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放課後の相談室。
窓の外では、夕日が机の上を静かに染めていた。
ノートの端に残る落書き。乾ききらないインク。
空気が、どこか遠くのものみたいに感じる。
向かいの椅子に、蓮司が腰を下ろす。
何も聞かずに、ただそこにいる。
沈黙が流れて、少ししてから、相談者がぽつりとこぼした。
「“大丈夫?”って聞かれるの、正直しんどいんだよね。
言われるたびに、喉が詰まる。
本当は“大丈夫じゃない”のに、
そんなこと言ったら、面倒くさいって思われそうで」
視線は机の一点に落ちたまま。
声も小さい。
まるで、誰かに聞かれたら困るみたいに。
「“大丈夫”って言うと、
相手は少し安心した顔をするでしょ。
それを見ると、あぁ、言ってよかったのかなって思う。
でも、家に帰ると、急に虚しくなる。
何が“大丈夫”なんだろうって……」
蓮司は頷きも相槌も打たない。
ただ、指先で机の角を軽く叩いた。
乾いた音が、二人の間をゆっくり渡る。
「……“大丈夫”ってさ、
本当は、誰かを安心させるための言葉なんだろうな」
彼はそう言って、少し笑った。
けれどその笑みは、まるで夕陽に溶けて消えるようだった。
「でもさ。
その“誰か”の中に、自分を入れてもいいんじゃないか。
自分を安心させるための“大丈夫”でも、
きっと、嘘じゃない」
沈黙。
外ではカラスの声が遠くに響く。
相談者はゆっくりと息を吐いた。
その肩が、ほんの少しだけ下がる。
「……それ、難しいけど、やってみる」
「うん。焦んなくていい」
蓮司の声は穏やかだった。
まるで、壊れものに触れるみたいに柔らかく。
日が沈むころ、教室は青く沈んでいった。
窓に映る二人の影が、少しだけ近づいて見えた。