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つーぴ
103
放課後の相談室。
窓の外では、夕日が机の上を静かに染めていた。
ノートの端に残る落書き。乾ききらないインク。
空気が、どこか遠くのものみたいに感じる。
向かいの椅子に、蓮司が腰を下ろす。
何も聞かずに、ただそこにいる。
沈黙が流れて、少ししてから、相談者がぽつりとこぼした。
「“大丈夫?”って聞かれるの、正直しんどいんだよね。
言われるたびに、喉が詰まる。
本当は“大丈夫じゃない”のに、
そんなこと言ったら、面倒くさいって思われそうで」
視線は机の一点に落ちたまま。
声も小さい。
まるで、誰かに聞かれたら困るみたいに。
「“大丈夫”って言うと、
相手は少し安心した顔をするでしょ。
それを見ると、あぁ、言ってよかったのかなって思う。
でも、家に帰ると、急に虚しくなる。
何が“大丈夫”なんだろうって……」
蓮司は頷きも相槌も打たない。
ただ、指先で机の角を軽く叩いた。
乾いた音が、二人の間をゆっくり渡る。
「……“大丈夫”ってさ、
本当は、誰かを安心させるための言葉なんだろうな」
彼はそう言って、少し笑った。
けれどその笑みは、まるで夕陽に溶けて消えるようだった。
「でもさ。
その“誰か”の中に、自分を入れてもいいんじゃないか。
自分を安心させるための“大丈夫”でも、
きっと、嘘じゃない」
沈黙。
外ではカラスの声が遠くに響く。
相談者はゆっくりと息を吐いた。
その肩が、ほんの少しだけ下がる。
「……それ、難しいけど、やってみる」
「うん。焦んなくていい」
蓮司の声は穏やかだった。
まるで、壊れものに触れるみたいに柔らかく。
日が沈むころ、教室は青く沈んでいった。
窓に映る二人の影が、少しだけ近づいて見えた。
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