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# 第十七話 『はじめての休日』
入学から一か月。
学園にも、ようやく最初の休日が訪れた。
朝の男子寮。
廊下はいつもより静かだった。
授業がないため、多くの生徒はまだ眠っている。
しかし――。
コンコン。
「リュシアン!」
「起きてる?」
元気な声が部屋の前に響く。
アルフレッドだった。
中から足音が聞こえ、扉が開く。
「おはよう、アル。」
リュシアンはもう着替えを済ませていた。
「やっぱり起きてた!」
「いつも通りだから。」
「今日は休みなのに?」
「習慣になってる。」
その会話を聞きながら、隣の部屋からレオンハルトが出てくる。
「朝から騒ぐな。」
「ご、ごめん。」
さらに少し遅れて、ノエルも眠そうな顔で現れた。
「……うるさい。」
「ノエル、おはよう!」
「おはようじゃない。」
「あくびが止まらない……。」
その後ろから、身支度を整えたセシルが歩いてくる。
「皆さん、おはようございます。」
「休日でも賑やかですね。」
五人が廊下に揃った。
◇◇◇
「せっかくだし街へ行こう!」
アルフレッドが提案する。
「街?」
「うん!」
「お菓子屋さんもあるし、本屋さんもあるし!」
「薬草店も!」
最後の一言に、リュシアンが少しだけ反応した。
「薬草店……。」
アルフレッドはにやりと笑う。
「興味ある?」
「少し。」
「じゃあ決まり!」
◇◇◇
学園の許可を取り、五人は街へ向かう。
休日ということもあり、大通りは多くの人で賑わっていた。
「すごい人……。」
エリスはきょろきょろと辺りを見回している。
「迷子になるなよ。」
レオンハルトが声をかける。
「は、はい!」
◇◇◇
最初に立ち寄ったのは本屋だった。
ノエルは店に入った瞬間、姿が消えた。
「ノエル?」
探してみると、一番奥で難しそうな魔導書を読んでいる。
「……早い。」
アルフレッドが苦笑する。
「もう見つけてる。」
「面白い。」
ノエルはそれだけ答えた。
◇◇◇
一方、リュシアンは薬草店へ。
「いらっしゃい。」
店主が笑顔で迎える。
棚には乾燥薬草や薬瓶が並んでいた。
「珍しい薬草だ。」
リュシアンは目を輝かせる。
それを見たアルフレッドは、小さく呟く。
「……笑った。」
ほんの少し。
でも、確かに嬉しそうだった。
◇◇◇
「この薬草、おすすめですよ。」
店主が一束の薬草を見せる。
「咳止めになります。」
リュシアンは手に取る。
「ありがとうございます。」
その隣で、レオンハルトが静かに店主へ尋ねた。
「一番効くものはどれだ。」
「え?」
「こいつ、体が弱い。」
リュシアンは慌てる。
「レオン、大丈夫だから。」
「却下。」
「……。」
店主は笑いながら、より効果の高い薬草を包んでくれた。
「毎日煎じるといいですよ。」
「ありがとうございます。」
レオンハルトが代金を払おうとする。
「待って。」
リュシアンが財布を出す。
「自分で払える。」
「俺が払う。」
「でも。」
「誕生日、近かっただろ。」
「……覚えてたの?」
「当たり前だ。」
リュシアンは少しだけ照れくさそうに笑った。
「ありがとう。」
◇◇◇
昼食は広場で食べることになった。
焼きたてのパン。
温かいスープ。
甘い果物。
アルフレッドは頬いっぱいにパンを頬張る。
「おいしい!」
「食べ過ぎです。」
セシルが苦笑する。
エリスも笑いながらパンをちぎる。
そんな穏やかな時間が流れていた。
その時だった。
「……あっ!」
広場の向こうから、小さな泣き声が聞こえた。
幼い女の子が、人混みの中で立ち尽くいている。
「お母さん……。」
周囲を見回しても、親の姿はない。
迷子だった。
リュシアンは立ち上がる。
「行ってくる。」
自然な足取りで少女の前にしゃがみ込む。
「こんにちは。」
優しい声だった。
「お名前、教えてくれる?」
少女は涙をこぼしながら答えた。
「……ミア。」
「ミアちゃん。」
「大丈夫。」
「一緒にお母さんを探そう。」
その一言だけで、少女は少し安心したように頷いた。
◇◇◇
数分後。
「ミア!」
必死な声が響く。
駆け寄ってきた女性が少女を抱きしめた。
「よかった……!」
「ごめんなさい……!」
女性は何度も頭を下げる。
「ありがとうございます!」
リュシアンは穏やかに微笑んだ。
「無事でよかったです。」
母娘が去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、アルフレッドがぽつりと言う。
「やっぱりリュシアンって、すごいな。」
「何が?」
「泣いてる子を安心させるの。」
リュシアンは首を横に振った。
「僕じゃなくてもできるよ。」
「いや。」
レオンハルトが静かに言う。
「お前だから安心したんだ。」
セシルも頷く。
「ええ。」
「あなたの声には、不思議と人を落ち着かせる力があります。」
ノエルは少し考え込んでいた。
「……魔法じゃない。」
「でも現象として興味深い。」
リュシアンは苦笑する。
「研究対象にしないで。」
「善処する。」
「善処なんだ……。」
アルフレッドが笑い、みんなもつられて笑う。
その笑い声を聞きながら、リュシアンも小さく笑った。
穏やかな休日。
前世では、一人で過ごすことの多かった休日。
今は違う。
隣には、一緒に笑う仲間がいる。
(……悪くないな。)
心の中でそう思ったことを、リュシアンは誰にも話さなかった。
-–
**第十七話 『はじめての休日』 終**
コメント
1件
第十七話、読了しました! 休日らしい緩やかな空気感がとても良かったです。特に、アルフレッドがリュシアンの“薬草店”への興味を見抜いて連れて行くところ、レオンハルトが「誕生日、近かっただろ」って覚えていたところがじんわり来ましたね。不器用ながらリュシアンを気遣う仲間たちの距離感が、ほんの短い会話の節々から伝わってきて温かいです。 そして迷子の女の子を「一緒に探そう」と自然に助けるリュシアンの優しさが、この話のハイライトでしたね。最後の「悪くないな」という独白に、彼が「今ここにいる」ことを確かめるような安堵が詰まっていて、読み終えてとても穏やかな気持ちになりました。いいお話をありがとうございます。