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ℝ𝕒𝕟
269
こぬぬー(響)
120
昼の終わり、教室はまだざわついていた。弁当の匂いと、残った笑い声が混ざって、完全には授業に切り替わらない中途半端な時間。机は元に戻されているのに、空気だけがまだ散らかっている。
遥は席にいた。特に動く理由もなく、ただ次の時間を待っているだけの位置。
横から、机が押される。
少しずれる。
顔を上げる前に、また押される。
「詰めろよ」
声が落ちる。
「邪魔」
短い一言。
机ごと押される。隣の机にぶつかる。逃げる方向がない。
「こっち」
別の声。
後ろから椅子を引かれる。バランスが崩れる。
「ちょっと待って」
言う。
「何が?」
すぐ返る。
笑いが混じる。
腕を掴まれる。そのまま立たされる。
「いいから」
押される。教室の後ろ。ロッカーの前まで。
「ここでいいじゃん」
誰かが言う。
囲まれる。逃げ道が消える。
「なあ」
一人が前に出る。
「さっきからさ」
間を置く。
「普通にいるの、うざいんだけど」
視線が揃う。
理由はそれで終わり。
「……何」
出る。
その瞬間、頬に衝撃が来る。
横から叩かれる。音が遅れて響く。
「質問していい立場か?」
低く言われる。
肩を押される。ロッカーに背中が当たる。
金属の冷たさがそのまま伝わる。
「なあ」
顔を近づけられる。
「なんでそこにいんの?」
距離が詰まる。
答えを待つ形になる。
「……授業、だから」
出す。
間。
そのあと、笑いが漏れる。
「授業だから?」
繰り返される。
「じゃあさ」
すぐに重なる。
「授業だったら何してもいいの?」
腹に拳が入る。鈍い音が体の中で響く。息が抜ける。
体が折れる。
「立てよ」
肩を掴まれて引き起こされる。
「ちゃんと立って答えろ」
支えられる形で固定される。
「何してもいいのかって聞いてんだよ」
詰められる。
「……よくない」
出す。
「じゃあ何でいるの?」
間髪入れずに返される。
言葉が止まる。
「邪魔って言われてんだろ」
頬を掴まれる。指が食い込む。
「どけよ」
押される。
横にずれる。だがその先にも人がいる。
逃げ場はない。
「遅い」
背中を蹴られる。前に崩れる。
机に手をつく。
「動きも遅えし」
別の声。
「反応も薄いし」
重なる。
「存在してる意味あんの?」
笑いが混じる。
肩を引かれる。無理やり体を起こされる。
「答えろよ」
顔を近づけられる。
逃げ場がない。
「……ない」
出る。
間ができる。
そのあと、空気が少しだけ緩む。
「出た」
誰かが言う。
「それだろ」
笑いが広がる。
だが終わらない。
「じゃあ何でいるの?」
また戻る。
同じ位置に。
「いらないなら、どうすんの?」
詰められる。
答えは用意されていない。
「……どく」
出す。
「どこに?」
すぐ返る。
「教室の外?」
笑い。
「授業中に?」
重ねられる。
詰む。
言葉が出ない。
その瞬間、腹に蹴りが入る。さっきより強い。息が完全に抜ける。
声が出ない。
「止まんなよ」
上から言われる。
「続けろ」
強制される。
「……後ろ、行く」
やっと出す。
「後ろってどこだよ」
すぐに否定される。
「そこも人いんだろ」
笑い。
「全部埋まってんの分かる?」
現実を塞がれる。
「なあ」
低い声。
「場所ねえのに、どこ行くつもり?」
逃げ道がないことを確認される。
肩を押される。ロッカーにまた背中が当たる。
「ほら」
誰かが言う。
「じゃあここでいいじゃん」
ロッカーの扉が開けられる。
中は空ではない。体操服や荷物が詰まっている。
「入れよ」
軽く言われる。
意味は分かる。
「無理だろ」
別のやつが笑う。
「だからいいんじゃん」
手が伸びる。腕を掴まれる。
引かれる。
「やめろ」
出る。
「なんで?」
即答。
「やられる側が決めんなよ」
押される。
体がロッカーにぶつかる。中の荷物が崩れる。
「ほら」
背中を押される。
入らない。
無理やり押し込もうとする力だけが増える。
「邪魔なんだよ」
耳元で言われる。
「見えないとこ行けって言ってんの」
力がさらにかかる。
肩が引っかかる。
痛みが走る。
「……入らない」
出る。
「じゃあ壊すか」
笑いながら言う。
冗談の温度じゃない。
腕を引かれる。向きを変えられる。
背中から押される。
金属が軋む。
「ほら、いけるって」
力が重なる。
呼吸が乱れる。
体が折れる。
押し込まれる。
完全には入らない中途半端な位置で止まる。
「中途半端だな」
誰かが言う。
「それもイラつく」
背中を叩かれる。強く。
痛みが広がる。
「閉めろよ」
声が落ちる。
扉が押される。
体に当たる。
閉まらない。
「邪魔」
もう一度言われる。
その一言で、また力が増える。
押される。
挟まれる。
息が詰まる。
「ほら」
誰かが言う。
「収まれよ」
笑い。
押す力は止まらない。
教師の足音が廊下で鳴る。
一瞬だけ手が止まる。
だが、すぐに離される。
扉は半端に開いたまま。
体はそのまま崩れる。
床に落ちる。
周りは散る。
何もなかったみたいに席に戻る。
教師が入ってくる。
教室を一度見回す。
何も言わない。
「席つけ」
それだけ。
遥は床に残る。
立ち上がるまでに少し時間がかかる。
誰も見ない。
ここでは、理由は最初から軽くていい。きっかけさえあれば、それがそのまま形になって、途中で止まることはない。終わるのは外から区切られたときだけで、中で終わることはない。
コメント
1件
うわ……これ、読んでて胸が詰まった。ロッカーに押し込もうとする力の加減とか「邪魔」「収まれよ」みたいな言葉の軽さが、逆に重くてリアルだった。教師が来た途端に散って、何もなかった顔で席に戻る感じ、あの静けさが一番怖いわ。遥の「ない」って答えも辛すぎた。現実の空気感をすごく丁寧に書いてるなって思った。続きが気になるけど、一旦ここでしっかり受け止めたよ。ruruhaさん、この描写の解像度、ガチで刺さった。