣に立ち、静かに頷いた。
友情から恋へ。二人の関係は、少しずつ形を変え始めていた。 まだ言葉にはできないけれど、心の奥では確かに、恋が芽生えていた。