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純に勧められて、恵菜も久しぶりにゆっくりと、バスタイムを過ごさせてもらった。
男の人の部屋にいるせいなのか、普段よりも丁寧に髪と身体を洗い、緩やかな波のような濡れ髪も、時間を掛けて乾かす。
純から借りた黒のスウェットに腕を通すと、袖が余って、萌え袖になってしまった。
リビングへ戻ると、純は着替えを済ませ、ベランダへ通じるガラス戸の前で、外の景色を見やっている。
恵菜は、改めて純の部屋を見回した。
単身向けの部屋にしては、けっこう広い。
そこそこ大きめなテレビとソファーセット、パソコンデスクとダッシュボードだけのシンプルな部屋で、リビングの右側にキッチンがある。
ガラス戸に、ぼんやりと映り込んでいる恵菜に気付いた彼が、後ろを振り返った。
「恵菜さん、身体、温まった?」
「はい。すごく気持ち良かったです」
恵菜が純の横に並ぶと、彼に背後からフワリと抱きしめられ、間近に感じる彼の息遣いに、彼女はドギマギしている。
彼の吐息が首筋を掠め、どことなく擽ったくて、恵菜は妙な気持ちを抱きそうになっていた。
「東京の雪…………すげぇ久々に見たな」
「雪が降ると、外は……こんなに明るく見えるんですね……」
恵菜と純は言葉を少し交わした後、しんしんと降り積もっていく雪景色を、ガラス戸越しに眺めていた。
静寂に包まれた中で、仄かに聞こえてくる二人の呼吸。
「あっ……あの…………谷岡さん……」
恵菜は、凛とした雰囲気を壊さないように、遠慮がちに純を呼ぶ。
すると、後ろから抱きしめていた純が、彼女の身体を向かい合わせて、抱き寄せた。
恵菜を優しく見守るような純の眼差しに、胸の奥に甘美な疼痛が広がっていく。
「恵菜さん」
「はっ……はい」
「俺と恵菜さんは…………今、互いの想いを通わせたんだ。俺の事……純って呼んでくれると…………嬉しい」
彼から、下の名前で呼んで欲しい、と言われて、恵菜は恥ずかしくなり、顔を伏せた。