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由天。
43話 712スポット 水源の話
朝。
手を洗う音。
蛇口から、
水が出る。
リカは、
背が低く、
前髪が目にかかる。
袖は少し長い。
指の間を、
水がすり抜ける。
冷たい。
当たり前。
「ここって、
どこの水なんだろ」
隣で、
同じ高さの洗面台。
友だちは、
丸い頬で、
髪を後ろで結んでいる。
ランドセルは軽そう。
「水源だよ」
言い方は、
知っているみたいだった。
教室。
机は木。
椅子は少しきしむ。
先生は、
細身で、
背筋がまっすぐ。
眼鏡の奥で、
瞬きをする。
「水は、
止まったことがありません」
黒板に、
番号が一つ。
712。
「昔から、
そうです」
リカは、
ノートに丸を書く。
文字じゃなく、
丸。
休み時間。
校庭の端。
水飲み場。
並ぶ順番。
誰も急がない。
蛇口をひねる。
また、
水。
止まらない。
リカは、
口をつけて、
少し飲む。
味はしない。
それが、
安心だった。
帰り道。
家の前。
靴を脱ぐ。
手を洗う。
また、
同じ音。
止まらない。
今日も、
それだけで、
よかった。