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「ああ、うちの娘ですか? 『美しい花』と書いて、美花ですよ」
女性店主の母は、にっこりしながら答えてくれた。
(マジか……。名前負けしてるだろ……)
「あ、お客さん、もしかして娘の名前と外見が違いすぎるって思ってるでしょ?」
そんな圭の心の声が顔に出ていたのか、女性店主が、ニヤリと唇の口角を上げる。
「あっ……いや……そっ…………そういう事では………なくて……」
圭は図星を当てられ、しどろもどろに言葉を濁らせた。
「いや、いいんですよ。あの子、名前と反するように、ファクトリーパーク立川の中の工場で、リフトマン(フォークリフトオペレーター)の仕事をやってるし、髪の毛も、ほぼパッキン、明るい茶色のカラコン入れて、ギャルみたいな外見でしょ? しかも休みの日はパソコンばっかりいじってるし」
「い……いや…………でも彼女、いつも元気ですよね? 元気なのは……いい事……です……」
ここは何とかフォローしなければ、と、圭は言い繕うが、女性店主の母は回想するように、視線を遠くに辿らせた。
「あの子に美花って名付けたのは、亡くなった夫なんですよ。『美しく花を咲かせる人生を送って欲しい』って願いを込めて」
美花の父が、既に他界している事を聞いた圭は、言葉を失ってしまった。
「けど、あの子が中一の時、交通事故で亡くなってしまって……。夫が遺してくれたお金で、この店を開店して、あの子には苦労を掛けさせて……」
美花の母が、一瞬天を仰ぐと、すぐにまつ毛を伏せた。
「それに……私のせいで…………あの子の……人生…………っ……」
女性店主は、何かを伝え掛けていたが、言葉を呑みながら瞳を潤ませると、圭から顔を逸らしてしまった。
気まずい事を聞いてしまった、と彼は感じ、黙っている事しかできない。
「……っ…………何だか、しんみりしちゃいましたね。お客さん、すっ……すみませんねぇ……」
「あ……いや…………こちらこそ、唐突に不躾な事を聞いてしまって……すみませんでした……」
「お客さん、もうすぐビールが空になりますけど…………もう一杯いきます?」
ビールジョッキが、そろそろ空になりそうなのを見た女性店主が、目尻に溜まった涙を指先で拭いながら、笑顔を作って彼に聞いてきた。
「で……では……頂きます」
カウンターに生ビールが置かれ、圭は喉を湿らせるが、この日に飲んだビールは、普段飲む時よりも、ほろ苦さを感じてしまった。
***