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「お客さん、嬉しそうですね。何かいい事でもありました?」
「いや、俺が担当している仕事が、軌道に乗りそうで……」
圭が、『家庭料理 ゆき』で食事をするようになり、一ヶ月。
三月になり、二〇二四年の年度末というのもあって、ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツも決算で慌ただしい時期となっていた。
副社長だった頃、個人経営の食堂は見向きもしなかった彼だが、DTM事業部に異動になり、フラッと立ち寄った店が、思いのほか落ち着いた雰囲気で、いつしか居心地の良さを感じるようになった圭。
アットホームな雰囲気、とでも言えばいいのだろうか。
降格してから、ほぼ毎日のように、『家庭料理 ゆき』で晩御飯を食べている。
それに、料理も家庭料理と謳(うた)っているだけあって、味付けが優しい。
圭は、鶏の唐揚げ定食を食べながら、ビールを飲み、上機嫌になっていた。
今月最初の週末に、Hanaが来社する事が決定。
日程の調整についてメールを送った時も、本人からすぐに返事をもらえた。
圭がうっすらと笑みを浮かべている時。
「ただいまぁ!」
この店の娘が、店の入り口の格子戸を開け、元気いっぱいに帰宅。
「…………お帰り、美花」
美花と呼ばれた女に、呆れたように苦笑する女性店主のやり取りは、圭の中では、お約束になっている。
(そうだ。この女…………ミカって名前だったな……)
圭は美花をチラリと一瞥すると、明るい髪色を揺らしながら、彼に向き直る。
「あ! おにーさん、いらっしゃいませ。いつもありがとうございますっ」
薄茶の瞳を三日月のように細め、笑みを深められた。
「あ…………どうも……」
挨拶を交わした後、美花はスイングドアを通り抜け、店の奥に消えていく。
(あの女の名前、漢字でどう書くんだろう……)
不意に思った事を、カウンターの内側にいる女性店主に聞いてみた。
「あの…………こんな事を聞くのもアレなんですが、娘さん、ミカさんっていうんですよね? 漢字でどう書くんです?」