テラーノベル
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放課後の図書室。夕陽が窓辺をオレンジ色に染めている。机の向かいに座ったのは、目を伏せたままの来訪者――高校二年の真里。
真里「……最近、自分が何を話しても作り物みたいで。
本当の自分を言うのが怖くて、つい笑ってごまかしちゃうんです」
日下部「誰かを傷つけないため? それとも、自分が傷つきたくないから?」
真里「……後者、かな。
ほんとの気持ちを出したら、みんな離れていきそうで。
『大丈夫だよ』って嘘をつけば、みんな安心するし、私も嫌われない」
日下部はしばらく黙って、指先で机を軽く叩いた。
本の匂いが、夕焼けの空気と混じる。
日下部「嘘をつくって、悪いことだけじゃない。
その瞬間は、自分を守る鎧になる。でも――ずっと着てると重くない?」
真里「重い。
外すタイミングが分からない。
たまに、自分が何を感じてるかさえ分からなくなる」
日下部「本当の自分を話せる相手が一人でもいれば、鎧を下ろせる。
全部じゃなくていい。たとえば、『今日はちょっと疲れた』とか、
その一言でも十分だと思う」
真里は小さく息を吐いた。
窓の外、校庭の影がゆっくり伸びていく。
真里「……誰か、いるかな。
私、怖いけど――少しだけ話してみたい」
日下部「それができた時、嘘はおまえを守る道具じゃなくなる。
ただの選択肢になる。大切なのは、おまえが選べることだよ」
夕陽が沈みきるころ、真里はほんの少しだけ顔を上げた。
その瞳は、まだ不安を抱えたまま、それでも確かに光っていた。
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