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二人が座ったテラス席の向かいには、物語を忠実に再現したムーミン屋敷があった。

その見事な造りに感激した栞は、携帯を取り出して撮影を始める。

写真を数枚撮ってから携帯をバッグにしまうと、直也は待ちきれずに食べ始めていた。

よほどお腹が空いていたのだろう。スプーンを口に運ぶスピードは超特急だ。



「先生、よく噛んでね!」



栞が注意をすると、直也は開き直ったように言った。



「こういうのは、飲むように食べるのが王道なのよ」

「えーっ、それはダメよ! よく噛まなくちゃ! でも、何でそんなにお腹が空いているのですか? 朝ごはんは食べなかったの?」

「朝はいつもコーヒーだけよ」

「うわっ、医者の不養生!」



栞は思わず眉をしかめて言った。



「ほら、早く食べないと、栞ちゃんのももらっちゃうぞ!」



直也はそう言うと、栞のハヤシライスを一口かすめ取った。



「あ、ずるいっ!」



栞はそう叫ぶと、慌てて食事を始めた。

その様子があまりにも可笑しかったのか、直也は声を出して笑った。



食事を終えた二人は、テーマパーク内を回り始めた。

『ムーミン』の作者・トーベ・ヤンソンのミュージアムや、物語を忠実に再現したスポット、シアター型体験施設などをくまなく見て回った。

自然豊かなこのテーマパークを歩いているだけで、物語の世界に迷い込んだような錯覚を覚える。

園内に吹き渡る風は心地よく、真っ青な空が清々しかった。


だいぶ歩き回り疲れた二人は、ちょうど目の前に現れたカフェで一休みすることにした。

そのカフェはブックカフェで、ムーミンに関する書籍を自由に閲覧できるようになっていた。

栞は気になる本を見つけると、コーヒーを飲みながら熱心に読み始めた。その向かいで、直也もパラパラと本をめくった。


カフェで一時間ほどのんびり過ごした後、二人はまた歩き始めた。

しばらく進むと、ムーミン一家が移住した灯台が見えてきた。直也がそこで写真を撮ろうと提案したので、栞はすぐに携帯を取り出し、直也を撮影しようとする。



「栞ちゃん、そうじゃないよ」



直也は栞にそう言ってから、近くにいたカップルの男性に撮影を頼んだ。そして、栞の隣に来ると、彼女の腰に手を回してぐいっと引き寄せる。その瞬間、二人の身体が密着した。



「じゃあ撮りますよーっ、ハイッ、チーズ!」



耳に直也の心臓の音が聞こえるほど、二人の身体はぴったりと寄り添っていた。思わず、栞の顔は真っ赤に染まる。

写真を数枚撮ってもらった後、直也はお礼に、そのカップルの写真を撮ってあげた。

撮影を終えると、二人はカップルにお礼を言ってその場を後にした。



「撮ってもらった写真は、後で送るよ」

「は、はい……」



栞は、まだドキドキと高鳴る胸の鼓動を抑えながら、小さな声で返事をした。


再び歩き始めると、直也が栞に尋ねた。



「もう、大体回ったかな? あと、行きたいところはある?」

「もう大丈夫です。全部回れたので大満足です。それに、もう足がクタクタで……」

「ハハッ、確かにいい運動になったな。じゃあ、あとは売店に寄って帰るか! 約束通り、欲しい物があったらなんでもおじさんに言いなさい」



直也のふざけた口調に、栞がクスクスと笑う。



「じゃあ、お店まるごと買ってくださーい!」

「それはむーりー!」



栞のふざけた言葉に返事をしながら、直也は栞の頭を軽くゴッツンとした。



「痛い~!」



栞はそう言いながらも、その表情は満面の笑みだった。



そして二人は、テーマパークのショップへ入った。

店に入るなり、直也が叫んだ。



「デカいスナフキンあるじゃん!」



直也が指差した方を見ると、そこには大きいサイズのスナフキンのぬいぐるみがどっしりと座っていた。

サイズは1メートル前後はありそうだ。



「えっ? 何であるの?」

「ちょうど期間限定でやってるみたいだね。ラッキーだったな! んじゃ、まずはコレね!」



直也はそう言って、大きなスナフキンを肩に担いだ。彼の背中で、スナフキンの頭が揺れている。

その光景があまりにもミスマッチだったので、栞はクスクスと笑いながら慌てて携帯を出し、こっそり写真に収めた。



(愛花に見せたら絶対喜びそう!)



思わず栞はニヤニヤする。



その後、栞は綾香、愛花、瑠衣への土産を選んだ。悩んだ末三人に選んだのは、ムーミン屋敷の形をした缶に入ったクッキーだった。それをかごに入れてから、直也の傍へ戻る。

すると、直也はスナフキンを担いだままマグカップを見ていた。



「今日の記念にこれも買わない?」



直也は、何種類もある絵柄の中から、栞に好きなカップを選ぶように言った。

栞は悩んだ末、レモンイエローにブラウンの模様の入ったカップを、そして直也はグレーにブルーの模様が入ったカップを選んだ。



「あと欲しい物はない?」



会計の前に直也に聞かれた栞は、首を横に振った。

結局、直也はすべての代金を支払ってくれた。

それを申し訳なく思った栞は、自分からも何か直也にプレゼントしたいと思い、彼に言った。



「私からも先生に何かプレゼントしたいです!」



思いがけない栞の申し出に、直也は驚いている様子だった。



「ありがとう。うーん、じゃあ、ボールペンでも買ってもらおうかな? 仕事で使えるしね!」

「わかりました」



栞は文具コーナーへ向かい、スナフキンとムーミンのマスコットがついたボールペンを2本購入した。

この可愛らしいボールペンが直也の白衣のポケットに刺さっているのを想像するだけで、思わず笑みがもれてしまう。

会計を済ませた栞は直也の元へ戻り、ボールペンの入った包みを渡した。



「こんなもので、すみません」

「ううん、すごく嬉しいよ。ありがとう!」



直也は嬉しそうに微笑んだ。



それから二人はテーマパークを後にし、駐車場へ戻った。

時刻は夕暮れ時に近付いている。

帰りの高速は、夕方の渋滞ラッシュに差し掛かろうとしていたため、東京へ近付くにつれ交通量がどんどん増えていた。

その様子を眺めながら、直也が口を開いた。



「意外と面白かったなー」

「先生も楽しめたなら良かったです」

「うん、楽しかった! 久しぶりに童心に戻れたよ」

「ムーミンは、どの世代にも愛されていますからね」

「オッサンでも知ってるし」

「あ、自分で言ってる」



栞はクスクスと笑いながら、視線を窓の外へ移した。



「この後、どこかで晩御飯も食べて帰ろうか?」



その問いに、栞はうんと頷いた。もう少し直也と一緒にいられると思うと、嬉しかった。


窓の外を流れる景色を眺めながら、栞は今日一日の楽しかった出来事を思い返していた。

沈みゆく夕陽の柔らかな光が、微笑む栞の横顔をそっと優しく包み込んでいった。

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