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蓮司の相談室2

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蓮司の相談室2

32 - 第32話 “大丈夫”しか言えない

2025年10月31日

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放課後の相談室。

窓の外では、夕日が机の上を静かに染めていた。

ノートの端に残る落書き。乾ききらないインク。

空気が、どこか遠くのものみたいに感じる。


向かいの椅子に、蓮司が腰を下ろす。

何も聞かずに、ただそこにいる。

沈黙が流れて、少ししてから、相談者がぽつりとこぼした。


「“大丈夫?”って聞かれるの、正直しんどいんだよね。

言われるたびに、喉が詰まる。

本当は“大丈夫じゃない”のに、

そんなこと言ったら、面倒くさいって思われそうで」


視線は机の一点に落ちたまま。

声も小さい。

まるで、誰かに聞かれたら困るみたいに。


「“大丈夫”って言うと、

相手は少し安心した顔をするでしょ。

それを見ると、あぁ、言ってよかったのかなって思う。

でも、家に帰ると、急に虚しくなる。

何が“大丈夫”なんだろうって……」


蓮司は頷きも相槌も打たない。

ただ、指先で机の角を軽く叩いた。

乾いた音が、二人の間をゆっくり渡る。


「……“大丈夫”ってさ、

本当は、誰かを安心させるための言葉なんだろうな」


彼はそう言って、少し笑った。

けれどその笑みは、まるで夕陽に溶けて消えるようだった。


「でもさ。

その“誰か”の中に、自分を入れてもいいんじゃないか。

自分を安心させるための“大丈夫”でも、

きっと、嘘じゃない」


沈黙。

外ではカラスの声が遠くに響く。

相談者はゆっくりと息を吐いた。

その肩が、ほんの少しだけ下がる。


「……それ、難しいけど、やってみる」


「うん。焦んなくていい」


蓮司の声は穏やかだった。

まるで、壊れものに触れるみたいに柔らかく。


日が沈むころ、教室は青く沈んでいった。

窓に映る二人の影が、少しだけ近づいて見えた。



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