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「先生!沙良ちゃんと武流くんが…!」
夢菜ちゃんが血相を変えて私を呼ぶ。何事かと思い、すぐに下へ戻った。
「だからアンタは友達がいないんだよ!」
「それを沙良には言われたくないね。俺より先に不登校になったくせに」
「なっ…」
言い争いをしていた2人はら今にも殴り合いになりそうだった。他の子たちはどうしていいかわからず、固まっていた。
「2人とも!そこまでにしよう?」
私の声に応じない2人。これは早急に解決した方がいい問題だと察する。私は仲裁することにした。
「沙良ちゃん、武流くん。ちょっと手伝ってほしいんだけど、いいかな?」
『…はい』
怒ることはしない。力でねじふせても意味が無い。そう、私の先生は言っていた。
「3時間目はクッキーを作ろうと思ってね。でも道具とか材料が車の中だから運んで欲しいの」
2人は声を出さず、私の頼みを聞いてくれた。作業をしている時は言い争いをしない。それは、この2人の真面目さにあるのだろう。
「ねぇ、2人はお互いのことが嫌いなの?」
『大っ嫌い』
「嫌いにしてはよく声がそろうねぇ」
『は!?』
「なっ、合わせてこないでよ!」
「お前こそ俺に合わせに来てんだろ!」
「はぁ!?」
また2人は言い争いを始める。これだと居間にいるみんなにも聞こえそうだ。
「ちょっと、コンテナに行こうか。沙良ちゃん」
「わ、私だけ!?」
「はっwバカはさっさと説教されてこいよ」
「この…っ」
「そこまで。行こう?沙良ちゃん」
沙良ちゃんは下を向いて、武流くんを見て、また下を向いた。その表情は見えなかったが、何となく察しはついた。
「武流くんとどんな言い争いしてたの?」
「武流が言ってきたことに反論してるだけ!言い争いじゃないし」
「武流くんが不登校になった理由は知ってる?」
静かに頷く。それを見て私は話を続けた。
「武流くんは口調が激しいんだよね。少し周りの人より強いだけ。でも、周りの人はそれを怖がっちゃった。だから、それに怯まず、言い返してくれる沙良ちゃんが、武流くんにとって面白い相手なんじゃないかな」
「面白い…相手?」
「うん。知ってる?政治家の人たちは言い争いをするの」
それを聞いて沙良ちゃんは目を丸くした。
「本当に?」
「でも、人格は否定しない」
痛手をつかれたように、沙良ちゃんは眉間にしわを寄せた。きっと思い当たる節があるのだろう。
「さてと、居間に戻っていいよ」
「えっ」
「代わりに、武流くん呼んできて」
沙良ちゃんは素直に応じた。すぐに武流くんはやってきた。
「武流くん、どこからどこまで楽しかった?」
私の質問を聞いて、戸惑いを隠しきれない武流くん。
「沙良ちゃんとの会話。どこまで楽しかった?」
同じ質問をして、答えを待つ。待ち時間は大切な時間だ。
「最初は…ただこうだろって言っただけなんだ。沙良は違うって、俺と違う意見を出して。どこまでっていうか…沙良のことを喋ったら楽しくなくなった」
言葉につまりながらも、ちゃんと教えてくれた武流くんは少し、震えていた。
「うん。そうだったんだね。あのね、1つアドバイスをしてあげる」
アドバイス?とオウム返しをしながら首を傾げる武流くん。うん、と言いながら続けた。
「お喋りは、どこからどこまでがお喋りなのかを考えてみて」
「どこから…どこまでが」
「さてと、休憩時間終わるし…あ、希空さん呼んできてくれるかな?それと、みんなに手を洗ってって言って」
わかった、と言いながらドアを閉める武流くんの顔は、さっきよりも良いものになっていた。
少し経って、ドアが開いた。顔を出したのは希空さんだ。
「入ってきていいよ。ちょっと聞きたいことがあって」
何も言わない希空さんは、まるで私を警戒している猫のようだった。
「希空さんは、お喋りは好き?」
少しの間。そして、はっきりと言った。
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