いやいやいやいや!
惚れてまうやろ!!
肩を抱かれた時の力強さや温かさや、香水か柔軟剤かはわからないけれど、爽やかな、晴れた日の草原のような爽やかな香りまで感じてしまい、私の体温は一気に三度は上昇したと思う。
嬉しい。
が! 恥ずかしい。
それでなくても、鴻上さんには恥ずかしい姿ばかり晒しているのだから。
だから、今更……って思われてるかもしれないけど。
しかも!
立ち寄ったHARUで私と鴻上さんの関係を邪推し、嘲笑う女性たちにも見られてしまった。
彼女たちは私と鴻上さんの物理的な0距離に目を丸くしていたが、私も負けていなかったと思う。
私、この3日で人生の幸運の全てを使い果たしたかもしれない……。
それも仕方がないと、それでもいいと思えるほど、鴻上さんに出会えて、お近づきになれて、嬉しい。
同時に、悲しくもなった。
この先、こうして鴻上さんと肩を並べて出かけ、一緒に食事をするとなると、彼が恥をかくような事態だけは避けなければならない。
普通の美人でも気後れしてしまいそうな極上イケメンなのだ。
せめて、L時々LLの服のサイズを、L時々Mにしなければ!
きっと彼にはまったくもってどうでもいいことだろうが、私は、私にできるせめてもの礼儀と感謝の気持ちを込めて、決意した。
それからもう一つ。
私は相棒。
彼は相棒。
絶対、本気で好きになってはいけない。
好意程度ならば問題ないだろうし、既に好意は持ちまくりなのでどうしようもないけれど、恋愛感情はダメだ。
業務に支障が出る。
ただでさえ恋愛に不慣れな私が、行動を共にする極上イケメンに恋などしてしまったら、汗臭くて申し訳ない。
とにかく、私は決意した。
鴻上さんは相棒。
一緒にいるのは仕事だから。
私が人事部だから。
呪文のように心の中で繰り返していたら、念のような視線を感じた。
私としたことが、目の前には極上のイケメンが座っているというのに、自分の世界にトリップしていた。
「それだけで、足りるの?」
それだけ、とは、シーザーサラダ。
「結構ボリュームあるんですよ」
私はしゃきしゃきとレタスを咀嚼した。
鴻上さんは、シーフードドリアに息を吹きかける。
「デザートは何にする? メロンパフェ?」
「いえ、今日はサラダで十分です」
「……体調悪い?」
「いえ! お昼を食べ過ぎたので、夜はあっさりにしたかったんです。けど、このサラダもチキンが入っているので、そこそこボリューミーでした。あ、少し食べませんか? 私、取り皿を――」
「――そのままでいいよ。一口ちょーだい」
「へっ!?」
鴻上さんは私の手首を掴むと、今まさに口に運ぼうとしていたフォークを自分に向けた。
身を乗り出して、フォークの先のレタスとチキンを口に入れる。
これはっ――!
俗に言う間接キスというものではないだろうか。
「うん。美味しいね」
「そっ、そうです……ね?」
「なんで疑問?」
「いえ! 美味しいです」
私はフォークの先をガン見した。
このまま使い続けていいのだろうか?
「あ、ごめん。口付けちゃったね。気にしないで違うフォークに替えて? 俺は全然気にしないんだけどさ」
そう言いながら、鴻上さんがカトラリーケースからフォークを取り出そうとする。
「私もっ、気にしませんから」
下心などない。
単純に、洗い物を増やしては申し訳ないと思っただけ。
そもそも、間接キスくらいで舞い上がっていてはいけない。
仕事中なんだから!
そう。
私と鴻上さんはエクセで視察中。
O駅前店と一番近い店舗に来たのは、この後、元O駅前店の従業員の佐藤さんに話を聞くためだ。
彼は既に次の職に就いており、十九時以降を希望した。
一緒に食事をすることも出来たが、初対面で、しかも楽しい話ではないことから、食事を済ませてから行く旨を伝えた。
「この店は、若い女性スタッフが多いね? 学生かな」
「あ、はい。えっと、そうですね」
私はバッグの上に置いておいたクリアファイルから、この店舗のスタッフリストとシフト表を取り出して、テーブルの壁際に置いた。
そして、それを見ながら続けた。
「キッチンは男性ばかりですが、フロアは女性が多いですね」
「それは……副店長の好みだったりする?」
「え?」
「あそこで女の子と笑ってんの、副店長のネームプレート付けてたけど」と、鴻上さんが視線を向け、私もその方向をチラリと見る。
フロアの中央で、若い女性スタッフとお喋りをして笑っている男性がいる。
スタッフリストを見ると、副店長は三十三歳で、扶養家族が三人いる。
コールが入り、テーブルを拭いていたスタッフが対応する。
副店長と女性は話し込んだまま。
またコールが入り、副店長と話していた女性が対応に向かった。
「あ……」
副店長が、自分の前を横切った女性の背中に触れた。
「あーあ……」
鴻上さんも見ていて、テーブルの上のアンケート用の鉛筆で、副店長の名前を丸で囲んだ。そして、書き添える。






